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“退職金2,000万”を受け取り→『運用で増やしていこう』と投資に回すが…6ヶ月後、60代男性を直撃した“想定外の事態”

  • 2026.7.5
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。FPとして家計相談やお金に関する情報発信を行っている柴田です。

「これだけまとまったお金があれば、しばらく安心だと思っていたんです」そう肩を落とすのは、昨年38年勤めた会社を定年退職したAさん(61歳・男性)。手にした退職金は2,000万円超。その安心感から、退職後すぐに、まとまった額を投資へ回し始めました。ところが半年も経たないうちに、思いがけず資金繰りが苦しくなっていったのです。

「退職金が大きいから大丈夫」の落とし穴

Aさんの頭にあったのは、「これだけあるのだから、運用で増やしながら暮らせばいい」という考えでした。退職金という大きな数字を見て、お金の心配から解放された気持ちになったのです。

そのお気持ち、とてもよくわかります。長年働いて受け取る大金ですから、つい「当面は安泰だ」と感じてしまうものです。しかし退職後の家計は、現役時代とはまったく違う構造に変わります。そこを見落とすと、大金があってもお金が回らなくなってしまうのです。

退職した翌年が、実は一番お金が出ていく

Aさんを直撃したのは、退職翌年に届いた請求でした。住民税と社会保険料です。

ここで知っておきたいのが、これらの「時期のズレ」です。住民税は、前の年の所得をもとに計算され、翌年に支払う仕組みになっています。つまり退職した翌年は、収入が大きく減っているにもかかわらず、現役で高い給料をもらっていた年の所得を基準に課税されるのです。

社会保険料も同じです。会社を辞めると健康保険は任意継続や国民健康保険に切り替わりますが、国民健康保険の保険料は前年の所得をベースに決まります。任意継続の場合は退職時の給与額をもとに計算されますが、いずれも現役時代の収入水準を反映した保険料になるため、思った以上の負担になるケースがあります。

Aさんのもとには、住民税と国民健康保険料を合わせて、想像をはるかに超える額の請求が次々と届きました(なぜ任意継続を選択しなかったのかを聞いたところ、うっかり退職後20日以内という申請期限を過ぎてしまったとのこと)。「収入は激減したのに、税金や保険料だけは現役並み。これは完全に計算外でした」とAさんは振り返ります。

年金が出るまでの「空白期間」

さらにAさんはもうひとつのギャップにはまっていました。年金が出るまでの「空白期間」です。

退職して、すぐに年金が満額もらえるわけではありません。受給開始までには時間があり、その間は基本的に無収入の状態が続きます。本来であれば、この期間の生活費は、手元の現金でまかなう必要があります。

Aさんも、この空白期間の存在自体は頭では分かっていました。問題は、その認識が甘かったことです。「年金が出るまでの数年くらい、退職金が潤沢にあるのだから、少し運用に回しても大丈夫だろう」と高をくくり、本来は手をつけるべきでない生活資金まで投資に回してしまっていたのです。ところが、いざ生活費が必要になったとき、頼みの運用は相場が下がっている局面。「増やすつもりが、損を出してでも取り崩すしかない」という、もっとも避けたい状況に追い込まれてしまったのです。 

「退職金で投資デビュー」が一番あぶない

実はAさんには、もうひとつ見落としていたことがあります。それは、今回が「人生で初めての投資」だったということです。

普通の会社員が、生涯でまとまったお金を手にする機会は、退職金と遺産相続くらいしかありません。なかでも退職金は、長年の働きへの報償という性格があるぶん、「自分の意思で使いたい」という気持ちが働きやすいお金です。

特に気をつけたいのが、退職に伴って近づいてくる存在(金融機関)です。金融機関にとって、退職者はまとまったお金を預けてくれる大切なお客様です。だからこそ、丁寧に話を聞き、親身に提案してくれます。

まとまった退職金が振り込まれたあと「資産をお持ちのあなたに、特別な商品があります」のような宣伝文句で近づいてくるケースは少なくありません。しかし、相手が関心を寄せているのは、あなた自身というより「あなたの退職金」なのです。

筆者の経験上、「退職金で投資デビュー」は避けたほうがよいと感じています。提案された商品が「良いものか、悪いものか」が判断できないうえに、Aさんのように退職後のマネープランが崩れる可能性があるためです。退職金を受け取ったら、欲求や不安に振り回される前に、まずは今後のお金の流れを「見える化」することが大切です。

まとめ

退職を機に投資を始めること自体は悪くありません。問題は、慣れていない人が、まとまったお金を投じてしまうことです。

退職後の生活で苦労する事態を避けるためにも、当面1〜2年分の生活費に加え、退職翌年に来る住民税・社会保険料の分まで現金で確保しておきましょう。これらを別枠で確保しておけば、相場がどう動こうと生活は揺らぎません。投資に回すのは、そのうえで残った「当面使わないお金」だけ。しかも、慣れていないなら少額から、少しずつ始めるのが鉄則です。

退職金は、長年の働きが形になった大切なお金です。だからこそ、増やすことを焦る前に、まず「これから出ていくお金」をしっかり見積もっておきましょう。


出典:厚生労働省「会社を退職後にやることガイド」

出典:総務省「個人住民税」

執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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