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「遠い世界の役だと思っていた」。秋山瑛と永久メイ、『白鳥の湖』に挑む2人のプリマ

  • 2026.6.19
撮影=セドリック・ディラドリアン

『白鳥の湖』。バレエの世界の言わずと知れた名作で、チャイコフスキーが作ったその音楽はあまりに有名でしょう。1800年代後半にロシアで発表されて以降、世界中のバレエ団で改訂を重ねながら上演されてきました。バレエファンにとってもダンサーにとっても思い入れが強い今作に挑む、2人のバレエダンサーがいます。

唯一無二の、特別で神聖なバレエ

9月に東京バレエ団で上演される『白鳥の湖』の全幕公演で、初めて主演のオデット/オディール役*1に臨む秋山瑛(あきら)さんと永久メイさん。同団の看板ダンサーとして数々の舞台に立つ秋山さんと、ロシアで躍進を続けながらゲストとして出演する永久さんは、それぞれ所属するカンパニーで多くの主要な役柄に次々と挑戦し、名実ともに日本を代表するダンサーとなりつつありますが、オデット/オディールは特別な役なのだといいます。

「まさか自分がやるとは……と、初めてキャスティングされることを聞いたときは消極的な思いもあったのが正直なところです」と話すのは秋山さん。バレエ団における最高位のプリンシパルとして多くの作品で成功を収める秋山さんですが、全幕公演でオデット/オディールを演じるのはこれが初のこと。「私自身は、自分が理想とするオデット/オディール像とは違うと思っていたので。もっと背が高くて手足も長い、そんなダンサーが踊るイメージで、縁遠い役だと思っていました」

秋山瑛さん。7歳でバレエをはじめ東京バレエ学校で学ぶ。イタリアのカンパニーを経て東京バレエ団に加わり、22年にプリンシパルへ昇格。 撮影=セドリック・ディラドリアン
永久メイさん。モナコ王立プリンセス・グレース・アカデミーを経て2017年にロシアのマリインスキー・バレエに研修生として入団、 21年にファースト・ソリストに昇格。2025年、東京バレエ団『眠れる森の美女』にゲスト出演した。 撮影=セドリック・ディラドリアン

そんな言葉に永久さんも続きます。「私も同様に自分がやる役だとは思っていなかったんです。ほかの作品は自分だったらこうやるなと考えながら観ることもあるけど、白鳥はそんなことを考えたこともなかった。経験があるのは1幕のパ・ド・トロワ*2だけなので、まだ白鳥の“は”の字も知らないという感じでしょうか」

多彩な作品を魅力的に踊る2人からこのような言葉が聞かれたのは、少し意外かもしれません。しかし、それほど『白鳥の湖』はバレエダンサーたちにとっては特別な作品。2人が揃って「まさか」と話すほど、神聖なものがあるのかもしれません。

*1 白鳥に姿を変えられた王女がオデットで、黒幕であるロットバルトが王子を陥れようと引き合わせるのがオディール。黒い衣装に身を包んでいるためオディールは“黒鳥”と称されることも。主演がオデット、オディールの2役を務めることが多い。

*2『白鳥の湖』第1幕のジークフリート王子の誕生日を祝う席で、男性1名女性2名で踊るシーンのこと。

「メイちゃんはバレエに選ばれし人」「瑛さんは触れられない妖精!」

永久さんが東京バレエ団の作品に主演するのはこれが2度目のこと。2025年に出演した『眠れる森の美女』のオーロラ姫も大変な好評を博しました。「出演についてはロシアで友佳理さん*3から伺ったのが最初でしたね。10代からずっとロシアにいたので、じつは日本のバレエ団はちょっと怖いイメージがあって……。でも東京バレエ団はダンサーやスタッフの皆さんのコミュニケーションが深くて和気あいあいとしている。皆さんがサポートし合っている温かな空気の中に迎えてくださってほっとしました。そんな場所でまた全幕を踊ることができるのはすごく楽しみです」

2025年、東京バレエ団『眠れる森の美女』よりオーロラ姫を踊る永久さん。可憐でありながら安定したテクニックを要し、無二のオーロラ姫を作り上げた。 ©Shoko Matsuhashi

「バレエ団のみんなもすごく楽しみにしていました。メイちゃんが来るよって」と秋山さんが応えると、「本当に皆さん仲がいいんですよ。仲よく話されてると先輩後輩がわからないくらい」と昨年の様子を振り返る永久さん。分け隔てのないバレエ団の空気は、チームワークなしでは成り立たない完成度の高いパフォーマンスの源なのかもしれません。

久しぶりに会ったというこの日、再会を喜ぶ2人。互いの写真を見合っては「かわいい!」という言葉が飛んだ。 撮影=セドリック・ディラドリアン

またお互いの印象については「メイちゃんは本当に妖精のようなダンサーです。雑誌で見ているとお姫様みたいな。バレエに選ばれし人というか……。会うまでは仲よくお話しできるかなと不安だったんですが、実際はサービス精神旺盛でとっても楽しい人。メイちゃんの白鳥が楽しみです」

