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一穂ミチの新作短編集! 見えない猫を愛し、元妻の幽霊と暮らす。普通ではない存在にすがる人々の“異様な執着”に胸が熱くなる物語【書評】

  • 2026.6.17
たぶん、恋しい 一穂ミチ/新潮社
たぶん、恋しい 一穂ミチ/新潮社

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人は多かれ少なかれ、不安や孤独、喪失感といった痛みを抱えて生きている。それらが溢れて心が決壊しないよう、自分だけの心の拠りどころを持っている人も多いだろう。家族や恋人、もしくは「推し」や好きなエンタメ作品が、それにあたるのかもしれない。そんな、しんどい毎日を生き抜くための依存――言い換えれば「愛する」という営みの多様なあり方を可笑しくも切なく伝えるのが、本書『たぶん、恋しい』(一穂ミチ/新潮社)だ。

直木賞を受賞した連作集『ツミデミック』や、長編『光のとこにいてね』、『アフター・ユー』も話題を集めた一穂ミチ氏の最新作は、6作から成る短編集だ。それぞれの短編には、周りからは不可解に思える言動をしたり、普通ではない存在を愛していたりする、少し変わった人物が登場する。

「見えない猫」を愛する恋人、甥・恋人とともに姉探し…美しい6つの短編物語

たとえば、「エンパイアライン」で主人公が恋した女性・マリは、飼っている猫を最優先する生活を送っている。マリがやっと愛猫に会わせてくれるという日、マンションで猫と戯れるマリの手の先には、何もいなかった。仕事でメンタルをやられたマリの心の支えになってきた見えない猫の存在を、徐々に受け入れていく主人公。しかし、彼が本物の猫を拾い飼い始めたことでふたりの温度は変化していき――。

「わたしたちは平穏」には、薄味好き、大きな感情の揺れが苦手という共通点で心を通わせ、共に暮らす井子と若月という恋人同士が登場する。ある日、井子は家の中に、華やかな雰囲気の美女がぼんやりと存在していることに気付く。若月のアルバムから、彼女は、濃い味付けが好きで情熱的だった若月の元妻・麗華だとわかる。井子と若月、麗華の独特な関係と秘密をひやりとした空気が包む、美しい短編だ。

「すげぇ泣くじゃん」は、大阪で暮らす遼のもとに、姉の息子である甥の一(はじめ)が、3年前に自分のもとを去った母を一緒に探してほしいと訪ねて来る物語。ニュース映像に映った一の母は、パンダが日本を去ることを悲しみ、肩を震わせ泣いていた。一は、自分と離れた時は泣かなかった母に会ってみたいと言う。遼の恋人・藍も交えた3人で母を探しに行く道中で、遼と姉の思い出も掘り起こされていき――。

周囲に明かせない執着を持つ人々に、そっと寄り添う1冊

一穂氏は『アフター・ユー』刊行時のインタビューで、「人が持っている嘘とか秘密にずっと興味がある」と語っていた。本書の各短編が描くのも、人が抱える謎だ。不思議な行動の理由が明かされる時、彼らが抱える悲しみや大事なものが露わになり、胸が熱くなる。

周りに言えない異様な執着や、言語化できない心の安全地帯を持っている人は多いのではないだろうか。それを誰にもわかってもらえない状態は孤独でもある。そんな読者は、この物語で生きる人たちの思いに、エピソードや依存先は違っても、共感できるところがあるはずだ。本書は、心を避難させながら静かに戦ってきた私たちに「あなたはひとりじゃない」と告げて寄り添ってくれるような、優しい1冊だ。

文=川辺美希

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