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『マジカル・シークレット・ツアー』有村架純&天野千尋監督が語る、“変わりゆく母親像”を作り上げるまで

  • 2026.6.14

有村架純が主演を務め、黒木華、南沙良が共演する映画『マジカル・シークレット・ツアー』(6月19日公開)。『ミセス・ノイズィ』(20)、『佐藤さんと佐藤さん』(25)で日本映画批評家大賞脚本賞を2度受賞した天野千尋監督が、2017年に中部国際空港で主婦たちが“金の密輸”で逮捕されたという実際の事件に着想を得たオリジナルストーリーだ。

【写真を見る】凛とした表情が印象的…初めて本格的な母親役に挑んだ有村架純を撮りおろし

映画では二児の母、大学の研究員、そして妊婦、一見犯罪とは無縁そうに見えるものの、実はそれぞれに事情を抱えた3人が偶然出会い、金の密輸という秘密を共有することによって絆を深めていく様子を描いている。夫の横領と解雇を知り、突然借金を背負うことになった二児の母・和歌子を有村が演じ、ともに金の密輸をする共犯者として、奨学金という名の借金600万円の返済に追われる研究員・清恵を黒木、貯金ゼロで未婚の妊婦・麻由を南が演じている。シンガポールでの大規模ロケを敢行し、魔法のようにきらびやかで危うい金密輸の旅路を、本場の空気そのままにスクリーンに映しだす。

実際の事件に着想を得たオリジナル作品で“金密輸事件”の物語を描く [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
実際の事件に着想を得たオリジナル作品で“金密輸事件”の物語を描く [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

そんな本作で、初めて本格的な母親役に挑んだ有村と、天野監督を直撃。じっくり話し合って作り上げたというキャラクターへの想いや、撮影の舞台裏、自分らしく生きるために心掛けていることまでたっぷりと語ってもらった。

「周りに合わせて生きている人が、人生を自分の力で漕いで変わっていく姿を見せたいと思った」(天野)

天野千尋監督が、実際の事件に着想を得たオリジナルストーリーを描き出す 撮影/杉映貴子
天野千尋監督が、実際の事件に着想を得たオリジナルストーリーを描き出す 撮影/杉映貴子

——本作は、実話に着想を得た天野監督によるオリジナル作品です。作品をつくり上げるなかで大切にしていたこと、描きたいと思っていたポイントをお聞かせください。

天野千尋監督(以下、天野)「題材は金を密輸するという、ある意味サスペンスであり、犯罪ものです。もちろんそれも描きたいことではあったのですが、どっちかというとキャラクターを描きたいという想いがありました。特に主人公の和歌子は、自分でものを決めるのがあまり得意ではないタイプです。これまで周りの目を気にして周りに合わせて生きてきた人が、密輸を通じて、人生を自分の力で漕いでいくように変わっていく姿を見せたいと思っていたので、キャラクターをどう作って、どのように変わっていくのかを、撮影前から有村さんとたくさん話しました」

——有村さんは、天野監督が描きたかった和歌子というキャラクターをどのように感じられましたか?台本の感想などとあわせてお聞かせください。

有村架純(以下、有村)「いま、監督がおっしゃたように、周りに合わせて生きてきたというところは、まさにそうだなと思いました。自分自身が納得してすべてを選択してきたかというと、多分そうではなくて。納得しようと咀嚼していたみたいな。例えば、家族からも『あんたはいつもこうじゃん!』って言われて、そうじゃないっていう感情はあっても、『そう…か。私ってこうなんだ』って。そういう思考になっていたのかな?と感じました。多分、和歌子には自信を与えてくれるような人が周りにいなかったのかなとか、そういう環境に身を置いている人ってどんな思考になっていくかな、みたいなことを考えていました」

塩野瑛久演じる和歌子の夫・高志は、会社の金を横領して解雇される [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
塩野瑛久演じる和歌子の夫・高志は、会社の金を横領して解雇される [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

