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本当にこの人でいいの? ウエディング崩壊ドラマ急増の背景とは

  • 2026.6.1
A24/Netflix

つい先日の午後、私はまさに“地獄のような結婚式”を目撃した。新郎新婦は祭壇で誓いを最後まで交わすことなく、式の途中でそろって会場を飛び出してしまう。花嫁は運命の相手と結婚しなければ命を落とすという一族の呪いについて延々と語り続け、その直後、招待客たちは目や鼻や口から血を流しながら次々と倒れ、血だまりの中で息絶えていく。幸いにも、これはすべてフィクション。若いカップルの結婚式までの1週間を超常的なホラーへと変えるNetflixの新作シリーズ「なにかが、起きる」の最終話での出来事だ。エンドロールが流れるころ、私はソファで婚約者の隣に座りながらスマートフォンに目を落としメールに返信した。「了解! 明日よろしくお願いします」。翌日、私たちは結婚式の式場見学に行く予定だったのだ。

“最悪の結婚式”がスクリーンを席巻

結婚式の準備に“落ち着いた時期”など存在しない。でも、今このタイミングでそれを進めるのはやはりどこか奇妙だ。というのも、混乱に満ちた結婚式の物語がいまスクリーンを席巻しているからだ。Netflixの「なにかが、起きる」は2026年3月に配信開始後すぐに視聴数1位を記録しており、そのわずか1週間後には、ゼンデイヤとロバート・パティンソンが結婚直前に危機を迎えるカップルを演じるA24のダークコメディ『The Drama』(日本では邦題『ドラマなふたり』として、2026年8月21日公開予定)が公開された(詳細は伏せるが、彼は婚約者の過去にまつわる衝撃的な秘密を知り、“誓いの言葉”を口にすべきか迷い始めるという話だ)。どちらの作品も、プレッシャーに押しつぶされそうになる婚約中のカップルと、大失敗に終わった結婚式を描いているが、同時にある漠然とした疑問を浮き彫りにしている。本当に一生を共に歩む覚悟はできているのだろうか?この相手と?という問いだ。

「これまでたくさんの結婚式に出席してきて、『一度も迷ったことはない』と誓いの言葉で述べる人たちを見てきました。でも、それって本当に不思議で仕方なかったんです。どうして一度も迷わないなんてことがあり得るの?って」。このように語るのは「なにかが、起きる」のショーランナー、ヘイリー・Z・ボストンだ。彼女は『キャリー』や『セレブレーション』といった作品に着想を得て、「この人が運命の相手だとどうやって確信できるのか」という自身の迷いをテーマに本作を生み出した。

結婚映画が描いてきた多彩な人間ドラマ

2009年の映画『ブライダル・ウォーズ』。ケイト・ハドソンとアン・ハサウェイが主演。 Aflo


もちろん、結婚式はこれまでもエンターテインメントの重要な題材であり続けてきた。今回の作品群もまた、数えきれないほどの結婚映画の系譜の上に成り立っている。準備のストレスを描いたもの(『ブライダル・ウォーズ』『花嫁のパパ』『ウェディング・プランナー』『ウエディング』)、厄介な家族や人間関係に焦点を当てたもの(『ウエディング宣言』『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』『ベストマン 最強の介添人』)、マリッジブルーを扱ったもの(『ハングオーバー』やブロードウェイ・ミュージカル『Company』の劇中歌「Getting Married Today」)、あるいは自分が何に足を踏み入れたのか分からなくなるもの(『ハネムーンは命がけ』)など、そのバリエーションは実に多彩だ。さらにジャンルを横断した作品もあり、『メランコリア』では地球に惑星が衝突する直前に結婚式が行われ、『レディ・オア・ノット』では結婚初夜に花嫁が義理の家族から命を狙われる。後者は2019年の公開時に大ヒットし、今年続編が劇場公開された。

結婚前に浮き彫りになる、お互いの本音と不安

ロバート・パティンソンとゼンデイヤが出演する『The Drama』。 A24

「結婚式は、カップルの好みから家族関係、さらには経済的背景まで、あらゆる要素を浮き彫りにします」と語るのは、ウエディングプラニングの人気プラットフォーム「The Knot」の編集ディレクター、エスター・リーだ。「だからこそ、本や文学、舞台作品にとっても格好のテーマなんです」。結婚式に至るまでのプロセスもまた重要だ。というのも、それは関係性の強さ、あるいは脆さを如実に示すからだ。「婚約期間は結婚生活の成功を占う指標だと私は強く信じています」とリーは説明する。「カップルにとってはプレッシャーのかかる状況で、式の準備を進めるだけでなく、お互いの詳細やコミュニケーションのスタイルを知ることになる。つまり、結婚式の準備をすることで、相手について新たな発見をするんです」

『The Drama』でロバート・パティンソン演じるチャーリーが体験するのも、まさにそれを極端に描いたケースだ。彼は婚約者エマ(ゼンデイヤ)の秘密を知ったことで恐怖を抱き始めるが、気持ちを打ち明けて彼女を傷つけたくはないし、友人たちが彼女を非難すればつい、かばってしまう。一方で、そんな相手と結婚しようとしている自分自身も受け入れきれない。それでもなお彼女を愛しているのではないか? そんな葛藤の中で、チャーリーは自身も秘密を抱えることになり、さらに大きな混乱を招いていく。

