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「間違って押したらどうしよう…」ためらうあなたへ。現役鉄道社員が教える“非常ボタン”の正しい使い方

  • 2026.7.2
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

電車を利用する際、駅のホームの柱や、電車の車内のドア横などで、赤や黄色の目立つ色をした通報ボタン(非常停止ボタン)を目にしたことがある人は多いでしょう。

しかし、その存在は知っていても、「実際にこれを押すとどうなるのか」「どんな時に押せばいいのか」まで正確に把握している人は意外と少ないのが現実です。「間違って押したらどうしよう」「大事になって怒られないだろうか」といった不安から、押しづらい気持ちを抱いてしまうのもよくわかります。ですが、筆者としては、異常に気付いた場合には決してためらわずに押してほしいと強く願っています。

今回は、知っているようで知らない通報ボタンの機能と正しい使い方に迫ります。

誰もボタンを押さない…ある夜のホームにて

ある夜の駅のホームでの出来事です。 帰宅ラッシュが過ぎ、少し人が減ってきた時間帯。お酒に酔った会社員風の男性が、足元もおぼつかない様子でホームの端をふらふらと歩いていました。すると次の瞬間、バランスを崩して足を踏み外し、線路の中へと転落してしまいました。

周囲でその様子を見ていた乗客たちはパニックになり、「誰か駅員さんを呼んで!」「落ちたぞ!」と叫んだり、慌てて改札へ続く階段の方へ駆け出したりしました。しかし、突然の事態に誰もが動転してしまい、すぐ目の前の柱に設置されている通報ボタンを押すという行動にはとっさに結びつきませんでした。

結局、ホームを巡回し監視していた駅員が異変に気づき、すぐさま無線で連絡して接近してくる電車に緊急停止の手配を行い、その後に男性の救助を行いました。もし駅員が近くにいなかったら大きな事故になっていたかもしれません。

「知っている」のに「押せない」現状

JR西日本が行った調査によると、駅のホームや車内にある通報ボタンについて「存在を知っている」と答えた人は約70%にのぼりました。多くの人があることは認識しているのです。

しかし一方で、ボタンの「正しい機能を知っている人」や、「もしもの場合には自分で押す」と回答した人の割合は少ないことが分かりました。存在を知っていても、いざという時の具体的な行動に結びついていないという深刻な課題が浮き彫りになったのです。

駅と車内で違う通報ボタンの仕組み

では、実際にボタンを押すとどうなるのでしょうか。実は、駅のホームと電車の車内とでは、その機能が少し異なります。

まず、駅のホームに設置されている通報ボタン(非常停止ボタン)です。ボタンが押されると、ホーム上や線路沿いに設置された警告信号(特殊信号発光機など)が点滅し、接近してくる電車の運転士に異常を知らせます。また、近年一部の路線では自動的に緊急ブレーキがかかる仕組みのものも導入されています。これらのシステムは、まず電車を停めることを基本として考えられています。

一方、電車の車内に設置されている通報ボタン(非常通報装置)は、ボタンを押すと乗務員室に繋がり、ランプやブザーで異常を知らせたり、マイクを通じて車掌や運転士と直接会話ができるようになっています。車内で急病人が出た、トラブルが起きているといった異常の内容や、今電車が走っている場所(トンネル内や橋の上など)の状況に合わせて、各鉄道会社の定められたマニュアルに基づき乗務員が判断したり運転指令と連携を取ったりして、必要に応じて電車を緊急停止させたり、次の駅に対応の手配を行ったりします。

「大事になるかも」という心配は不要です

調査でわかったことは、多くの人が「異常を見つけたら押すのが良い」と感じてはいるものの、「電車が緊急停止して大勢の人に迷惑がかかり、大事になってしまうのではないか」と強く心配している心理です。時折、いたずらでボタンが押されて電車が遅延したというニュースが報じられることも、押すことをためらわせる背景になっていると考えられます。

確かに、通報ボタンが押されれば電車が停止し、運行に影響が出ることはあります。しかし、「わずかでも異常を感じたら、まずは電車を停める」。これこそが、我々鉄道に携わる者の絶対的な大原則です。もし乗客の方が危険を感じて通報ボタンを使用し、結果的にそれが大変な事態ではなかったとしても、安全のための善意の行動として咎められるようなことはまずありません。

あと一歩の勇気が命を救う

こうした利用者のためらいを少しでも減らすため、鉄道会社も様々な対策を進めています。例えば、車内の装置において乗務員と直接状況をやり取りできる「対話式の非常通報装置」への更新を進めたり、ポスターや車内放送で通報ボタンについての継続的な啓発活動を行ったりしています。

しかし、どれほど最新の設備を整え、迅速な対応ができるシステムを用意していても、いざという時にそのボタンが使用されなければ全く意味がありません。そして、そのボタンを押すことができるのは、その場に居合わせたあなたかもしれないのです。

駅のホームから人が転落した時、車内で急病人が倒れた時、あるいは不審なものを発見した時。遠慮するのではなく、どうか「ためらわずに」通報ボタンを押してください。一人ひとりの少しの勇気が、大きな事故を防ぐことにつながるのです。


参考:
JR東日本なるほどQ&A Guide 緊急時(JR東日本)
お客様への効果的な協力要請、 働きかけ方の研究(JR西日本 安全研究所)
西武鉄道からのお願い(西武鉄道)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、同業界に15年以上従事。鉄道部門だけでなく、タクシーやバス、小売りといった関連事業にも幅広く携わる。現在はWebライターとしても、広報を担当した経験を活かし、コラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで多岐にわたって活動中。


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