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6年前、社会現象を巻き起こした“30歳のサラリーマン”。メガヒット超大作に抜擢された「普通の青年」とは

  • 2026.7.4
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2022年3月、映画『チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』イベントでの赤楚衛二(C)SANKEI

役者の世界では、派手な役を派手に演じることはむしろたやすい。声を上げ、表情を作り、見せ場で見せ場らしく振る舞えばいい。難しいのはその逆で、何者でもない隣の机の男を、装飾を引いたまま画面の真ん中に立たせる芝居のほうだ。普通の青年は、普通に演じればただ薄くなる。

赤楚衛二は、その難しい側の名手として連ドラ主演を重ねてきた俳優だ。派手な台詞回しで顔を作らず、声で押さない。それでも画面の重心は、いつのまにかこの人のところに集まっている。

派手な設定を表情で受けない

赤楚の代表作のひとつといえば2020年、テレビ東京系で放送されたドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』だ。演じたのは、童貞のまま30歳を迎え、触れた相手の心が読める魔法を授かってしまう平凡なサラリーマンの安達清である。豊田悠の漫画を原作にしたこのドラマは、深夜帯から始まりながらSNSを中心に大きく広がり、社会現象と呼ばれる規模の話題になった。

注目すべきは、この役の難しさのありかだ。触れた相手の心が読めるという派手な設定は、芝居の側で過剰な反応を作りやすい。驚き、戸惑い、嬉しさを大きな表情で受ければ、設定の派手さに引きずられた一本になる。赤楚はそこを逆に処理した。心の声が聞こえても、安達の顔はほとんど動かない。動かないまま、内側で小さくほどける戸惑いだけが画面に残る。何者でもない30歳の男の体温を、一度も崩さずに通したのだ。

主役の横で温度を整える

赤楚は群像の若い男として合流していく。2021年のフジテレビ系木曜劇場『SUPER RICH』では、江口のりこ演じるベンチャー企業の社長の周辺で、インターンの春野優として画面に立つ。2023年のTBS系『ペンディングトレイン-8時23分、明日 君と-』では、未来の荒野に放り込まれた通勤電車の乗客たちの群像の一員として、災害下を生き延びる側の若い男・白浜優斗を担った。

ここで赤楚がやっているのは、主役の横にいる若い男の体温を整える芝居だ。社長の暴走を煽る側にも萎縮する側にも寄りすぎず、災害群像で悲鳴の中心にもなりきらず、その場の空気の温度を中和する位置に静かに座る。

隣に居てくれることで主役の輪郭が立ち、群像の温度が均される。普通の青年を演じる名手の本領は、こうした主役ではない持ち場にこそ素直に出る。何者でもない男のままで、画面の温度に効くのだ。

重い題材を内側で運ぶ

2023年の日本テレビ系『こっち向いてよ向井くん』で、赤楚は主演を任される。恋愛がうまくいかない30代の男・向井悟。社会的な肩書きで読者を引っ張る役ではなく、休日に冴えない自分を抱えるごく普通の青年だ。

翌2024年、フジテレビ系木曜劇場『Re:リベンジ-欲望の果てに-』で、フジテレビ系連続ドラマ初主演を引き受ける。演じたのは、大病院の理事長を父に持ちながら週刊誌の記者として働く天堂海斗である。医療事故をめぐる復讐劇という題材は、声を張れば張るほど派手になる作りだ。それでも赤楚は、復讐の毒を派手な抑揚で吐き出さない。家を出て週刊誌で働いてきた男が、父の病院の闇に手を伸ばしていく宙づりの心情を、表情の小さな揺れと沈黙の長さで運ぶ。

派手な題材を派手に演じるのではなく、内側の重さで運ぶ。肩書き上は最大化される2本を、赤楚は同じ普通の温度で通した。これは作りの選択であって、派手な台詞回しの不在ではない。

媒体を渡っても顔を作らない

2025年の映画『366日』では、HYの同名曲を下敷きにした青春ラブストーリーで、上白石萌歌演じるヒロインの相手・真喜屋湊として沖縄の青年を演じた。2026年のテレビ東京系『キンパとおにぎり〜恋するふたりは似ていてちがう〜』では、小料理店でアルバイトをしながら過去の駅伝候補の自分を抱える長谷大河を主演で背負う。共演のカン・ヘウォンとの距離が少しずつ縮まる過程を、台詞でなく時間で運ぶ役どころだ。

スクリーンに上がっても見せ場を作らず、配信に渡っても顔を派手にしない。媒体の論理に芝居を合わせず、普通の青年の温度のほうを背骨にしてしまう。普通を背骨にできる俳優は、媒体側にとっても器の広い手札になる。

大規模シリーズに普通の温度で入る

2026年8月公開の映画『劇場版TOKYO MER〜走る緊急救命室〜CAPITAL CRISIS』では、紛争地での医療経験を持つセカンドドクターの扇陽として、鈴木亮平演じる主役の真横に新メンバーとして合流する。シリーズを背負ってきた集団に、過酷な経験を持つ新しい医師が入ってくる位置どりだ。赤楚は重い背景を大きな芝居で押し出さず、いつもの普通の青年の温度のまま画面に立つ。重さを内側で運ぶ芝居が、そのまま大規模シリーズの中で機能する。

この間、赤楚は『六人の嘘つきな大学生』の波多野祥吾と『もしも徳川家康が総理大臣になったら』の坂本龍馬で、第48回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞している。スクリーンでも、同じ普通の温度を崩さずに立ってきた男に、賞のほうから追いついてきた格好だ。

普通の青年を、装飾を引いて画面に立たせる。声で押さず、表情で逃がさず、内側の温度だけで主役を成立させる。赤楚衛二は、その難しい仕事をいま最も静かにやってのける名手なのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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