「最も親しい関係では、本来、自分の本音や本当の姿まですべて共有できるはずです」と、監督クリストファー・ボルグリはプレスノートで語っている。「『The Drama』は、深く愛し合う二人が、相手にはまだ知らない一面があるかもしれないという現実に初めて直面したとき、考えがどれほど揺らぐかを描いています」。実際、婚約や結婚準備期間は「関係におけるコミュニケーションが最も際立つ時期」だとリーは言う。現実のカップルも、婚約前からお金や子どもといった重要なテーマについて話し合っていることが多く、近年ではメンタルヘルスについての議論も珍しくない。

結婚率の低下と価値観の変化が進む現代の結婚事情

『The Drama』や「なにかが、起きる」が今登場した背景には、見過ごせない社会の変化がある。今日、結婚率は世界的に低下している。2022年の研究によれば、過去100年で米国の結婚率は54%も減少し、40歳で未婚者の割合は過去最高を記録。研究者は「多くの若い男性が経済的に後れをとっていること」が要因のひとつだと指摘している。

結婚を取り巻く価値観そのものも変化しつつある。「結婚はもはや大人になるための必須ステップではなく、生存や繁栄のために誰もが選ばなければならないものでもない。個人の選択へと変わりつつあります」と、作家のアリソン・ラスキンは『コスモポリタン』誌で述べている。

一方で、結婚式にかかるコストは上昇している。「The Knot」の2026年調査によると、ゲスト1人あたりの平均費用は292ドルに達し、昨年41%のカップルが予算を超過した。経済的な不安やSNSの影響もあり、支出は増える一方だ。ウエディングサイト「Zola」のデータでは、婚約中のカップルの60%が「ネット上で見た理想のイメージと予算のバランスを取ること」が最大のストレスだと答えている。結婚式準備の実際の作業量の多さも無視できない。調査によると平均して週7時間が準備に費やされており、その負担は均等ではない。多くの場合、片方が約64%のタスクを担い、もう一方は17%程度にとどまり、残りは家族や友人、業者に分担されている。

このような状況の中、現在のカップルの41%を占めるZ世代は結婚式の当たり前を見直している。彼らはガータートスや姓の変更、白いウエディングドレスといった従来の慣習にとらわれず、よりパーソナルなスタイルを求める傾向が強まっていると「The Knot」は分析する。 「“誰かに引き渡される”という感覚、まるで閉じ込められるような気分です。それが一番怖いことなんです」とボストンは語る。彼女はプレゼン資料にこう書いた。「コミットメントが怖い人にとって、結婚は儀式的な犠牲のように感じられます」。ある意味、こうした作品群は、長く続いてきた結婚や結婚式への期待に対する、どこか暴力的で不穏な別れなのだ。

「本当にこの人でいいのか」という根源的な問い

Netflix「なにかが、起きる」で呪(のろ)われた花嫁レイチェルを演じたカミラ・モローネ。 Netflix

結婚がもはや人生の必須ステップではなく、個人が選び取るものへと変化しつつあるぶん、「本当にこの人でいいのか」という迷いは重くのしかかる。こうした結婚式の惨事は極端に描かれているとはいえ、その根底には、自分に合わない相手、あるいは自分を傷つけるかもしれない相手と一生を共にすると約束することへの、極めて現実的な不安がある。

最近話題の回想録『Strangers』でベル・バーデンは、20年連れ添った夫に裏切られ、パンデミックの最中に子どもとともに置き去りにされた経験をつづっている。それは彼女にとってまさに青天のへきれきだった。彼女は相手選びを間違えたのだろうか、それとも危険な兆候を見逃していたのか? 他にも、2020年にバイラル化したリーサ・ティーサのTikTokストーリー「Who TF Did I Marry??」は、人生を共にすると決めた相手のことを本当に理解できているのかという不安や恐れを浮き彫りにした。

「子どもの頃、母に『絶対に間違った人とは結婚しないように』と言われました」とボストンは語る。その言葉を聞いて、私は祖母とのクリスマスの電話を思い出した。「相手選びは慎重にね」と彼女は言った。彼女はもうすぐ90歳を迎え、記憶は少しずつ薄れつつある。それでも、この教訓だけは変わらず心に深く刻まれているようだ。

それでも選ぶということ

キャロル・バーネット、ミア・ファロー、エイミー・ストライカーらが出演した、1978年のロバート・アルトマン監督作『ウエディング』。 Hulton Archive / Getty Images

それでも、人は一歩を踏み出す。疑念を乗り越えるというテーマは、「なにかが、起きる」と『The Drama』の核心でもある。「疑いの反対は確信ではなく、信じることです」とボストンは言う。「人生を左右する選択とはそういうもの。どうなるかなんて誰にもわかりません」

多くの人は自分の結婚式を前にウエディングホラーを見たら尻込みするかもしれない。でも私は違った。翌日も式場見学に行き、『レディ・オア・ノット』を資料用に見ながら予算をスプレッドシートに入力した。この原稿の大半は義理の家族と週末を過ごし、たくさんの式場を訪れ、招待客のリストを見直しつつ、書き上げたものだ。記事を提出する前には、将来の夫と私は候補の業者からのメールと見積もりを確認した。彼はたとえお気に入りの会場を選ばなくても「不満を言わない」と約束してくれた。これが私たちだ。チェックリストをひとつずつこなしながら、大丈夫だ、何とかなると信じて進んでいくのだ。

私たちの結婚式はたとえ完璧でなくても、この数週間で見てきたドラマを上回るような最悪の展開にはならないはずだ。それでも同じような事態が現実に起きたなら、その経験をもとに脚本を書いてみようと思う。

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