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コシノヒロコさん、90歳を目前にした大展覧会。現役デザイナーが次世代へ伝えたい日本のファッション【特別インタビュー前編】

  • 2026.5.25
撮影=セドリック・ディラドリアン

90歳を目前に控え、ますます輝きを放つコシノヒロコさん。その矍鑠(かくしゃく)とした姿と、誰もが圧倒されるエネルギーは、いまなお衰えることを知りません。

そんな彼女の溢れ出るアイデアと情熱が凝縮された、記念すべき展覧会「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO -新説/真説 コシノヒロコ-」が2026年5月26日(火)より東京都現代美術館で開催されます。

言葉の端々から伝わってくるのは、生涯をかけたファッションへの情熱。芦屋のアトリエ、東京の事務所と2度の取材でお会いするたびに胸を打たれるのは、目の前の相手を思いやる、温かなおもてなしの心です。

「来て損はさせへんでぇ!」

そう茶目っ気たっぷりに笑うヒロコさんの言葉通り、会場には「とにかく楽しんでほしい、笑顔になってほしい」という思いの詰まった仕掛けが満載。始まりから終わりまで、ヒロコさんのファッションへの愛と未来への想いに包まれる、特別な空間が広がっています。

「やっぱり日本ってすごいな」って感じてほしい

撮影=セドリック・ディラドリアン

─ いまも現役でお仕事を続けられていますが、90代という次なるステージを目前に控え、どのような思いで展覧会を企画されていますか。

次の世代に繋いでいくこと。それが、今回展覧会をやろうと思った一つの大きな目的です。

ファッションもアートも、ものすごい数の作品があります。なぜいまそれを見せるのか。それは、単に「私がこれを作ってきました」と知ってほしいからではないんです。

それぞれの時代にどういう考え方で洋服を作ってきたか、素材や技術の面でどれくらい高いレベルの挑戦をしてきたか。その足跡を知ってほしいんですね。

なかには、ボロボロに見えたりする服もありますが、実は素材やカッティング、縫製に関して非常に難しいことをきちっとやっているんです。

社会が変わっていくにしろ、ファッションは常に循環しているもの。現にいまの若い人たちは、70〜80年代のアーカイブに面白さを見出して興味を持っていますよね。だからこそ、当時の洋服を“生々しく”見せていくことで、彼らにとって新鮮に映るんじゃないかと思っています。

日本のファッションデザイナーの歴史を振り返ると、私たちの世代が1970年頃から世界へ出ていき、80年代には世界に向けて「ジャポネスク(日本的な美)」を打ち出しました。

それを見た世界のトップデザイナーたちが反応し、一瞬、世界のファッションがジャポネスク一辺倒になった時代があったんですよ。

そうした類のものを、当時を知らない若い人たちに見せて、「やっぱり日本ってすごいな」と感じてほしい。これからの時代、国内だけで活躍するなんてあり得なくて、みんな世界を見据えて働いていかなきゃいけない。

次の世代の人たちが「日本」というアイデンティティを確実に自分のものにして、ほかの国の人たちには真似できない美しさを表現していってほしいんです。

そのためには、我々が長年作り続けてきた大量の作品を見てもらい、直接触ってもらうことが必要だと思っています。通常、美術館で作品に触れることはできませんが、今回の展覧会では触ってもいい洋服がある展示室を作っているんです。

もしその服について知りたかったら、触ってひっくり返して、何ならその場で身体に当ててもいいと思っているくらい(笑)。それが「間接的な教育」として伝われば面白いし、そこから何かを感じて自分の将来に役立ててほしい。人生を大きく変える力があるのも、やっぱりファッションの世界ですから。いつか良い結果に繋がれば、とても嬉しいなと思います。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO -新説/真説 コシノヒロコ-」展示風景、東京都現代美術館、2026年 Hearst Owned

─ 出展作品もご自身で検討され、複数のコラボレーションもされていますね。特に見てほしい部分や思い入れの強い企画を教えてください。

今回の展覧会、服や絵画は全部自分で選びました。出したい作品がありすぎて、チームからは「もう少し減らしてほしい」とまで言われてしまって(笑)。

スペースの関係上、本当に厳選しなきゃいけない。ざっと見繕って出したい作品が500点あったのに、人が歩くスペースを確保するとなると300点ぐらいしか展示できない。たくさんの作品を削らなきゃいけなくなって、これは苦渋の決断でした。

