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要介護4の義母。介護のためにパートを退職→「相続で特別寄与料がもらえる」と思いきや…10年後、50代嫁が直面した“厳しい現実”

  • 2026.6.29
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。ファイナンシャルプランナーの柴田です。「これだけ尽くしたんだから、相応に報われるはず」。相続において、家族のために身を粉にして介護した人ほど、そう信じています。

でも実は、その10年の労苦が、法律上はわずか数十万円としか評価されないことがあるのです。今回は、義母を一人で看取ったAさん(55歳・女性)が、相続の場で直面した厳しい現実のお話です。

10年のワンオペ介護の末に提示された「120万円」

55歳女性Aさん(当時40代)は、要介護4の義母を在宅で介護するため、パートを辞めました。

夫は単身赴任で、実質的なワンオペ。義姉と義弟は「お手数おかけしますが、お任せします」と、年に数回顔を出すだけでした。

食事や入浴、排泄の介助、夜間の見守りなどの過酷な状況が10年続き、義母は息を引き取ります。

相続協議の場で、義姉と義弟は言いました。「介護してくれて本当にありがとう。相続では『特別寄与料』というのがあるらしいので、考慮しますね」。

その言葉にAさんはほっとします。ところが提示された金額は120万円。10年の介護に対する報いとして、あまりにも小さな数字でした。

なぜ、たった120万円だったのか

納得できないAさんは弁護士に相談します。そこで知ったのは、介護の貢献を金銭評価する仕組みの厳しさでした。

まず大前提として、嫁や婿のような相続人ではない親族の介護は、長らく一円も評価されませんでした。これを是正するため、2019年7月に「特別寄与料」という請求権の制度が新設されています。義理の娘が義父母を無償で介護したようなケースで、相続人に対して金銭を請求できるようになったのです。

ちなみに、混同しやすい「寄与分」と「特別寄与料」の違いは以下のとおりです。

  • 「寄与分」:相続人が被相続人の財産維持・増加に特別な貢献をしたとき、遺産分割で取り分を増やせる制度
  • 「特別寄与料」:相続人以外の親族が無償で療養看護などの特別な貢献をしたとき、相続人に金銭を請求できる制度

問題は、その金額の決まり方です。介護の特別寄与料は、実務上おおむね「介護報酬相当額×介護日数×裁量割合」という式で計算されます。ここに落とし穴がいくつもあります。

ひとつは単価。プロのヘルパーに頼んだときの料金ではなく、介護報酬基準をもとにした日額が使われ、その目安は1日あたり5,000〜8,000円程度です。

もうひとつは「裁量割合」。親族には扶養義務があり、介護の専門家でもないことを理由に、0.5〜0.8程度の割合がかけられて減額されます(一般的には0.7あたりが採用されるようです)。

さらに、入院していた期間や介護サービスを利用していた日は、介護日数から除かれます。10年介護したつもりでも、計算に使える日数はぐっと減ってしまうのです。

仮に日額6,000円、介護日数500日、裁量割合0.7で計算すると、6,000×500×0.7=210万円。数年尽くしても数百万円、というのが相場観なのです。

Aさんのケースでは介護日数が285日とみなされ、この式にあてはめると約120万円になります。「Aさんが納得できずに法的に争っても劇的には増えにくい」、というのが弁護士の見立てでした。

「特別の寄与」と認められるハードルの高さ

そもそも、貢献が金銭評価される前提として「特別の寄与」と認められる必要があります。これは、親族なら当然行うであろう範囲を超えた貢献でなければなりません。

しかも、評価されるのは財産の維持・増加につながった「労務の提供」に限られます。精神的な支えになっていただけでは、財産の維持・増加との因果関係がないとして認められません。

特別寄与料については、家庭裁判所で争われても、調停が不成立になったり取り下げられたりするケースは決して珍しくありません。「認められにくく、認められても低額」という現実があります。

失ったお金は、受け取れる額の何倍にもなる

ここで見落としてはいけないのが、「もらえる額」の裏で「失った額」がはるかに大きいという事実です。

Aさんが介護のために手放したパート収入は、10年で約1,200万円。さらに、厚生年金に加入できない期間が続いたことで、将来受け取る年金も、65歳から85歳まで受給すると仮定した場合で累計300万円超目減りすると試算されました。合計で1,500万円超です。受け取れる特別寄与料の何倍もの経済的損失を、すでに被っていたのです。

「介護は愛情でやるもの」という美談の裏で、特定の家族だけが大きな経済的犠牲を一身に背負っている。この現実から目をそらしてはいけません。

介護を始める「前」に家族で決めておきたい5つのこと

こうした事態を防ぐ最大のカギは、介護が始まる前の話し合いにあります。

1.負担の分担を決める:誰が何を担うのか。手を出せないきょうだいは、その分を金銭やサービスで補う。「お任せします」という丸投げは、トラブルになりかねません。

2.お金の精算ルールを決める:介護にかかる費用や、介護する人の逸失収入をどう扱うか。親(被介護者)のお金から定期的に支払う形にしておくと、後の争いを防げます。

3.介護記録を残すことに合意する:介護日誌、診断書、領収書。いざ寄与を主張するとき、これらの記録が立証の生命線になります。家族で「記録を残す」と合意しておきましょう。

4.遺言書で明文化してもらう:「介護してくれる人へ多めに遺す」と親自身が遺贈する旨を書いておけば、特別寄与料をめぐる争いそのものを避けられます。

5.負担付死因贈与契約または生命保険を活用する:確実に財産を渡す方法として、有効活用できます。

特別寄与料の計算は複雑であるため、判断で迷うケースが大半です。特別寄与料をめぐるトラブルを防ぐに越したことはありませんが、もしトラブルや意見の対立が起きた場合は、専門家に相談することをおすすめします。

まとめ

「これだけやったのだから」という思いは、残念ながら法律の世界では数字に換算され、しかもその数字は想像よりずっと小さくなりがちです(感情的にもなりやすいため、注意が必要です)。そして本当に大きいのは、受け取れる額ではなく、介護のために失った収入と年金のほうかもしれません。

現在の法律では、寄与分や特別寄与料という制度は介護者に報いるための機能を十分に果たしているとはいえません。介護をめぐるトラブルを防ぐためにも、愛情とは別にお金の話を家族でテーブルに乗せておきましょう。


執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

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