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森保ジャパン なぜ強豪を倒し続けるのか?「戦術がない」「指示が少ない」と言われた森保一の真骨頂とは“素直さ”である

  • 2026.5.28
逆転監督 森保一 木崎伸也 / 文藝春秋
逆転監督 森保一 木崎伸也 / 文藝春秋

前回のカタールW杯では、ドイツとスペインを下してグループリーグを首位通過。直近の親善試合に目を向ければ、2025年10月にはブラジルを3-2の逆転で破り、2026年3月には敵地でイングランドを1-0で撃破している。森保一監督が率いるサッカー日本代表は、もはや世界の強豪国の仲間入りを果たしつつあると言ってもいい。

かつては「戦術がない」「ただのいい人」と叩かれてきた森保監督の手腕も、近頃は手のひら返しのように再評価されつつある。だが、不思議なことに、「結局、何がすごいのか」については、これまで納得のいく説明に出会ったことがなかった。

業界きっての敏腕スポーツライター・木崎伸也氏による『逆転監督 森保一』(文藝春秋)は、その「掴めなさ」の正体に、これまでにない解像度で迫る一冊だ。

無名の高校生が日本代表に上り詰めた、「逆転劇」の人生

本書のタイトル「逆転」が指しているのは、日本代表の弱小国から強豪国への変化や、下馬評を覆すジャイアントキリングだけを示すものではない。森保一というサッカー人の歩みそのものが、目立たない選手から日本代表監督にまで上り詰めた、長く地道な「逆転劇」だった――本書を読むと、そのことに気づかされる。

彼は高校時代は無名の存在で、マツダ(現サンフレッチェ広島)入団時も、同期の中でただ一人「子会社採用」という最下位の扱いだった。

背は高くなく、足も速くなく、ボール扱いが特別うまいわけでもない――。それでも彼は、ひたすら周りの選手を観察し、吸収し、追いつき、追い越すことで、日本代表にまで上り詰めた。

本書を貫くキーワードのひとつが「吸収」だ。恩師の故・今西和男氏は、彼について「技術や発想力ではなく、人の話を聞いて吸収する力の天才」と評する。プライドが邪魔をして人の意見を受け入れられない選手は多いが、森保一にはそれがない。素直に耳を傾け、自分のものにする姿勢があるのだ。

その姿勢は、日本代表監督になってからも変わらなかった。

2022年9月のドイツ遠征で、吉田麻也ら主力5人から「もっと細かい指示を出してほしい」と直訴されたとき、森保監督は反論せずにそれを受け入れた。以降、選手たちは自由に提案できるようになり、カタールW杯のスペイン戦では、鎌田大地が進言した守備戦術を受け入れ、そのやり方を日本代表仕様に適合させた。

選手から「指示が少ない」と言われる機会が何度もあり、選手の提案をそのまま受け入れるケースもあることは、アンチ森保派からは「戦術のなさ」の証左とされがちだ。しかしその素直さと吸収力にこそ名将・森保一の真骨頂はあるのだと本書は気づかせてくれる。

金髪、パンチパーマ、徹夜の映像分析――名采配を生む「準備」と「度胸」の逸話たち

また森保監督は「練習でも試していなかった形」を大舞台の試合で取り入れ、成功を収めることも多い指揮官として知られる。だからこそ奇跡のような勝利を手繰り寄せる采配も「偶然」のようにも見えてしまうのだが、本書を読むと、それが長年の人生で培ってきた「準備力」や「度胸」の賜物だとわかってくる。

その準備力について象徴的なのが、サンフレッチェ広島のコーチ時代に対戦相手の分析を任されたときの逸話だ。当時は試合映像のDVDがミーティング前日に届くことも珍しくなかったが、彼は「まだ24時間ある」とスタッフを鼓舞し、徹夜で映像を見続けてぎりぎりまで分析を詰めたという。

森保監督が大舞台で見せる「ひらめき」の裏側にも、こうした下地があるのだろう。

そして「度胸」を象徴する逸話は複数ある。本書には、彼が中学校の卒業式に突然金髪で現れたエピソードや、マツダ入団直後にパンチパーマで職場に現れた話、後輩がピッチで削られれば10メートル助走をつけて飛び蹴りを食らわせていた「武闘派」時代のエピソードなどが惜しみなく綴られている。

一見すると単なる若気の至りだが、本書を読むとこうした逸話は「大舞台でも大胆な行動を起こせる度胸」の原点にも思えてくる。

エースに1週間の謹慎処分。森保監督は「ただのいい人」ではない

そして彼は、ただの「いい人」では決してないことも、本書を読むとわかる。

たとえば広島時代、エースの佐藤寿人がハーフタイムの交代で悪態をつき握手を拒否した一件で、森保監督が1週間の謹慎処分を下したエピソードが本書には収められている。エースであろうと、輪を乱せば容赦しない。にこやかな表情の奥には、決してぶれない判断軸があるのだ。

それは本書の著者によるインタビュー場面でも垣間見える。森保監督は著者の鋭い質問に対し、「まさに私もそれを言おうか迷っていたんですよ。頭の中をのぞきましたか?」とユーモアで返しながら、会話の主導権はしっかり握っていたという。柔らかく、にこやかだが、決して芯はぶらさない。著者が本書で書いているように、彼は「いい人=好人物」ではあっても「都合のいい人」では決してないのだ。

そして、敏腕のスポーツライターである著者が何度もインタビューを重ねた本書を読んでもなお、「名将・森保一の全貌」はいまだ掴みきれない。だがその「掴めなさ」こそが、彼の人物としての奥行きであり、日本代表を強豪国相手に勝たせ続けている源泉なのだろう。

まもなく開幕するワールドカップ。本書を読んだあとは、日本代表のベンチで国歌に涙を浮かべ、スタンドの各方向に頭を下げる「いい人・森保監督」の姿を、これまでとは違う目で見ることになるはずだ。

文=古澤誠一郎

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