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定年後の父が急に“過激な情報”に傾いたのはなぜ?背景にあるネットの仕組みを【池上彰が解説】

  • 2026.5.5

定年後の父が急に“過激な情報”に傾いたのはなぜ?背景にあるネットの仕組みを【池上彰が解説】

「法律で裁けなければ、何をしても許されるのか?」そんな疑問を抱かせるニュースが増えています。政治とカネの問題やAIによるフェイクニュースなど、法の網をすり抜ける現実に、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか。池上彰氏の最新刊『法で裁けない正義の行方』(主婦の友社刊)から、一部を抜粋してお届けします。第5回は、デマを見抜けない中高年について。

メディアリテラシー教育

フィンランドは、子どもたちに向けてのメディアリテラシー教育も学校で長年行ってきました。実際のフェイクニュースを題材に、どの部分をどう分析してデマだと見抜くか、みんなで議論をしたり、チェックシートでチェックしたりする授業を行っています。

チェックシートは、私がいつも言っているようなことが書いてあります。「情報源を確認しよう」「サイトやアカウントを確かめよう」「著者は実在する人/ものですか」「細かいところを調べよう」「疑わしいことはないですか」などです。

「画像検索をして、同じ画像が他でも見つかるか確かめよう」というのはとても大事です。災害が起きるとすぐに、被災地のフェイクニュースが写真付きで拡散されます。その画像を検索すると、何年も前にまったく別のところで撮られた写真が、そのまま使われていたりするのです。

このチェックシートはかなりレベルが高い上に、普段からここまでひとつひとつチェックするのは時間がかかりますが、少しでも違和感を持ったら、こういう観点でチェックをすることが大切です。

基本的には、新聞社や放送局のウェブサイトであれば、とりあえず情報の信頼性は大丈夫でしょう。発行元が聞いたことのないところの場合は、よくチェックしたほうがいいでしょう。

教師にもメディアリテラシー教育を

日本の場合もメディアリテラシーの教育は始まっていますが、フェイクニュースの見抜き方など、ここまで詳しい手法を教えたりはしていません。

現時点で日本のメディアリテラシー教育は、小中学校の国語科や社会科で新聞の読み方などを教えるレベルにとどまっています。これは、日本では学校教科書がおよそ10年ごとに作り替えられる学習指導要領に基づいて作られているので、どうしても現実から遅れがちになるからです。

学校の先生たちが子どもたちにフェイクニュースの見抜き方などを教えていくことが、やはり今、急がれることだろうと思います。そのためには、学校の先生自身がメディアリテラシー教育を受けるべきでしょう。

カナダは、教師にメディアリテラシー教育をするためのリソースを提供し、スウェーデンやデンマークは、教師をトレーニングしています。先生たちがメディアリテラシーの重要性を理解し、学んだ上で、子どもに教えていくというわけです。

日本の小中学校では、コロナ禍に前倒しで「1人1台端末」が配布されました。休校などの緊急時に必要だったため仕方ないのですが、デジタル機器が得意な先生と不得意な先生とで使い方がまったく違うなど、格差が生まれています。

クラス全員のパスワードを共通にしていたことで、児童・生徒たちの間で他の子どものメッセージのやり取りが盗み見し放題だった、他人になりすまして人が作ったスライドを消すなどのいたずらをする子がいた、それに先生が気付かなかった、という事件もありました。日本のメディアリテラシーには、大きなバラつきがあるのです。

デマを見抜けない中高年

フェイクニュースを見抜けない人は、中高年層に多いという状況があります。

国際大学の山口真一准教授らの調査(23年)「偽・誤情報、陰謀論の実態と求められる対策」で、政治関連のフェイクニュースを見抜けた人は、20代21.4%、30代19.2%、40代16.7%に対し、50代は6.5%、60代は8.5%と、50~60代が最も少なかったという結果でした。

定年退職した父親が、急激にネット右翼(ネトウヨ)になったという話は、あちこちで聞きます。中高年世代には、子どもたちのように「学校でメディアリテラシーを身につける」という機会がありません。そのため、デジタル機器やインターネットとどう付き合えばいいのかという教育を受けないまま、定年退職して暇になり、パソコンでいろいろネットサーフィンを始めたところ、すっかりネトウヨとなってしまうのです。

私も大学時代の同級生と、数年に1回は同窓会をしていますが、あれよあれよという間にネトウヨになってしまった人がいます。

彼らはAIがアルゴリズムによって動いていることなども知らないため、一度何かを検索したら、その後同じような話ばかり出てくる理由がわかりません。そして「こういう意見ばかり表示されるということは、世の中のみんなもこういうふうに思っているんだ」と思い込みます。これは偏った情報だけに包まれる「フィルターバブル」現象です。

またSNSで、自分が発信した意見と似た意見ばかりが表示され、反対意見は表示されず、偏った意見や思想が増幅していく「エコーチェンバー」現象もあります。

こうした現象を知らない人が、ネトウヨなどにはまってしまうというわけです。

新聞やテレビなどのオールドメディアであれば、それぞれの意見を並列するため、「世の中にはいろいろな考え方があるんだな」と自然に伝わるのですが……。

実際、あるとき韓流ドラマ好きの女性と話をしていると、「LINE NEWSをよく見ているんだけど、最近はみんなとにかく韓流ドラマが大好きなのね、韓流ドラマの話題ばかり送られてくるわ」と言うので、苦笑しました。「あなたが韓流ドラマの話題ばかり見ているから、アルゴリズムでそうなっただけだよ」と教えると、「なるほど、それで疑問が解けた。世の中にはこんなに韓流ドラマを好きな人がいるのかと思い込んでいた」と言っていました。

この辺の事情はむしろ若い人のほうが理解していて、中高年とはずいぶん違います。

思い込んでしまった中高年に、子どもが「それは間違っている」などと頭ごなしに言うと、ケンカになることもあります。「インターネットはこういう仕組みになっているんだよ」と優しく説明をしてあげる、あるいは第三者に教えてもらえる機会を用意する、といったやり方で教えてあげてほしいと思います。

先述の山口准教授らの調査では、フェイクニュースを信じている人ほどそれを拡散し、またメディアリテラシーや情報リテラシーが低い人もフェイクニュースを拡散することが明らかになっています。

リテラシーの低い人は、ネットで出てくる話題をまず信じてしまい、ある種の善意で「これは拡散しなければいけない」と思って拡散してしまうわけです。

リテラシーの高い人は、「びっくりする話だけれど、これは本当かな。確認が取れるまで自分は拡散しないでおこう」という判断ができます。

※この記事は『法で裁けない正義の行方』池上彰著(主婦の友社刊)の内容をウェブ記事用に再編集したものです。

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