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〈ゴールデングース〉CEOが語る、不完全の価値。HAUS 2026で見えた、共創のラグジュアリー

  • 2026.6.4

ヴェネツィア本島の華麗な運河を離れ、工業地帯マルゲーラへ。2026年5月8日、現代アートの祭典「ヴェネツィア・ビエンナーレ」の熱狂と呼応するように、この無機質な風景の中に位置する「HAUS Marghera」が再びその扉を開いた。

text: Wakapedia

HAUS Margheraの外観
BRUTUS

〈ゴールデングース〉のクリエイティブハブ、「HAUS Marghera」

「HAUS Marghera」は、新品なのに使い込んだ質感が息づくことで知られる、ラグジュアリーライフスタイルブランド〈ゴールデングース〉が創設したクリエイティブハブ。クラフトマンシップの精神を軸に、職人育成・文化発信・アート展示などを行う拠点だ。

ここでは、隔年で開催される芸術の万博「ヴェネツィア・ビエンナーレ」に合わせてイベントを開催。2026年の展示は、今年のビエンナーレのテーマ「In Minor Keys(短調で)」と響き合う内容だった。主流からこぼれ落ちた声や、未完成の美しさに光を当てるというテーマは、余白の中にある力を見つめようとする〈ゴールデングース〉の姿勢とも呼応する。

「HAUS Marghera」には、職人を育てるアカデミーやリペア工房も併設。ブランドの哲学が凝縮された心臓部のような存在となっている。

なぜ、ラグジュアリーブランドが「汚れ」を尊ぶのか

開催された「HAUS Marghera」の展示に話を移す前に、〈ゴールデングース〉が尊ぶ汚れ、そこから生まれる余白について触れておきたい。

イタリアのエレガンスといえば磨き上げた革靴。そんな完璧主義の文化圏で、2000年にマルゲーラの倉庫から始まったこのブランドが選んだのは「スニーカー」だった。ブランド名はイソップ童話の『The Goose that Laid the Golden Eggs(黄金の卵を産むガチョウ)』に由来するが、彼らが産み落としたのは、職人の手で最初から傷や汚れを刻み込んだ「Lived-In(履き込まれた)」な一足だ。

〈ゴールデングース〉の定番、Super Starモデルのベーシックカラー。職人の手仕事によって、使い込んだ質感が息づいている。

なぜ、ラグジュアリーがあえて「汚れ」を尊ぶのか。新品の緊張感を取り払い、持ち主が主役になる余白をつくるためだ。そこには、移ろいを劣化ではなく深みとして受け止める、日本のわびさびにも通じる精神がある。

〈ゴールデングース〉のショップの一角には、職人が使い古した靴をリペア(修理)する区画が設けられ、さらにトレードマークであるスターの色や素材、デザインを自らカスタマイズできる仕組みも備わっている。未完成の靴に自らの意志を乗せ、傷ついたら直して履き続ける。この主体的な関わり方こそが、一見ラフに見えるその一足がドレスシューズに匹敵する価値をまとう理由なのだ。職人が刻むその一線は、持ち主が書き足していく物語の「最初の一行目」となる。

PLAYLAB INC. × Golden Goose HAUS:境界なき創造の現場

舞台を「HAUS Marghera」に戻そう。ヴェネツィア・ビエンナーレには世界中からアーティストが集まる。だが、〈ゴールデングース〉が求めていたのは「作品」ではなく、「プロセスそのものを体験に変えることができる相手」だった。

今年のイベントで彼らが選んだのは、建築でもアートでもデザインでもなく、そのすべてを横断しながら「遊び」を軸に世界を組み立てるロサンゼルスのクリエイティブスタジオ〈PLAYLAB INC.〉との共同プロジェクト、「The Forest For The Trees」。彼らは「HAUS Marghera」の空間を「絵本のような森」へと変換した。

クリエイティブスタジオ〈PLAYLAB INC.〉との共同プロジェクト「The Forest For The Trees」。「HANGER(ハンガー)」と呼ばれる巨大展示スペースに森のようなオブジェが並んだ。

木の葉が擦れ合う音が今にも聞こえてきそうな空間に入ると、木々や動物のオブジェがあちこちに佇み、来場者はそれらを好きな場所へ動かして遊ぶことができる。さらに、森の風景に自分の手で色を加えられるような仕掛けも用意されており、手を動かすうちに、いつの間にか創作の世界に入り込んでいる自分に気づく。