展示構成はコンセプトをはっきりさせて、たとえば「ジャポネスクポップ」みたいなものをメインに持っていきたいなと思っています。洋服と一緒に、同時代に描いた画を並べるキュレーションにしていきたいですね。

私の作品には、コレクションの布をキャンバスに貼り付けるなどして制作したアートがたくさんあるので、本当はコレクションの洋服とアートを並べて「あの服の布が、この画になりましたよ」という風に見せたいんだけど、そんなことしたら会場があと3倍くらい必要になっちゃう。

とにかく面白い服はたくさんあるので、見ているだけで楽しいと思いますよ。普通じゃない洋服の方が多いですから。綺麗にまとめすぎるのも好きじゃないので、全体的にカオスな、ぐちゃぐちゃっとしたエネルギーを感じられるような展示にしていきたい。昔作った洋服もそのまま通用するものが多いので、年代は関係なくミックスして展示する予定です。

若い人が展示を見に来たときに、盗むべきアイデアがいっぱい詰まっています。「盗む」というのは、いいと思うからそうするわけですよね。私はどんどん盗られた方が本望です。

撮影=セドリック・ディラドリアン

【展覧会での注目ポイント】

現代アーティスト、マティルド・ドゥニーズさんとのコラボレーション
絵画やインスタレーション、彫刻など幅広い表現で知られるマティルド・ドゥニーズさん。六本木の「ペロタン東京」では2026年6月27日まで個展<a href="https://www.perrotin.com/en/events/time-and-light-2026-tokyo" target="_blank" rel="nofollow">「Time and Light」</a>を開催中。 Photo by Claire Dorn. Courtesy of the artist and Perrotin

会場の壁一面を埋め尽くすのは、70×70cmのキャンバスに3色の絵の具だけを使って描いた平面作品の数々。

空間にはそれに呼応するように、フランス・パリを拠点に活躍する現代アーティストのマティルド・ドゥニーズさんがヒロコさんの布を使って制作した立体作品が隙間なく並びます。

「まさに『ヒロコVSマティルド』の構図です(笑)」とヒロコさん。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO -新説/真説 コシノヒロコ-」展示風景、東京都現代美術館、2026年 Hearst Owned
80年代カルチャーとの比較展示

80年代に活躍した倉俣史朗さんの「ミス・ブランチ」をはじめ、田中一光さんや石岡瑛子さんなどの作品と、同じ時代に制作されたヒロコさんの作品を比較していく展示。

「別の素晴らしい作品と一緒に“あの時代”を語っていくのも面白い試みかなと思っています。安藤忠雄先生の建築模型の横に私のペーパードレスを置いたり、NIKKOさんと作った私の器も展示します」

子どもたちが作った100体のぬいぐるみ

以前に開催されたワークショップで、子どもたちが自ら洋服を作って着せたぬいぐるみ100体が並びます。

「(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO -新説/真説 コシノヒロコ-」展示風景、東京都現代美術館、2026年 ©︎Yuya Furukawa

「ぬいぐるみの洋服には、私が作ってきた洋服の切れ端、つまりコレクションで使用した生地を使っているんです。子どもたちは高級かどうかや、値段はいくらなんて考えず、綺麗!と感じた布をさりげなく使っちゃう。彼らがどう感じてぬいぐるみの服を作ったのか、それを見るのが本当に面白いんです」

ショーで見せて終わりじゃない。それが「ファッション」

─ 身に纏う洋服と、飾るアートを描く時では、ご自身の中で使うエネルギーや視点に違いはありますか?

洋服をデザインしている瞬間は、私は絵を描いているのと同じ気持ちなんです。けれど、ファッションの場合は当然、イラスト(デザイン画)だけでは終わらない。

デザインが布に置き換わって立体になり、出来上がったものをコーディネートして、今度はメイクや音楽など、さまざまな要素をプラスしながらトータルでその存在を見せていく。だから、1人では絶対にできません。そこがアートの世界とファッションの世界の大きな違いです。

ファッションは、いかにたくさんの人たちとお互いにわかり合い、巻き込みながら作り上げていくか。そこが面白いところだと思うんですね。

洋服を見せるときに、ヘアメイクの人がとてもおもしろいアイデアを出してくれたり、すごくいい音楽が流れたりすることで、見え方が全然違ってきます。私たちはアクセサリーも靴も全部作っているけれど、最終的にお客様の目に届くショーやムービーの仕上げはヘアメイクと音楽。

高度なクリエイティブを経て、お客様が目にしたものを今度は店頭でファッションアドバイザー(販売員)が提案する。さまざまなプロフェッショナルによって、我々が作り上げたものを最後まで繋いで、お客様のもとにお届けする。そこまでが「ファッション」です。ショーで見せて終わりじゃないですからね。

─ 長年のキャリアの中で、美意識や色の使い方についての変化はありましたか?

