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「入らないで!」駅ホームの“L空間”知ってますか?現役鉄道マンが明かす、ホームドア普及の壁と、乗客を守る「見えない壁」の最前線

  • 2026.6.29
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出典:PhotoAC/加工:TRILL ※画像はイメージです

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

主に関西圏で使われている「L空間」という言葉をご存じでしょうか?

JR西日本を利用する方なら、大阪周辺の駅のホームで「L空間に入らないで」というポスターを見かけたことがあるかもしれません。2019年ごろから使われ始めたこの言葉は、ホームに停まっている電車の車体(側面)と、点字ブロックから線路側までのホーム床面によってできる空間が、アルファベットの「L」の字のように見えることから名付けられました。

このエリアに留まらないよう呼びかけ、ホームでの安全を啓発するためのものですが、全国的にはあまり馴染みのない言葉です。そのため、「わかりにくいのではないか」「独自の表現を作るしかなかったのではないか」といった意見がSNS上で飛び交って話題となりました。今回は、この言葉の背景にある鉄道会社のホーム安全対策について考えてみたいと思います。

一歩間違えれば大惨事 筆者が見たホームの危険

電車と乗客との接点となる駅のホームは、鉄道を運行する上で大きな危険が潜む場所の一つです。以下は筆者が乗客として駅を利用していた際、実際に遭遇した光景です。

帰宅ラッシュの混雑が落ち着いた頃の夜の駅。駅員や乗務員がホームの安全確認を終え、電車がドアを閉じた直後のことでした。ホームを歩いていた一人の女性が急にふらつき、なんと動き始めた電車の方へと倒れ込んでしまったのです。女性の頭と体は動く電車の車体に接触しました。

幸いなことに、駅員や車掌が異変に気づいて運転士に合図を送り、電車は急停止。駅員がすぐに女性を救護しました。発車直後でスピードがそれほど出ていなかったこともあり、大事には至らなかった様子でした。しかし、もし発見がほんの少しでも遅れていたら、あるいは車体とホームの隙間に女性の体が巻き込まれていたら、大事故になっていたことは間違いありません。ホームという空間がいかに危険と隣り合わせであるかを見せつけられた瞬間でした。

最強の対策「ホームドア」が抱える現実的な壁

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出典:PhotoAC ※画像はイメージです

こうしたホームからの転落や列車との接触事故を防ぐため、鉄道各社は長年にわたり安全対策に苦心してきました。その中で最も効果的とされているのがホームドアの設置です。電車と乗客のいる空間を物理的な扉で遮断してしまえば、安全性は当然高まります。

現在、都市部を中心に整備が急ピッチで進められていますが、全駅への導入にはまだ時間がかかるのが現実です。その最大の理由は、設置費用と工事にかかる期間です。さらに、路線によってはドアの位置や車両の長さが異なる複数の種類の電車が入り混じって走っているという複雑な事情もあります。

そうした駅では、通常の横開き式のホームドアを設置することができず、ロープが上下に昇降するロープ柵や、開閉位置を柔軟に変更できる特殊なタイプのホームドアを導入するなど、さらなる技術的ハードルをクリアする必要が生じたり、より長い工期がかかったりするため、整備のスピードがどうしても上がらないのです。

新技術「ホーム安全スクリーン」による見守り

そこで、ホームドアの設置に多大な時間がかかる駅や、構造上の理由で設置が困難な駅においては、別の形での安全対策が模索されています。

そのひとつが「ホーム安全スクリーン」と呼ばれるシステムです。これは、2Dセンサーなどの高度なデジタル技術を活用し、ホームの端に近づく人の不自然な動きや線路への転落を瞬時に検知して通知する仕組みです。

また、開閉機能を持たない固定式の柵であっても、センサーを取り付けて人を検知する機能を持たせたものが設置される駅も徐々に増えてきました。物理的な壁がなくとも、最新のセンサー技術を駆使して乗客の安全を見守るシステムが、ホームドアの普及を補完する形で全国に広がっています。

「L空間」という言葉に込められた切実な思い

物理的・技術的な設備投資と並行して、乗客自身の安全意識を高める啓発活動も非常に重要な取り組みです。

冒頭で触れた「L空間」という言葉も、これまで特に一般的な呼び名が存在しなかった危険なエリアに、あえてキャッチーな名前を付けることで、少しでも乗客の記憶に留め、わかりやすく安全啓発をおこないたいという鉄道会社の工夫の表れなのだと筆者は推測しています。

耳慣れない言葉であるがゆえに賛否両論はあったものの、結果として「そこが危険な場所である」という議論を巻き起こし、人々の関心を集めた点において、一定の役割を果たしたと言えるのではないでしょうか。

私たち利用者にできること

私たち利用者にできる最大の安全対策は、「駅のホームは危険な場所である」と改めて認識することです。

安全な歩道と同じような感覚でスマートフォンの画面を見ながら「歩きスマホ」をしたり、周囲への注意を怠ったりすることのないようにしたいものです。また、少しでも体調がすぐれない、ふらつくかもしれないと感じたときは、決して無理をせず、安全なベンチに座って休んでください。

乗客の命を守るため、さまざまな工夫を重ね、日々安全対策に真摯に向き合っている“鉄道マン”たちの切実な思いが、一人でも多くの方に伝われば嬉しいです。


参考:
2019年10月 定例社長会見(JR西日本)
ホームご通行時のお願い(JR西日本)
車両・ホーム・踏切の安全対策(JR西日本)
ホーム安全スクリーン(JR西日本テクシア)
ホーム安全対策の取り組み資料(東京都都市整備局)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、同業界に15年以上従事。鉄道部門だけでなく、タクシーやバス、小売りといった関連事業にも幅広く携わる。現在はWebライターとして、広報を担当した経験を活かし、コラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで多岐にわたって活動中。


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