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7000年前の「頭のない遺骨」を77体発見、スロバキア

  • 2026.6.9
※ 画像はイメージです/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

スロバキア南西部の野原から、まるで謎めいた考古学的発見が報告されました。

現在の町ヴラーブル近郊にある新石器時代の集落跡で、研究者たちは「頭のない人骨」を少なくとも77体発見したのです。

遺体は集落の入口付近の溝に横たわっており、頭蓋骨が残っていたのは子どもの骨格1体だけでした。

一見すると、7000年前に起きた虐殺や処刑、生贄の痕跡のようにも見えます。

しかしドイツ・キール大学(Kiel University)の研究チームは、これを単純な大量殺害の証拠として扱うことに慎重です。

分析から見えてきたのは、敵に首を切られたというより、死後の遺体から頭蓋骨が意図的かつ比較的丁寧に取り外された可能性です。

7000年前の人々はなぜ、遺体から頭部を取り外したのでしょう?

研究成果は2026年6月2日付で学術誌『Proceedings of the Prehistoric Society』に掲載されています。

目次

  • ヨーロッパ最初期の農耕民が暮らした大集落
  • 「首を切られた」のではなく「頭蓋骨を取り外された」可能性

ヨーロッパ最初期の農耕民が暮らした大集落

今回の発見があったヴラーブル遺跡は、中央ヨーロッパの線帯文土器文化(せんたいもんどきぶんか、LBK)に属する大規模な集落です。

線帯文土器文化は、紀元前5500年ごろ〜紀元前4500年ごろにかけて広がった文化で、ヨーロッパで狩猟採集中心の生活から定住農耕へ移っていく時期を知るうえで重要な存在です。

ヴラーブルの集落は、およそ紀元前5250年から紀元前4950年ごろまで数世紀にわたって存在していました。

遺跡からは300棟を超える家屋跡が見つかっており、集落は3つの居住区に分かれていました。

そのうち1つの居住区は溝で囲まれており、研究者たちは、この溝が集落の境界として機能していた可能性を考えています。

そして問題の遺体群は、この囲いの入口付近から見つかりました。

発見された頭部のない遺骨/ Credit: Martin Furholt et al., Proceedings of the Prehistoric Society(2026)

研究チームは2022年以降の発掘で、少なくとも78人分の骨格を確認しました。

そのうち77体には頭部がなく、頭蓋骨が残っていたのは子どもの骨格1体だけでした。

遺体は整然と並べられていたわけではなく、仰向け、うつ伏せ、ねじれた姿勢など、さまざまな体勢で溝の底に置かれていました。

なかには互いに重なり合うような例もあり、一見すると無秩序に見えます。

ただし、これらは完全に意味のない投棄物だったとは言い切れません。

遺体が集落の入口付近に集中していること、またほかの場所にも頭部を欠く遺体の配置が見られることから、研究者たちはそこに何らかの社会的な意味やパターンがあった可能性を考えています。

さらに初期分析では、これらの人々が亡くなってから埋められるまでに、それほど長い時間は経っていなかったことも示唆されています。

つまり、ただ古い骨が後から寄せ集められたのではなく、死亡後それほど時間を置かずに、遺体が特定の場所へ置かれた可能性があるのです。

「首を切られた」のではなく「頭蓋骨を取り外された」可能性

この発見を聞くと、多くの人はまず「虐殺」を思い浮かべるかもしれません。

実際、77体もの首なし人骨が一カ所から出てくれば、戦争、襲撃、処刑、生贄といった可能性を考えるのは自然です。

しかし今回の調査で重要なのは、研究者たちがそこに慎重なブレーキをかけている点です。

チームは、遺体には意図的な操作が行われた痕跡があると説明しています。

ただし初期分析からは、暴力的に首を切り落としたというより、鋭利な道具を使って、ある程度の技術をもって頭蓋骨を取り外した可能性が示されています。

集中している人骨の画像/ Credit: Martin Furholt et al., Proceedings of the Prehistoric Society(2026)

もちろん、これだけで「暴力はなかった」と断定できるわけではありません。

今後、頸椎(けいつい)に残る切痕の詳細分析や、外傷の有無、遺体の分解過程を調べる法医学的検討が必要です。

しかし少なくとも現段階では、「頭がないから敵に殺された」と単純に結論づけるのは早すぎるのです。

では、取り外された頭部はどこへ行ったのでしょうか。

これも大きな謎です。

チームは、頭部が別の場所に保管されていた可能性を挙げています。

ただし、ヴラーブル遺跡でそのような保管場所が直接確認されたわけではありません。

あくまで、他の先史時代の事例では、頭蓋骨や身体の一部が特別に扱われることが知られているため、可能性として議論されている段階です。

線帯文土器文化の終末期には、集落の溝に遺体や身体の一部が置かれる例がほかにも知られています。

そのなかには明確な暴力の痕跡を示す遺跡もありますが、すべてを同じ説明で片づけることはできません。

ある場所では虐殺が起きた可能性が高く、別の場所では遺体の一部を儀礼的に扱った可能性があるのです。

ヴラーブルの場合、頭部を欠く遺体が多数見つかったことは確かですが、その意味はまだ確定していません。

チームが重視しているのは、当時の人々が「死者の身体」を現代の私たちとはまったく違う意味で見ていた可能性です。

現代社会では、一般的に、人の身体は基本的にその人個人に属するものとして扱われます。

しかし新石器時代の社会では、頭部や骨、身体の一部が、祖先、共同体、儀礼、土地との関係の中で、特別な役割を持っていたのかもしれません。

つまり、ヴラーブルの首なし人骨は、単に「誰が殺したのか」を問うだけでは足りない発見です。

むしろ、「7000年前の農耕民は、死者の身体をどのように理解し、共同体の中でどのように扱っていたのか」という、より深い問いを投げかけています。

現在、チームは回収された骨を整理し、死亡時の年齢や生物学的性別を調べています。

さらに同位体分析やDNA分析によって、彼らがどこから来たのか、何を食べていたのか、互いに血縁関係があったのかも調べられる予定です。

もし遺体の中に、同じ地域で育った人々と遠方から来た人々が混在していたなら、この遺体配置は地域内外の関係性を示す手がかりになるかもしれません。

一方、血縁関係が強く見られれば、特定の家族や集団に関わる慣行だった可能性も出てきます。

ヴラーブルの遺跡は、まだ答えを出した場所ではありません。

しかし、これまで「危機」や「暴力」の証拠として語られがちだった首なし人骨に、別の読み方を与え始めています。

7000年前の人々にとって、頭を失った身体は、恐怖の象徴ではなく、共同体の記憶や死者との関係を結び直すための存在だったのかもしれません。

首のない77体の遺骨は、沈黙したまま、私たちに「死者の身体とは何か」という想像以上に古くて深い問いを突きつけているのです。

参考文献

Headless skeletons offer new insights into farming societies 7,000 years ago
https://www.uni-kiel.de/en/details/news/095-vrable

77 headless skeletons found in a field date back 7,000 years
https://www.popsci.com/science/headless-skeletons-slovakia/

元論文

Neolithic Bodies in Vráble – 7000 year-old Headless Human Skeletons in an Enclosed LBK Settlement in South–West Slovakia
https://doi.org/10.1017/ppr.2026.10082

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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