撮影=セドリック・ディラドリアン

好きな色は、昔からずっと変わりません。自分の根底に必ずあるのは、子どものときに観た歌舞伎のきらびやかな金の衣装やその配色。とんでもない色を掛け合わせたりするのはよくやっているんですけど、あの辺りの色彩感覚は、育ちの中で自分の中に刷り込まれたもので、一生取れないものですね。

ただ、制作した時代によって、社会のテクノロジーによる変化はありました。昔は「蛍光色」というものは世の中に全然なかったんです。ある時代から蛍光灯が普及し、それが今度は色に反映されてきて、世の中に蛍光色ブームみたいなものが起きた。

昔の絵の具に蛍光色なんてなかったけれど、いまは少し蛍光カラーもありますよね。カラーテレビや映像メディアが流行してきた時も、それまでの色とはまたちょっと違った写り方、見え方になってきた。テレビの画面って、内部ですごく蛍光してるでしょう? そうなると、電化製品の進化の中で、色の見方や美しさの視点がちょっと違ってくると思うんです。

私は色の変化をいち早く察知して取り入れてきました。ただ、私の場合はそれだけを使うんじゃなくて、昔から自分の中に潜在している日本的・古代的な色に対して、新しい蛍光色を交差させながら、新たな世界を作ろうとしてきた。だから、新しい色はもうどんどん作っているし、使い続けています。

─ 今回は展覧会のオリジナルグッズまでも自ら手掛けられているそうですね。グッズについても詳しく教えてください。

そうなんです。“展覧会に来たからこそ買える”どこにも絶対売っていないものをいろいろと作っています。カワチ画材のパステルセット(限定100セット)など、とっても珍しいものをいっぱい出しますよ。会期の初めで売り切れてしまいそうで心配なんです。欲しい方はぜひお早めに。

会場では創作の原点である「河内洋画材料店のパステル」10色セットを100セット限定で販売。ヒロコさんがキャンバスに即興描画したパステル作品(全100枚)をプリントした世界に1つしかないパステル用ミニバッグがつく。 Hearst Owned

それから、カラフルな色紙の切り紙をモチーフにしたトートバッグやTシャツも作っています。まさに「これぞヒロコ!」という抜群の色の組み合わせで作っていますので、こちらも楽しみにしてください。

展覧会を見に来て終わりじゃなくて、「見に行ってものすごくよかった」って思ってもらえるような体験にすることが私の狙いです。

※「【特別インタビュー後編】89歳でYouTube開設にスマホ活用。時代に適応する“ヒロコ流マインド”とは」は、5月31日(日)19時に公開予定です。

コシノヒロコ○1937(昭和12)年大阪府生まれ。文化服装学院在学中から才能を発揮し、以来、国内のみならず世界的に活躍。1978年にはローマで日本人として初となるコレクションを発表するなど、つねに先駆的な活動でファッション界をリードし続けてきた。2018年、神戸ファッション美術館名誉館長に就任。2021年には兵庫県立美術館にて特別展「コシノヒロコ展 EX・VISION TO THE FUTURE 未来へ」を開催。現在も現役デザイナーとして第一線で活躍している。

Hearst Owned

■(UN)KNOWN HIROKO KOSHINO -新説/真説 コシノヒロコ-
会期/2026年5月26日(火)~7月26日(日)
会場/東京都現代美術館 企画展示室 B2F
開館時間/10時~18時(入館は閉館の30分前まで)
休館日/毎週月曜日(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)
観覧料/一般 2,200円、大学生・専門学校生・65歳以上 1,500円、中学・高校生 800円、小学生以下 無料 ペアチケット4,000円
tel.03-5245-4111
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東京都江東区三好4-1-1

東京都現代美術館

撮影=セドリック・ディラドリアン 編集=井本茜(婦人画報編集部)

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