ただ眺めていただけの来場者は、気づけば創り手としてその空間に参加している。大人であることを忘れ、完成を求めるのではなく、「つくる」という行為そのものに没頭してしまう。〈PLAYLAB INC. 〉の共同創設者ジェフ・フランクリンが語るように、そこには「AからZまで、すべての体験が誰にでも開かれている」自由な世界が広がっていた。

完成品ではなく、生成の瞬間こそが価値になる。それこそが、今年の「HAUS Marghera」が提示した最も力強いメッセージだ。

「最高感情責任者」のシルヴィオ・カンパラが語る、不完全さの価値

〈ゴールデングース〉CEOのシルヴィオ・カンパラ

展示の興奮が冷めやらぬなか、CEOのシルヴィオ・カンパラを囲んで行われたディスカッションは、誰もが同じ目線で語り合う対話の場だった。「最高経営責任者(Chief Executive Officer)」であると同時に、ブランドに宿る感情や思い出、夢に責任を持ちたいという思いから「最高感情責任者(Chief Emotional Officer)」と名乗る彼の姿勢は、その空気の中にもはっきりと表れていた。

──「HAUS」を通じて伝えたいメッセージは?

シルヴィオ・カンパラ

私がいま最も必要だと感じているのは、「共感」という姿勢です。現代は誰もが自分を肯定しようと必死ですが、本当に求められているのは、自分や他者の声に耳を傾ける力だと思います。

ファッションの世界では長い間、社会的な階層に合わせて自分を装い、強く見せるための完璧なユニフォームが求められてきました。しかし、そうした外側の物語に自分を合わせる時代は終わりつつあります。人々は、不完全なままの自分を認め、それを誰かと共有することを望んでいる。「HAUS」は、そうした嘘を脱ぎ捨て、自分自身に戻るための場所でありたいと考えています。

──ものづくりにおける「感情」や「記憶」の扱いをどう考えていますか?

シルヴィオ

ものづくりにおいて、私はプロダクトが「人の感情や記憶とどのように結びついていくのか」を大切にしています。靴や服のような日常的なものでも、使い続けるうちに持ち主の時間や体験が刻まれていきます。その痕跡を尊重する姿勢が、ものづくりの根底にあります。

そして、その感情の積み重ねに寄り添うことこそ、私の役割だと思っています。だから私は、一般的なCEOという肩書よりも、自分を「Chief Emotional Officer(最高感情責任者)」と呼びたいのです。プロダクトを通じて人々の感情に向き合い、その記憶が続いていくための責任を担う存在でありたいからです。

──不完全さにどんな価値を見出していますか?

シルヴィオ

私にとって不完全さとは、欠けや不足ではなく、細部に宿る人間らしさのことです。日本、イタリア、そしてカリフォルニアのような土地では、環境の影響もあって、人々が自然と細部に目を向ける文化が育まれてきました。小さな違いに気づき、その揺らぎを面白がる感性があるのだと思います。

例えば、日本で世界最高のピッツァやティラミスに出合えるのは、細部への敬意とこだわりがあるからです。この細部へのまなざしこそが、私たちが共有するラグジュアリーの本質でもあります。

不完全さに惹かれるのは、その細部に人の気配や時間が刻まれているからです。完璧に整えられたものよりも、わずかな揺らぎの中にこそ豊かさや物語が生まれる。私はその余白に価値を見出しています。

不完全さは欠陥ではなく、創造の余白である。〈ゴールデングース〉と〈PLAYLAB INC. 〉が「HAUS Marghera」で提示したのは、完成品ではなく「想像力が動き出す瞬間」だった。完璧さへの執着を手放し、不完全な自分を受け入れ、誰かと夢を分かち合うこと。そのささやかな行為の中に、現代を生きるための手がかりがあるのかもしれない。

優しさや共感、そして夢を見る力。そのすべてが、マルゲーラの小さな森の中で確かに息づいていた。

ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展2026期間中に開催された、〈ゴールデングース〉コミュニティによるスペシャルディナー。世界各国からクリエイターやアーティストが集い、交流を深める特別な夜となった。
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