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サカナAI伊藤錬が案内する——AIをめぐるニューヨークの旅

  • 2026.6.2
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人と社会と環境のサステナビリティが模索される今、AIは私たちに何をもたらし、どんな未来を拓(ひら)くのか。独創的なアプローチで急成長を遂げる東京発スタートアップ、サカナAI共同創業者・代表取締役社長の伊藤 錬さんが、世界の最前線で得た経験、見た景色とは? 今回は、サカナAIが世界での存在感を高める転換点となったニューヨークでの出来事についてお伝えします。

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<Profile>
伊藤 錬(いとうれん)/サカナAI共同創業者・代表取締役社長

2001年、東京大学法学部卒業後、外務省に入省。在米国日本国大使館勤務を経て、日米安保、日EU経済連携協定交渉に従事。’11年より世界銀行に出向。’15年、メルカリ執行役員に就任。’23年にサカナAIを共同創業。ニューヨーク大学ロースクールとスタンフォード大学で学び、ニューヨーク州弁護士の資格を持つ。

なぜニューヨークなのか?

ウエストビレッジ周辺は、NYUで学生時代を過ごした伊藤さんにとってなじみ深い地域。 Hearst Owned

人工知能開発のスタートアップ、サカナAIの共同創業者・代表取締役社長として、ロンドンと東京の2都市を拠点に、世界各地に飛ぶ日々を過ごしています。子どものころから旅に憧れ、航空機に夢を見ていました。「乗り鉄」ならぬ「乗り飛行機」をすることはずっと憧れでした。このエッセイでは、旅先で得た経験や出会いを紹介しながら、世界のAI事情をお伝えしたいと思います。

AI開発において「大規模化による高性能化」が定石とされてきたなか、サカナAIは集合知や進化といった自然界の原理に倣い、「小さくより賢く」という真逆のアプローチを掲げ、2023年に東京で創業しました。また、日本と世界の良いところをどちらも取り込んでいくというのも我々の信念です。高い技術力を持つエンジニアの同僚を日本からも世界からも招くとともに、資金調達面でも、主としてアメリカ西海岸のシリコンバレーの投資家に支えられてきました。2024年、AI半導体で圧倒的シェアを誇るエヌビディアのジェンセン・フアン氏に直談判し投資を取り付けたことが弾みとなり、サカナAIは国内最速でユニコーン(設立10年以内に評価額が10億ドルを超えた未上場企業)となりました。

日本政府がNYUロースクール附属米国アジア法研究所に寄付を行った際の特別討論に登壇。 Hearst Owned

いくつかの素晴らしい日本企業からも相次いで出資をいただき、2025年には我々の事業は銀行へのAIの実装という形で大きく進展しました。我々にとってその次のステップは、日本国外の金融機関にもビジネスを広げることでした。その舞台は、世界の金融の中心地ニューヨーク。こうして、私のニューヨーク行脚が始まりました。いくつもの銀行の門を叩き、それぞれの反応に一喜一憂し、戦略を練り直し、また別の銀行や投資家を訪問するという日々が続きました。ニューヨークは、学生時代に留学した懐かしい街。ちょっと気持ちが落ち込んだ時には、当時司法試験の勉強の合間に通ったピザ屋で英気を養ってまた翌日に備える──といった滞在でした。

大学脇のワシントンスクエアパークは、学生が学問の合間にひと息つく憩いの場です。 Hearst Owned

そんななか、交渉の糸口が見えてきたのは、米銀最大手の一角である某米銀でした。正直、先方のオフィスでの感触は微妙だったのですが、担当してくれた同年代の女性が階下まで送ってくれ、成り行きで2人で散歩に出ることになりました。今日はもう仕事の話はやめようと言って、ウォール街からトライベッカを抜け、ビレッジまで北上。4月で、ニューヨークの街は新緑が綺麗に芽吹いて、カフェに入ったり、ウィンドウショッピングでお店を冷やかしたりの楽しい午後でした。

行きつけのカフェは、残念ながら閉店に。 Hearst Owned

ちょうど留学先のニューヨーク大学(NYU)まできたところで、少しだけ仕事の話もしようかと大学の校庭にあるベンチに座って、日本のAI屋がアメリカの銀行と組むという不思議な夢を語りました。校庭は白とピンクのマグノリアの花が満開で、相手の目は見ずにずっと頭上のマグノリアだけを見ていたのを覚えています。その後、散歩を再開して、ブライアントパークまでたどりついた時にはとっぷり日も暮れていました。

ニューヨークでの資金調達のハイライト、長い散歩の最後にたどり着いた母校には、シンボルであるマグノリアの花が咲いていました。 Hearst Owned

その晩、投宿先のキタノというホテルで、旧知の支配人に「うまくいくかなあ、どうかなあ」と報告したら、よほど私が不安そうだったのか、夕食に誘ってもらいました。キタノは、マンハッタンでは数少ない日系ホテル。部屋がゆったりしていてバスタブも清潔で、私にとっては家のようにくつろげる空間です。私ごとですが、私の家族も1973年の創業時からお世話になっており、星の数ほどホテルのあるニューヨークでも、今でも私はいつもここに泊まる特別な場所です。

マンハッタンの中心、閑静なマレーヒル地区に位置する「ザ・プリンス キタノ ニューヨーク」。 Hearst Owned

その後、数カ月して朗報が届き、無事に某米銀からの出資にこぎつけることができました。前後して、ヨーロッパやオーストラリアを拠点にするグローバル金融グループも株主に連なり、2025年、サカナAIの企業価値は約4,000億円に。しかしその金額以上に、世界のトップバンクをパートナーに得たことが、グローバルに事業を進める上でのターニングポイントになったと思えます。

こうしてさまざまなステークホルダーがサカナAIに未来を見いだし、期待を託してくださったことに応えられるよう、サカナAIが今後何を目指していくのか。それはまた追ってお話しできればと思います。

話題のサカナAIとは?

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伊藤 錬氏、グーグル出身のデビッド・ハ氏、ライオン・ジョーンズ氏の3人によって2023年7月に東京で設立。サステナビリティの観点から、より少ないリソースで高性能なモデルを構築するため、進化的アルゴリズムを用いて、異なる小さなAIを効果的に組み合わせ、膨大な集合知へと融合するという独自の方法論を開拓しています。今年1月、グーグルと戦略的パートナーシップを締結し出資を受けたことも話題に。

初出:リシェスNo.55 2026年3月27日発売

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