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「お父さんは来なくていい」娘の言葉で、俺は塾近くの公園で2時間ベンチに座る父親になった

  • 2026.6.6
ハウコレ

俺は40代の会社員で、高校受験を控えた中3の娘がいます。妻が夜勤の看護師のため、平日の夕方は俺が娘の塾の送迎を担当することになっていました。けれどその役目は、思ったよりずっと不器用な形でしか果たせなかったのです。

「お父さんは来なくていい」

ある日、いつものように娘を塾の前まで車で送ったとき、娘が初めて口にしました。「お父さん、もう塾の前まで送らなくていいよ。1人で行くから」。何気ない口ぶりでしたが、後席からの声に俺は、しばらく返事ができませんでした。

理由を聞くと、娘は照れ笑いを浮かべて「友達に見られたら恥ずかしいから」とだけ答えました。「お父さんは来なくていい」。たった一言でしたが、娘が思春期に踏み込んだ証のような言葉でした。

それでも、塾の終わる時間に迎えに行かないわけにはいきません。妻には「1人で行かせると遅くなるから心配」と頼まれていましたし、俺自身もそれは譲れませんでした。塾までは家から車で30分。送って一度帰宅し、また迎えに出るには時間が中途半端すぎる。

スーツ姿でベンチに座る二時間

考えた末、俺は塾から少し離れた場所にある公園で待つことにしました。塾の前にいると娘に見つかってしまう。でも近くにいないと、何かあったとき駆けつけられない。ちょうどよかったのが、塾から徒歩2分の住宅街にあるあの公園でした。

スーツ姿で平日の夕方、2時間もベンチに座っていれば、目立つのは当然のことです。最初は本を読もうと思いましたが、夕暮れの公園で活字を追うのは難しい。結局スマホを眺めたり、コンビニで買った缶コーヒーを飲んだりしているうちに、塾の終わる時間が近づきます。

ある日、近くを通る母親と小さな子どもが、ちらりとこちらを見たまま足早に去っていきました。別の日には、ベビーカーを押した女性が遠回りで通り過ぎていきました。住民から「変な人」と見られているのは、はっきり感じていました。けれど事情を一人ひとりに説明するわけにもいかず、ただ俯いてやり過ごす毎日でした。

声をかけてくれた、ひとりの母親

そんなある夕方、ひとりの女性が俺のベンチに近づいてきました。緊張した面持ちで、それでもまっすぐな声で「あの……いつもこちらにいらっしゃいますね。お子さんのお迎えですか?」と尋ねてきたのです。

ようやく、と思いました。「あ、はい。すみません、不審に見えますよね」と頭を下げて、「娘が近くの塾に通っていて、待ち時間に……」と説明しました。「中3で受験生なんですが、『お父さんは来なくていい』って言うので、近くで待っているんです」。話しているうちに、自分でもおかしくなって少し笑ってしまいました。

女性は驚いた顔をして、次の瞬間、深く頭を下げてくれました。「いえ、こちらこそ……勝手な見方をしてしまっていて」と。その低頭で、ここ数週間ずっと抱えていた窮屈さが、少しずつほどけていきました。

そして...

別れ際、俺は「声をかけていただいて、本当はホッとしました」と口にしました。本心でした。事情を話せない時間がどれだけ続くのか、自分でも見通せなかったからです。

その後、公園で母親や子どもとすれ違うと、向こうから「こんばんは」と挨拶してくれる人が増えました。あの女性が事情を伝えてくれたのだろうと、勝手に想像しています。

受験本番までは、まだ数か月あります。娘は相変わらず「お父さんは来なくていい」と言い続けていますが、俺は変わらず公園のベンチで待ち続けるつもりです。娘が自立しようとしている時間を、近くで黙って守ること。それが、今の俺にできる父親の仕事なんだと思います。

(40代男性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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