——そういった“思考”のような部分をお2人で話し合いながら作り上げていったのですね。

天野監督「話し合いました。またリハーサルの時には、有村さんと夫の高志役の塩野(瑛久)さんとで、和歌子と高志になってお互いに質問し合うという、エチュードみたいなことをやりました。その時に有村さんが和歌子としておっしゃったことで、『あ、和歌子ってこういう人なんだ』と気づけた部分もありました。印象的だったのが、密輸事件が起きる前の夫婦関係について訊ねた時に、有村さんが『私、日々のちっちゃいことで高志に怒られたりするんです』みたいなことをおっしゃっていて。“怒られる”ってある意味、ちょっとした上下関係というか。高志との間にそういう関係性が前提にあると捉えているんだと、気づくことができました。多分、私の思考だと、“怒られる”という言葉は出てこないと思うんです。有村さんのそういう細かい言動から和歌子というキャラクターについて気づくことがいろいろとありました」

——有村さんは、塩野さんとのやりとりのなかで浮かんだことなのでしょうか。それとも、台本を読んだ段階でそう感じたことなのでしょうか。

有村「リハーサルでどういったことをやるのかはわからなかったので、準備したものではないのですが、2人がどういう関係性から夫婦になったのか、夫婦生活を送るなかで、どんな関係に変わっていったのかを塩野さんや監督と掘り下げていくことで、その背景が見えてきた気がします」

——有村さんは、本格的な母親役は本作が初。母親役を通して表現において発見したことや気づきなどはありましたか?

有村「私は子どもを出産した経験もないですし、子どもを育てた経験もないので、そこはどうしたって本当のお母さんには敵わないですが、 (吉里)紀汰くんと才真くんの子役の2人が常に頑張って現場に立っていてくれて、一緒の時間を共有した事実と体感が母親としての感情に持っていってくれたので、2人に感謝です。私1人では多分、たどり着けなかったと思います」

有村、天野監督が自分らしく生きるために心掛けていることは? 撮影/杉映貴子 ヘアメイク/新山いずみ(有村架純) スタイリスト/瀬川結美子(有村架純)
有村、天野監督が自分らしく生きるために心掛けていることは? 撮影/杉映貴子 ヘアメイク/新山いずみ(有村架純) スタイリスト/瀬川結美子(有村架純)

——撮影中は、母親の目線のようなものをご自身のなかに感じることなどもあったのでしょうか。

有村「すごく小さなことですが、才真くんは0歳児なのでまだいろいろと食べたり飲んだりはできないのですが、紀汰くんには『これ、紀汰くんが好きそうなグミだから買っていってあげよう』みたいな目線が買い物中にふと出てきたりというのはありました。紀汰くんが好きそうなゲームを見つけたら『一緒にやろうかな』とか」

天野監督「休憩中とかも結構、紀汰くんと一緒に遊んでくれたり、なんならちょっと母親っぽく注意したりとかもあって」

有村「しちゃってましたか…(笑)」

天野監督「『紀汰、ダメだよ』って感じで。母親みたいって思うことは何度もありました」

「2人とも力が抜けているのにパワーがある」(有村)

金の密輸を通して仲間と絆を深めていく [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
金の密輸を通して仲間と絆を深めていく [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

——有村さんには、共演の黒木さん、南さんとのお芝居の感想を、天野監督には3人が揃った時の現場でのやりとりや、お芝居の印象を伺いたいです。

有村「2人とも力が抜けているのにパワーがあるというか。力んでないのに、持っているエネルギーがどこまであるんだろうって。その未知な感じに、もっといろんなお芝居を一緒にやってみたいなと思いました。南さんはもちろんお話もするけど、じっと静かに現場にいらっしゃることもあるなかで、本番になったらちゃんと麻由という奔放なキャラクターを捉えて表現されていく。そのスイッチの切り替えがすごいと思いました。黒木さんは現場での佇まいが凛としているのはもちろんなのですが、すごい男前でかっこよくて。スタッフさんたちにもいつも話しかけたりして。そんなふうにコミュニケーションを取っている姿から、こうやって現場をいつも作られているんだなとか。すごく勉強になりました」

