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40年前、軽やかさの奥に隠れていた“ロックの骨格” 夜明けまでフロアを離さなかったダンス歌謡

  • 2026.6.30
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1986年12月、『Dance Beatは夜明けまで』で第28回日本レコード大賞金賞を受賞した荻野目洋子(C)SANKEI

夜明け前のフロアで、ミラーボールの光がまだ回っている。踊り疲れた足を、もう一度立ち上がらせる音が鳴り出す。スネアが前へ出て、ギターがリズムを押したり引いたりしながら、低い音がぐっと跳ねる。均等に拍を刻んで体を運ぶのではなく、押して、引いて、また押す。そのうねりに引っぱられて、止まりかけていた体が勝手に動き出す。

ディスコ全盛の空気を缶詰にしたような、踊らせるためのダンス歌謡。けれど、この軽やかな手ざわりの下には、ちょっと意外な骨格が隠れている。

荻野目洋子『Dance Beatは夜明けまで』(作詞:森浩美/作曲:NOBODY)ーー1986年6月10日発売

クレジットをたどると現れるロック畑の顔ぶれ

一聴すると、明るく弾けるアイドルのダンス歌謡だ。屈託のないメロディと、前へ前へと押してくるビート。けれど、クレジットをたどると、並んだ顔ぶれが俄然おもしろくなる。

作曲のNOBODYは、矢沢永吉のバックやレコーディングを長く支えてきた相沢行夫と木原敏雄のコンビだ。アン・ルイスの『六本木心中』や吉川晃司の『モニカ』を世に出した、れっきとしたロックの作り手たちである。編曲の西平彰もまた、沢田研二のバックバンド「エキゾティクス」の出身で、のちに吉川晃司や氷室京介のサウンドを組み立てていく人だ。つまり、この踊れる一曲を裏で設計したのは、丸ごとロック畑の職人たちだった。

だから、ビートの鳴り方が違う。ディスコの曲なら、太鼓が毎拍を均等に踏み続けて、体を一定の速さで運んでいく。ところがこの曲のリズムは、そうやって平らには進まない。スネアやギターが前にせり出して拍を押し、次の瞬間にはわずかに引いて、たっぷり粘る。

バンドが汗をかいて演奏するときの、あの押し引きのうねりが、そのまま打ち込みに移し替えられている。機械に踊らされるのではなく、生身のバンドにあおられて踊る感覚なのだ。軽いノリの奥でビートが妙に骨太に鳴るのは、けっして偶然ではない。

作詞を担った森浩美も、その推進力にしっかり噛み合っている。カタカナを威勢よく転がし、夜の高揚をまっすぐ押し出す言葉づかいは、跳ねるビートの上で転がすために選ばれたように響く。詞も曲も編曲も、すべてが「踊らせる」という一点へ、迷いなく組み上げられていた。

借りものの輝きを国産のダンス歌謡へ組み直す

荻野目洋子といえば、洋楽カバーの『ダンシング・ヒーロー』の鮮烈なヒットを、まず思い浮かべる人が多い。だが彼女は、当たった路線をただ繰り返しただけではなかった。次の一手として、チームはNOBODYに作曲を託し、借り物ではない自分たちのダンス歌謡を国産で組み立て始める。本作は、その流れのまさに中心で生まれた一曲だ。

舶来のディスコサウンドをそっくり輸入するのではなく、ロックの作り手たちが日本語のダンス歌謡として一から鳴らし直す。その狙いが、この曲ではくっきりと実を結んでいる。打ち込みの硬質な手ざわりと、生身のロックの体温が、同じ一曲のなかで握手している。

跳ねるビート、粘る低音、前に出るギター。そのどれもが、流行のサウンドをただ借りた曲には出せない手応えを残していく。何度聴いても耳が飽きないのは、この質感の落差があるからだ。

粘る低音をねじ伏せて連れていく歌の強さ

そして忘れてはいけないのが、その骨太なビートを軽々と乗りこなしているのが、ほかでもない荻野目洋子の声だということだ。

押し引きする容赦のないリズムに対して、彼女の声は張りとキレで真っ向から渡り合う。芯がまったく揺らがない。それどころか、跳ねるビートを後ろから引っぱっていくくらいの勢いがある。

声が前に出て、ビートを急かす。すると土台のほうも応じて、いっそう粘ってうねる。歌とリズムが互いをあおり合って、曲がどんどん前のめりになっていく。リズムに乗るのではなく、リズムをねじ伏せて連れていく。その強さが、この曲をただの打ち込み歌謡から引き離している。

当時の彼女は17歳。TBS系連続ドラマ『早春物語』で初主演を務め、その主題歌がこの曲だった。画面のなかで芝居をする17歳と、スピーカーから歌い上げる17歳が、同じ熱量で同時に走っていた。ドラマを見て、その歌を口ずさむ。その流れのなかに、荻野目洋子という存在がぴたりとはまっていた。

歌い手の若くまっすぐな熱が、ロック畑の作り手たちが引いた硬質な土台に、確かな体温を吹き込んでいた。設計の精度と、歌の勢い。その二つがかみ合ったとき、ダンス歌謡はただのBGMを超える。

軽さの奥で呼吸する骨格はいまも古びない

この曲が連れてくるのは、ミラーボールの光と、夜明け前の疲れと高揚が入り混じった、あの身体の記憶だ。アイドルのダンス歌謡という見た目の奥に、ロックの骨組みが一本通っている。それに気づいてから聴き直すと、押し引きするビートのひとつひとつが、急に頼もしく響いてくる。

だから、踊らせるためだけに作られたはずの一曲が、いま再生しても少しも古びない。荻野目洋子の声が、その粘るビートを今日もねじ伏せて、まだ夜明けまで踊らせようとしてくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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