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個の時代の婚姻をめぐる5つの物語。凪良ゆうが描く「人と人が一緒に生きる」とは

  • 2026.6.18

本屋大賞ノミネート作『星を編む』から2年半。『流浪の月』『汝、星のごとく』などで愛の真実を描き続けてきた凪良ゆうの新作『多類婚姻譚』が完成した。現代の社会構造の中、ありふれた人生を送ることの困難さと、人が人を思うことに焦点を当てた本作について話を聞いた。

photo: Kenya Abe / text: Hikari Torisawa

凪良ゆうの新刊『多類婚姻譚』が発売。人と人が一緒に生きるとは。個の時代の婚姻をめぐる5つの物語
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現実を見つめ今を生きる人活写する『多類婚姻譚』

『多類婚姻譚』の主人公は、38歳の大手食品会社の管理職、同社で派遣社員として働く27歳、実家を継いでブックカフェを始めた44歳、その弟で食品会社勤務の30代、星付きレストランで活躍する47歳のシェフ。5人の人生のひとときを描いた5編が連なる、連作短編小説だ。

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「結婚というテーマありきで走ったのではなく、その都度自分が興味を持っているものを書いていきました。3つ目に置いた『小鳥たち』は、書店を応援するアンソロジー企画のために書いたのですが、それ以外は1つの媒体に1編ずつ発表したもの。婚姻譚と銘打ってはいますが、主人公たちの誰もが結婚していない、“非・婚姻譚”でもあります」

同棲、婚活、離婚、婚約、愛人関係と、登場人物と婚姻との関わりから、婚姻制度とその不備までもが透けて見えてくる。

「個人がどう生きるかという時代に婚姻という現行の制度があって、結婚しようとすると何かを我慢したり曲げたりしなくちゃいけない。でもそこを譲りたくない、譲れない人もいるよね、という、個が尊重される現代における婚姻の物語です」

例えば「Beautiful Dreamer」の主人公・花織は九州から上京してきた27歳。

「結婚、妊娠、出産、子育て、キャリアを積むこと、それに加えて若い女の子としての価値を保つことも求められる。影武者がいなければこなせないんじゃないかと思うほどに多くのことを要求されるのが、今の20代半ばから30代の女性だと思うんです。

東京に実家があったり、学歴や秀でた才能があったりする人がいる一方、そうではない人が東京で一人、将来の不安なく生きていけるルートはあるのか?自立して生きたくてもその術(すべ)がない、闘う武器がないというのは性別にかかわらずしんどいし、そのしんどさを抱える人が現実に存在している。だからこそ、しっかり書きたかった部分です」

数十ページの短編の中で、切実に生きる登場人物の姿勢が、思考がふっと変化する、清々しいほどの瞬間に立ち会うことも。書き割りではない、体温と重量を感じさせる人物がいて、各編が緩やかに接続することで、人の多面性に触れられるのも連作ならではの楽しみだ。

「男性を主人公に据えた『Position Talk』を書いたときは、若手の男性編集者さんにたくさん話を聞いて、律という人物像を一緒に作っていきました」

「発言をするときは基本的配慮を欠いていないかを考えるのが当然で、けれど多様性を重んじる今の時代、基本的配慮の基本部分が人によってちがうことも多々ある」と、仕事の場でもプライベートでも日々意識して生きる30代の会社員が律だ。

「描写する年代の人たちに実際に話を聞いて初めてわかることがたくさんあるんですよね。彼らと話すことで、自分の持っている価値観の古さや感覚のズレに気づく瞬間もあった。すごく勉強になりました」

家族や社会からの問いや要請もあり、誰もが結婚について考えている。いくつもの価値観やその揺らぎが小説の中に立ち現れては、重なったり反発したり。「己の正しさを最上位に置いている人間と話すのは死ぬほどめんどうくさい」と考えるような人物も、心変わりや浮気をする人物も登場する。

いくつもの思いと迷いと決断があり、後悔と反省があり、そのどれもが正しさや正しくなさによって切り捨てられることなく小説は進む。

「この物語では、誰かの価値観を否定する書き方はしたくないなと思っていました。みんながみんな理解し合えるとも思わないけど、お互いを認められようとそうでなかろうと、どこまでも向き合っていかないといけないのが結婚というものですから」

嫉妬、不満、傲慢、軽蔑といったネガティブと分類され得る感情に光を当てて丁寧に描き出す。この難技をするりと読ませるのが凪良ゆうという作家の真骨頂だろう。

「現実では全然スマートに振る舞えるタイプではなくて、あのときああ言えばよかった、あの言葉で人を傷つけてしまったかもしれない、と反省したり落ち込んだりすることばかりです。それをためてためて、現実では言葉にできなかったことを書く。反省と後悔が私に小説を書かせているのかもしれません」

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profile

凪良ゆう

なぎら・ゆう/作家。代表作に『流浪の月』『美しい彼』など。本屋大賞、ブランチBOOK大賞などを受賞した『汝、星のごとく』が横浜流星、広瀬すずのダブル主演で実写映画化。2026年10月公開予定。


Information

凪良ゆうの新刊『多類婚姻譚』
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『多類婚姻譚』

結婚は人生最高の幸せ?それとも?セクシュアリティ/ジェンダー、世代、立場の差異と多様な価値観に囲まれて現代日本をサバイブする20代、30代、40代の男女の姿を描いた連作短編小説。講談社/2,090円。

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