天野監督「3人でのお芝居は、シンガポールでのシーンが多いですね。脚本にはないアドリブ的なお芝居をやってもらうシーンも多くて。例えば、ポスターにも使われている金塊をかじるシーンは、かなりの長回しでドキュメンタリーみたいに撮影しました。3人がワイワイお酒を飲んだり、料理を食べたり、笑ったり、はしゃいだりするのを本当に長いカットで撮らせてもらっているのですが、3人とも本当に和歌子と清恵と麻由として楽しんでいるんです、当たり前なんですけど(笑)。そうか、3人はこうやって時間を共有したんだな、と私自身が教えてもらっているような感覚でした。脚本にはない3人の時間を見せてもらえてよかった、そんな感じがしました。」

【写真を見る】凛とした表情が印象的…初めて本格的な母親役に挑んだ有村架純を撮りおろし 撮影/杉映貴子 ヘアメイク/新山いずみ スタイリスト/瀬川結美子
【写真を見る】凛とした表情が印象的…初めて本格的な母親役に挑んだ有村架純を撮りおろし 撮影/杉映貴子 ヘアメイク/新山いずみ スタイリスト/瀬川結美子

——シンガポールでのロケはいかがでしたか?

有村「すごく楽しかったです。滞在期間の1週間は結構みっちり撮影だったので、観光はあまりできなかったですが、シンガポールでは現地のクルーの方たちがすごく献身的にサポートしてくださって。高い熱量で取り組んでくれていたのが印象に残っています」

天野監督「アツさでいったら、私たちを上回っているような(笑)。質の違うパッションを感じました」

——和歌子、清恵、麻由。3人それぞれが自分の意思で人生の選択を下していく物語が描かれます。「自分らしく生きる」ために心掛けていること、大切にしていることはありますか?

天野監督「いろいろあって迷うけれど、私は睡眠をしっかり摂ることです。たとえば撮影中は、いろいろと準備や考えることも多く、どうしても睡眠を削りがちになるじゃないですか。そうするとやっぱり心も頭も小さく、狭くなってしまう気がして。どうでもいいことですごく悩んでしまったり、気にしなくていいことにこだわり始めてしまったり。自分が追い詰められていく感じがするんですよ。しっかり眠れば広い心になれる。頭もスッキリした状態だと、現場も落ち着いて臨めます。映画はいろんな人が関わるからこそ、思いがけないこととか、奇跡が生まれたりするけれど、 そういうのもやっぱり寝てないと見逃してしまうんです。ちゃんと睡眠をとって臨めばそういうのも掴むことができるので。撮影に限らず、実生活もそうだなって思っています。睡眠は大事です!」

有村「確かに大事ですね。私は、喫茶店で過ごす時間ですかね。喫茶店は基本的にのんびりしているし、そんなにガヤガヤしている場所でもない。みんなコーヒーや紅茶を楽しみに来ているから、そういう場所って心がチクチクしないというか。1回リセットされる感じがあります」

有村架純が演じるのは、夫の横領と解雇を知り借金を背負った二児の母・和歌子 [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会
有村架純が演じるのは、夫の横領と解雇を知り借金を背負った二児の母・和歌子 [c]2026「マジカル・シークレット・ツアー」製作委員会

——本作では“旅”が3人の人生を変えています。有村さん、天野監督の人生を変えた“旅”エピソードがあれば、ぜひお聞かせください。

有村「私は番組でノルウェーに行ってオーロラを見たことです。感じ方や考え方が、これまでとは変わるみたいな感覚はあると思います。ぜひまた見たいです!」

天野監督「オーロラ!いいなぁ。私は旅じゃないのですが、大学生のころに中国に留学して。そこで出会った韓国人の友人たちの部屋で、中国、韓国、日本の映画をたくさん観ました。イ・チャンドン監督の『オアシス』とか、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』など本当にたくさん観て。その時に映画、そしてアジアの映画のおもしろさを知りました。それがあっていま映画を作っているので、ある意味で人生が変わりましたね」

取材・文/タナカシノブ

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