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歌人・枡野浩一が解説。人々の共感を呼ぶ、“伝わる短歌”が生まれる背景と極意

  • 2026.6.9

五七五七七の31音で多様な感情や情景を切り取る短歌は、SNSを起点にブーム継続中。人々の共感を呼ぶ“伝わる短歌”が生まれる背景と極意を、歌人の枡野浩一が解説した。

text: Kazuaki Asato / edit: Emi Fukushima

歌人・枡野浩一が解説。人々の共感を呼ぶ、“伝わる短歌”が生まれる背景と極意
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31音で伝える、一瞬の情景と心情

短歌は、生きづらさを抱えた者の味方──歌人の枡野浩一さんは、そう語る。枡野さんの口語短歌は「かんたん短歌」とも呼ばれ、現在の短歌ブームの礎になった。令和に入って短歌がますます盛んになっているのは、現代社会の息苦しさに理由があるという。

「今って日本がどんどん貧しい国になっているし、生きづらさを抱えている人も増えている。石川啄木の“はたらけど/はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る”に象徴されるように、短歌って人生に苦しむ人に向いた表現なんです。だから短歌を作ることで救われようとする人が増えたのではないでしょうか」

SNSのおかげで気軽に短歌を発表できる状況もブームを加速させた。

「そもそもインターネット以前は、歌壇という歌人たちのグループに所属している人がもっぱら短歌を作っていたんです。だけど、ネットの発達とともに誰もが発表できるようになり、今ではSNSで短歌がバズる時代になった。短歌に触れる機会が多くなり、漫才ブームのように“自分にもできるかも”と思う人が増えたのでしょう」

短歌はささやかな一瞬の情景や感情をわずか31音で伝える。その極意について訊(き)いてみた。

「僕の場合は、リアルであることを大事にしています。これまた啄木の言葉に“食(くら)うべき詩”というのがあって、彼は香の物のような短歌を作りたい、と言っていたんですね。僕もそんな感じで日用品のような普段の言葉遣いを心がけてきました。短歌で昔の難しい言葉や、気取った言い回しを使うと、それだけでさまになったと勘違いしてしまう。

できる限り、そうやって小手先でごまかすことは、やめた方がいい。例えば初歩的なことですけど、短歌では“ありゃしない”って言葉を入れる人がなぜか多いんですが、そんな言葉、日常では使わないじゃないですか。ありゃしないなんて言っていいのは、忌野清志郎だけです(笑)」

正直に「本当に思っていること」を書くことも大切だという。

「本心から離れた短歌は作らないようにしています。短歌と実人生がどんなに乖離(かいり)してもいいとなると、みんなカッコつける方向に行ってしまうんです。昔は短歌の主人公は作者である、という前提が共有されていましたが、最近は短歌をフィクションで作る人が増えている。これは僕が古いタイプの歌人であるからかもしれませんが、短歌って人生込みだと思うんです。

自分の器に見合った歌こそが、伝わる。それにフィクションでいいなら、最近注目されている生成AIの方が風変わりなものを作れるかもしれない。歌人の生存戦略としても、リアルは手放しちゃいけない気がするんです」

ちなみに枡野さんは「フットサル短歌」の誕生に期待しているそう。

「乱暴な私見ですが、フットサル好きは人生が充実したタイプが多くて作る短歌がつまらない(笑)。逆に言うと“趣味:フットサル”で短歌のうまい人が現れたら注目したくなりますね」

枡野さん自身、親しんできた短歌を刷新する“現代短歌”を作ってきたわけだが、新たな表現を生み出すために必要なことはなんだろうか。

「たくさんの短歌を知ることが大事ですよね。今なら各社からアンソロジーが出ているので、そこでお気に入りの一首を見つけ、その作者の歌集を全部読む。いろんな歌を知れば自然と“自分なら、こう書くかも”とツッコミながら作るようになるので、そこで新規性が出てくる。また、他ジャンルの言語表現に触れることも大事です。演劇でもお笑いでもテレビコマーシャルでもいい。息の長い活動には、言葉や表現の膨大なストックが不可欠です」

作者の等身大の気持ちを、あらゆる言葉と表現を総動員して表現するのが“伝わる”現代短歌だ。その観点から枡野さんが選んだ6首を見てみたい。

いつ死ぬかわからないのにどうやって海へ行く日を決めるのだろう

pha

作家、書店員で元ニートのphaが2023年に発表した『少しだけ遠くの店へ』(自主制作本)に収録。「積極的に死のうとしなくても、人の命は有限です。その大前提をわざわざ言葉にすることで、“海へ行く日”への漠然とした憧れや、期限がわからないからこそ実行に移せない自分のふがいなさを伝える、せつない一首です」

たった今、今の今まで持っていたペンをどこかになくしてしまう

工藤吉生

『ドラえもん短歌』(枡野浩一編、小学館)で短歌に興味を持った工藤吉生『沼の夢』(左右社)の一首。「悪夢めいた人生を“ぬらっ”と生き延びている歌人の、どこか可笑(おか)しみのある日々。手に持っていたペンが見当たらなくなった、という、ささやかすぎる出来事……こうして短歌として提示されると、人生の象徴のようです」

くるぶしを波にまかせている夢の浜はあなたと来たことがない

山階基

第1歌集が人気を博した山階基の第2歌集『夜を着こなせたなら』(短歌研究社)384首中の一つ。「気になっている“あなた”と、かつて一緒に訪れたことのある場所も、あったのでしょう。けれど、夢だと自覚しているこの夢の中の浜には、いつも一人でいる。くるぶしまで波があり、あなたの不在をまた強く意識している」

やくしまるえつこになりたい人がいる
なってごらんとえつこは思う

水野しず

イラストや文筆で才能を発揮する水野しず『抜け出しても抜け出しても変なパーティー』(左右社)から。「やくしまるえつこさんになりたい人は、大勢いると思います。そんな人々に対して、彼女は“なれるものならなってごらん”と思っているだろう……という勝手な想像を、まさに本人に成り代わって歌にすることの奇妙さ」

がんばっていれば誰かが見てるって言ったねきみじゃないってことね

脇川飛鳥

『かんたん短歌の作り方』(筑摩書房)出身の歌人・脇川飛鳥『ラストイヤー』(自主制作本)に収録。「“がんばっていれば誰かが見てる”と言ってくれた“きみ”にこそ、がんばっている自分のことを見ていてほしかったのでしょう。けれども“きみ”が見ていたのは別の人だった。励ましの言葉が今、悲しい響きに変わります」

生活はそんなに上手なほうじゃない/短い橋を渡って帰る

加藤千恵

歌人、小説家の加藤千恵、22年ぶりの歌集『友だちじゃなくなっていく』(ステキブックス)より。「“橋”は普通、非日常の場所へと移動する手段の象徴ですが、この“短い橋”は、非日常が“短い”ことを表しているのでしょう。日常生活自体“そんなに上手なほうじゃない”と自覚する語り手の、屈託が伝わってきます」

枡野浩一的、共感を呼ぶ短歌を作る3ヵ条

・日常会話で使われるような自然な口語を用いる。
・“自分が本当に思っていること”を言葉にする。
・同時代、他ジャンルの言葉の表現に数多く触れる。


profile

枡野浩一(歌人)

ますの・こういち/1968年東京都生まれ。2022年刊行の『毎日のように手紙は来るけれどあなた以外の人からである 枡野浩一全短歌集』(左右社)は現在10刷。

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