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ファッション賢者が狙う「ニッチヴィンテージ」とは? “わかる人だけわかる”が新ステータス

  • 2026.6.11
Penske Media / Getty Images

2026年のメットガラでは、ヴィンテージドレスはほとんど存在感を示さなかった。ゲストたちは、マチュー・ブレイジーによる「シャネル」や、ジョナサン・アンダーソンによる「ディオール」、さらには“新生”「ミュグレー」の最新ルックをまとって登場。まるで“アーカイブ回帰がトレンド”というムードに異議を唱えるかのようだった。カンヌ国際映画祭でもその傾向は続き、デミ・ムーアやケイト・ブランシェットといったスターは、カスタムメイドのドレスやランウェイで発表されたばかりの新作に身を包んでレッドカーペットに現れた。

だが、一部のファッション関係者の間では、ヴィンテージ服、特にニッチなヴィンテージへの熱狂は、かつてないほど高まっている。ニューヨークを拠点とするアーカイブショップ「Vintage Grace」の創設者、チャンドラー・ガターセンはランウェイ史に精通したアーカイブのスペシャリスト。彼女が集めた貴重なピースは、アリアナ・グランデやゼンデイヤをはじめ、多くのスターたちにも愛用されている。「初めてロー(・ローチ)がショールームに来たとき、私はジョン・ガリアーノ時代の『ディオール』を見せました」と、圧巻のアーカイブをカメラ越しに映しながら、Zoom取材で彼女は振り返る。「すると彼は、『素晴らしいけど、もっと新しいもの、もっと違うものは?』と言ったんです。彼のおかげで、本当に価値のある宝物は、みんなが欲しがっているものではないと気づかされました」

「ヴィヴィアン タム」1998年春夏コレクション。 Penske Media / Getty Images
二コラ・ジェスキエールによる「バレンシアガ」2006年秋冬コレクション。 Fairchild Archive / Getty Images

ガターセンにとって、ガリアーノ時代の「ディオール」やトム・フォード時代の「グッチ」は依然としてファッション史の頂点だが、本当のお宝は、“知る人ぞ知る”という空気感をまとったピースだ。「エルメス」(特にジャン=ポール・ゴルチエやマルタン・マルジェラが手掛けた時代のもの)、1980〜'90年代の「ヴィヴィアン・タム」(彼女によれば価格は「爆発的に」上昇している)、そしてニコラ・ジェスキエール時代の「バレンシアガ」などが、その代表例だ。「2000年の『バレンシアガ』のスーツを2着持っていて、最高の自分を演出したいイベントや場面では、そのどちらかを着ています」と彼女は話す。「そしたら以前、ファッション系のランチ会で『それ、ジェスキエール?』って聞いてきた人がいて。彼女はわかっていたんです」

マルタン・マルジェラによる「エルメス」2000年春夏コレクション。 Penske Media / Getty Images

高級リセールプラットフォーム「The RealReal」によれば、過去1年間にアメリカで購入された衣料品の約30%がセカンドハンドだったという。そんなヴィンテージ人気の高まりはファッション業界にとって興味深いタイミングで起きている。現在、ブレイジーとアンダーソンはそれぞれ「シャネル」と「ディオール」でブランド再生をけん引しており、「ジバンシィ」や「ロエベ」、そして近く「ヴェルサーチェ」でも新時代が本格始動しようとしている。レアなアーカイブピースを扱う、世界初のヴィンテージレンタルプラットフォーム「Isle of Monday」の創設者、ガブリエラ・カロータとジャネル・グレイ=ギルバートは、こうした終わりなきデザイナーの交代劇は、顧客の購買傾向にも影響を及ぼしているという。

「現行コレクションが盛り上がると、そのブランドのヴィンテージへの需要も急増します」とグレイ=ギルバート。「人々は当時のデザイナーに敬意を表したいし、いま起きているファッション界のムーブメントに、自分も参加している感覚を求めているのです」

「ヴェルサーチェ」1995年秋冬オートクチュールコレクションでシルバーのミニウエディングドレスをまとったケイト・モス。 Victor VIRGILE / Getty Images

カロータとグレイ=ギルバートは、スタイリストやキュレーターとのコネクションを持つセレブはヴィンテージの探し方そのものが一般客と異なると指摘する。「セレブは他人が持っていないものに惹かれます。手に入らないからこそ、さらに特別な価値を感じるのです」とグレイ=ギルバートは語る。それは派手で分かりやすい「ロベルト・カヴァリ」や「エミリオ・プッチ」の代わりに、フリーダ・ジャンニーニによる2010年春夏の「グッチ」コレクションのようなマニアックな言及を好む感覚だ。

その好例が、アレキサンダー・マックイーンとジョン・ガリアーノだろう。ファッション界のアンファン・テリブルとして知られるふたりの名を冠したブランドは、入手困難かつ高額であっても、ファッション関係者にとって垂ぜんの的だ。しかし、ガリアーノがわずか1年、マックイーンが3年足らずという短い在任期間だった「ジバンシィ」時代のピースを着ている人こそ、本当にヴィンテージを見る目がある人なのだ。カルト的人気ヴィンテージショップ「James Veloria」のブランドン・ヴェロリアは「セレブの間では、より希少でニッチなコレクションへの流れがあります」と語る。

レディ・ガガは映像作品「メイヘム・レクイエム(MAYHEM Requiem)」のプレミアでアレキサンダー・マックイーンによる「ジバンシィ」の1997年秋冬コレクションピースを着用。 Kevin Mazur / Getty Images

こうしたニッチなデザイナーピースを着ることには、いくつもの意味が重なっている。それらは生きた芸術であり、自分が本当にファッションを理解していることを示すだけでなく、同時にマイケル・コース時代の「セリーヌ」や、ステラ・マッカートニーによる「クロエ」の知る人ぞ知るドレス(ヴェロリアのチャイナタウンの店舗では即完売するという)を探し出せるだけの資金と人脈を持っていることの証でもあるのだ。

ステラ・マッカートニーによる「クロエ」1997年秋冬コレクション。 Penske Media / Getty Images

ブランド名だけではなく、どの時代かも同じくらい重要だ。たとえば’70年代後半、ジャンニ・ヴェルサーチェは、現在イメージされる“マイアミ・バイス”的なスタイルを確立する以前はもっとクリーンでシンプルなシルエットを実験していた。当時の作品は今あらためて見ると、まるで別のデザイナーのものかと思うくらいだ。「まるで初期の『ヨウジ(ヤマモト)』とか『コム デ ギャルソン』みたいなんです。マイアミに行ってセックスする前まではね」とヴェロリアは冗談めかして語る。

「ヴェルサーチェ」1980年秋冬コレクション。 WWD / Getty Images

かつては、派手なデザイナーロゴやモノグラムを身につけることこそが、究極のステータスシンボルだった。その後は、ラグジュアリーブランドだとひと目でわかる装いが憧れの対象に。けれど今、ファッションの価値基準は少しずつ変わりつつある。同じコミュニティに属する人にしか伝わらない、知る人ぞ知るコレクションやアーカイブピースこそが、新たなステータスになっているのだ。

では、自分だけの未来のアーカイブを育てるにはどうすればいいのだろう? ガターセンが勧めるのは、「とにかく今から始めること」だ。たとえば、超数量限定の「ラルフ ローレン」のピースや、「アイザック ミズラヒ」による美しいドレスなど。いま心から惹かれる一着こそが、数年後、あるいは数十年後に、自分だけのヴィンテージになっていくのかもしれない。

トップ画像:アレキサンダー・マックイーンによる「ジバンシィ」の1997年秋冬コレクション。


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