2023年、『ジゼル』で主演する秋山さん。悲しみの淵で愛する人を思う美しくも儚いジゼルは、同年開催のオーストラリア公演でも絶賛を博した。 ©Koujiro Yoshikawa

「私は、初めて会ったときはあの秋山さんだ……!と思って感動した覚えがあります。瑛さんにしかできない繊細な踊りをされる方。触れられない妖精、まさにシルフィード*4という感じです。瑛さんのオーロラ姫はみんながイメージするプリンセスでした」

2人のパートナー、王子役を務めるのは、永久さんが柄本弾さんで、秋山さんは大塚卓さん。「柄本さんと一緒と聞いてさらに驚きました。恐れ多いですが楽しみですね」(永久さん)。「お互いに初役同士なのでドキドキですが、卓くんはドラマティックな演技と踊りが魅力の人。何度も組んでいるので心配はしていません」と秋山さん。 撮影=セドリック・ディラドリアン

*3 東京バレエ団団長の斎藤友佳理さん。長く同団で活躍し、ロシアの各劇場に客演するなど、ロシアのバレエ界でもその名が知られる。

*4 2025年に東京バレエ団で上演された『ラ・シルフィード』。スコットランドの森を舞台に、詩人の青年と妖精シルフィードが出会う物語で、秋山さんは主演のシルフィードを演じた。

一糸乱れぬ群舞も必見

『白鳥の湖』は長い歴史がある分、世界各地で改訂演出が作られ、多様なバージョンがあります。今回上演されるのは1953年にロシアの振り付け家、ウラジーミル・ブルメイステルが完成させたもの。「ブルメイステル版はプロローグやエピローグもしっかりあるので、演劇的要素が強い作品。ドラマ性がありますよね」(秋山さん)。物語の流れもわかりやすく、初めてバレエを観るという人にもうってつけでしょう。

撮影=セドリック・ディラドリアン
撮影=セドリック・ディラドリアン

取材当時はまだ稽古が始まる前でしたが、役作りについて尋ねると、「いまはどちらかというとオディールの方が役の輪郭をイメージしやすいです。一緒に場面を作り上げるキャラクターも多いので。2幕なんかは幕が上がるとオデットが舞台にひとりで登場するので、震えます」と秋山さん。「これからリハーサルが始まるのでまだ未知の世界ですが、自分なりのオデットを探したいと思っています」と語る永久さんのオデット/オディールにも期待が高まります。

2024年の東京バレエ団『白鳥の湖』より。中央がオデット、沖香菜子さんとジークフリート王子、宮川新大さん。 © Koujiro Yoshikawa

ほかに同役を務めるのは、プリンシパルとして十分な経験を積み、細やかな感情表現とたしかなテクニックで観客を魅了する沖香菜子さん。すでに何度か全幕で主演した経験をもつ沖さんのブラッシュアップした姿も見逃せません。また『白鳥の湖』では、コール・ド・バレエと呼ばれる群舞も見どころのひとつ。何十人もの息がひとつに合わさった東京バレエ団のコール・ドは世界的にも評価が高く、一糸乱れぬ繊細な白鳥たちの踊りは、必見の価値があります。

公演は2026年9月から。東京公演を始め全国で上演の予定があります。ぜひお出かけください。

撮影=セドリック・ディラドリアン

ブルメイステル版 『白鳥の湖』全4幕

©Shoko Matsuhashi
東京公演

9月9日(水)18時30分~
オデット/オディール:永久メイ(ゲスト)
ジークフリート王子:柄本 弾

9月10日(木)18時30分~
オデット/オディール:秋山瑛
ジークフリート王子:大塚卓

9月11日(金)18時30分~
オデット/オディール:沖香菜子
ジークフリート王子:宮川新大

9月12日(土)12時30分~
オデット/オディール:秋山瑛
ジークフリート王子:大塚卓

9月12日(土)18時30分~
オデット/オディール:永久メイ(ゲスト)
ジークフリート王子:柄本弾

9月13日(日)13時00分~
オデット/オディール:沖香菜子
ジークフリート王子:宮川新大

会場:新国立劇場オペラパレス
料金:S席17,000円ほか

京都公演

9月17日(木)18時30分~
オデット/オディール:沖香菜子
ジークフリート王子:宮川新大

会場:ロームシアター京都 メインホール
料金:S席13,000円ほか

西宮公演

9月19日(土)14時~
オデット/オディール:永久メイ(ゲスト)
ジークフリート王子:柄本弾

会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
料金:S席13,000円ほか

堺公演

9月21日(月・祝)14時~
オデット/オディール:秋山瑛
ジークフリート王子:大塚卓

会場:フェニーチェ堺 大ホール
料金:S席13,000円ほか

詳細はこちら(リンク先):東京バレエ団 公式サイト

撮影=セドリック・ディラドリアン ヘア&メイク 石川ユウキ(秋山さん)、藤原リカ(永久さん) 衣装協力=マックスマーラ ジャパン 取材・文=八木あきほ

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