1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「朝ドラのイメージが変わった」「配役もすごい」間違えるヒロインをあえて描く“脚本の巧み”さ【NHK朝ドラ過去作】

「朝ドラのイメージが変わった」「配役もすごい」間違えるヒロインをあえて描く“脚本の巧み”さ【NHK朝ドラ過去作】

  • 2026.6.5

2024年前期の連続テレビ小説『虎に翼』が生み出した熱狂は、2年経った今振り返っても、特別だったように思う。その証拠に、2026年3月にはスピンオフドラマとして『山田轟法律事務所』が放送。2027年には、朝ドラ史上初となる主演キャスト続投による映画化が発表されている。『虎に翼』の世界をまだ楽しみたいという視聴者の願いが、制作陣に届いているのだろう。

※以下本文には放送内容が含まれます。

「誰も取りこぼさない」意思のある作品

『虎に翼』は、日本初の女性弁護士・判事である三淵嘉子をモデルにしたリーガルドラマだ。物語の前半は、主人公・寅子(伊藤沙莉)が弁護士を志し法律を学ぶ日々と、苦悩しながら弁護士として働く姿が描かれ、後半は戦後の混乱状態にある日本の問題に、判事として向き合いながら、寅子自身も成長していく。

また、仕事と家庭を両立する寅子の人生を主軸に置きながら、外では働かず家庭を守ることを望む花江(森田望智)、女性に押し付けられがちな役割と決別し、仕事に邁進するよね(土居志央梨)など、さまざまな価値観の女性の一生が、寅子の人生と同じくらい丁寧に描かれていることも特徴的だ。

前半は女性の権利の乏しさや生きづらさを描くことでフェミニズムを描きつつ、後半はさまざまなマイノリティの苦悩に触れ、ヒューマニズムへと描写の範囲を広げていった。どんな人の苦悩も取りこぼさないという、高潔な意志が感じられる作品だ。

軽さと重さが癖になる『虎に翼』の脚本力

undefined
伊藤沙莉 (C)SANKEI

『虎に翼』の魅力は、これだけの重みのあるテーマを軽やかに描ききった点だ。

まず、寅子の「はて?」という口癖は、理不尽には怒っていいという作品のテーマをわかりやすく象徴している。脚本を担当した吉田恵里香のセリフ力と人物描写力が光る口癖だ。

寅子や花江、よねだけでなく、明律大学女子部の寅子とよねの同期たち、よねの相棒となる轟(戸塚純貴)、のちに寅子の同僚となる小橋(名村辰)など、強い個性を持った登場人物ばかりだ。 俳優たちがそれぞれ役柄をいきいきと演じているのも印象的だった。

また、劇中劇を多用したり、寅子の心の内を代弁するナレーションなど、コミカルな演出も効果的だ。どこかアニメを彷彿とさせるほどの軽快さがあった。

アニメ的な魅力として、展開の速さも挙げられる。例えば、第1週ではお見合いに乗り気でない寅子の法律との出会い、女子部法科を目指すことを母・はる(石田ゆり子)に言えないまま、はるを傷つけてしまう切なさ、桂場(松山ケンイチ)の言葉をきっかけにはるからも背中を押される展開が描かれている。

未知の世界との出会いの喜び、女性が置かれている現実、母との衝突を乗り越える過程、さまざまな要素がたった1週間に詰め込まれているのだ。視聴者を飽きさせない展開の妙は、『虎に翼』が見やすい所以の一つだろう。

主人公をヒーローにしない誠実さ

『虎に翼』が支持を集めた理由の一つに、描写のフラットさがある。主人公の寅子は絶対的なヒーローではなく、彼女も間違える人物として、作中で扱われていた。

寅子は、銀行員として働き当時としてはリベラル寄りな思想の父を持つ、ある種恵まれた女性だ。序盤はそんな寅子が、生まれながらに持っている万能感を武器に、理不尽に立ち向かう姿が描かれていた。自身の妊娠出産と戦争をきっかけにその強さを手放しそうになるが、亡き夫・優三(仲野太賀)の言葉と日本国憲法の公布により、自分らしく生き抜く覚悟を決める。

そんな、たくましく、カッコいい寅子が、判事になってからしばらくした頃、仕事の忙しさにより家庭を顧みず、娘・優未(竹澤咲子)と向き合うことができなくなってしまう。家の稼ぎ頭となった寅子は、花江と衝突。このあたりのエピソードでは、セリフから寅子の傲慢さがよく表現されており、家庭内の役割分担により、女性同士であっても権力勾配が生まれてしまうことを示唆していた。寅子が権力を振りかざすという、まさに間違える展開だったのだ。

寅子は道を切り開いていく人物だが、決して全能ではない。寅子のキャラクター性からは、人々の辛さを一つひとつ知っていき、考えることが、寄り添いへの第一歩であることが伝わってくる。

2024年当時、ギャラクシー賞のテレビ部門大賞を受賞するなど高い評価を得た本作。放送当時、SNSでは日々「朝ドラのイメージが変わった」「脚本も配役もすごい」という声のほか、ストーリーを自分ごととして捉え直すような長文の感想も多く見られた。『虎に翼』が、今を生きる私たちに寄り添ってくれるドラマだった証拠だろう。

映画『虎に翼』では、完全オリジナルストーリーとして、寅子の最後の事件が描かれるそうだ。さまざまな社会問題に触れる『虎に翼』に対する反応は、その時代の価値観を映す鏡でもある。2027年の日本で『虎に翼』はどう受け止められるのか。


出典:NHK 連続テレビ小説『虎に翼』NHKアーカイブス

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202

の記事をもっとみる