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新章を担うデザイナーに見る、希望の兆し。ミラノ最前線をリポート

  • 2026.5.18
LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

前編で見たように、今季のミラノは各メゾンが原点と向き合い、そのコードを現代へと翻訳する姿勢が際立った。一方で後編では、継承に加えて、変化の兆しや新たな視点にフォーカスしたい。

セカンドシーズンを迎えたシモーネ・ベロッティによる「ジル サンダー」2026-27年秋冬コレクション。 Stefania Danese / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

デビューコレクションやセカンドシーズンといった節目に立つデザイナーたちは、ブランドの歴史を踏まえながらも、自身の感性をどのように重ね、更新していくのか。その試行錯誤は、より個人的でありながら、同時に時代の空気を鋭く映し出している。

シルヴァーナ・アルマーニによる新章の幕開けとなった「ジョルジオ アルマーニ」2026-27年秋冬コレクション。 paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

シルヴァーナ・アルマーニによる新章の幕開け、セカンドシーズンを迎えたルイーズ・トロッターとシモーネ・ベロッティの進化するビジョン、そして各ブランドが提示する次なる方向性。ミラノは今、継承と革新が交差する移行期にある。その動きを象徴する4つのコレクションをダイジェストで振り返る。

ボッテガ・ヴェネタ

デビューコレクションが好発進だったルイーズ・トロッターによる「ボッテガ・ヴェネタ」の勢いは、さらに加速している。セカンドコレクションでは、ブランドの象徴であるイントレチャートに続き、“テクスチャー”を主役に据えたシーズンとなった。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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赤いカーペットを駆け抜けるように登場したルックは、シルクやファイバーグラス、シアリングなど多様な素材が揺れ、弾み、視覚的な躍動を生み出す。クラフツマンシップを軸に、触覚に訴える豊かな表現がコレクション全体を貫いていた。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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中でも印象的だったのは、“けば立ち”のバリエーションだ。整えられた光沢のある表面から、野性的で奔放な質感まで、その振幅は幅広い。同時に、トロッターは彫刻的なテーラリングにも注力し、丸みを帯びたショルダーや流れるようなラインによって、構築と柔らかさのバランスを巧みに描き出した。ファイバーグラスやレザーの加工は、従来の素材の枠を超え、衣服そのものに新たな存在感を与えている。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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今季のコレクションは、「ブルータリズムと官能性の対話」というテーマのもと、硬質さとしなやかさが共存する世界観を提示した。ミラノという都市の持つ武骨さと内に秘めた色気を重ねながら、トロッターはブランドのクラフトを拡張していく。実験性と実用性を行き来するアプローチは、「ボッテガ・ヴェネタ」を新たなステージへと押し上げている。

Hearst Owned

ジル サンダー

シモーネ・ベロッティによる「ジル サンダー」は、ファーストシーズンのピュアなミニマリズムに、あえて“粗さ”や“違和感”を持ち込んだ意欲的な試みだった。写真家アンダース・ペーターセンの写真集『Café Lehmitz』は今回のコレクションの着想源の一つ。そこに写る武骨で人間味あふれる人物像のように、不完全さや曖昧さを肯定するムードがコレクション全体に漂っていた。

Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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テーラリングはあえてバランスを崩し、着丈の長いジャケットや、背中が詰まったようなシルエット、躍動感のあるフォルムなど、従来の均整を裏切るデザインが目を引く。

Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

擦れたスエードや使い込まれたような素材、ソファを思わせるツイードなどには、デザイナーの個人的な記憶も重ねられている。一方で、黒のレザーコートのようなブランドらしい洗練も健在で、“完璧と不完全”が絶妙なバランスで同居する。

Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Alessandro Lucioni / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

さらには、ディテールへのこだわりも際立つ。わずかにズレた襟元や非対称のドレープ、差し込まれるコバルトブルーやライラックといった色彩が、抑制された中にリズムを生む。ミニマリズムでありながら、どこか人間的で、自由で、そして官能的。ベロッティは「抑制は解放によって表現できるのか」という問いに対し、矛盾を受け入れることで、現代的な「ジル サンダー」像を描き出した。

Hearst Owned

ジョルジオ アルマーニ

創業者ジョルジオ・アルマーニのめいであり、長年にわたり「ジョルジオ アルマーニ」に携わってきたシルヴァーナ・アルマーニ。40年以上に及ぶ経験を経て、自身初となるウィメンズウェアのショーが披露された。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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流れるようなアンコン仕立てのスーツやワイドパンツ、力強いショルダーのコートといったブランドのコードを踏襲しながらも、そこには確かに“女性の視点”が息づいている。コレクションは、彼女自身のワードローブを起点に、シンプルで実用的、そしてエレガントであることを追求したもの。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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無駄をそぎ落としたレイヤリングやミニマルな装飾、柔らかな素材使いが、身体を優しく包み込みながら自然な動きを引き出す。グレーやセージ、ブルーを基調に、ホワイトやバーガンディが静かなアクセントを添え、全体に穏やかで洗練された空気をもたらしていた。

paolo lanzi / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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ベルベットのイブニングルックや東洋的な要素を感じさせるディテールには、創業者ジョルジオ・アルマーニへのオマージュが込められている。同時に、過去と現在をしなやかに行き来しながら、ブランドの本質を見つめ直す姿勢が印象的だ。シルヴァーナのもとで、「ジョルジオ アルマーニ」はより柔らかく、より日常に寄り添うかたちで、新たな章へと歩み始めている。

Hearst Owned

ディーゼル

ミラノ・ファッション・ウィークの幕開けを飾った、グレン・マーティンスによる「ディーゼル」。会場中央には、世界中のアーカイブから集められた5万点以上のオブジェクトが積層し、シュールレアリスムな“庭園”が出現した。そこには、過去の祝祭の痕跡と無数の物語が交錯するブランドの世界観が広がり、ゲストはカオティックな“ディーゼルの宇宙”へと引き込まれていった。

Launchmetrics.com/spotlight
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コレクションは、“ウォーク・オブ・シェイム(ちょっと気まずい朝帰り)”という曖昧で官能的な瞬間から着想を得ている。レジンで硬化されたシワ入りデニムやニット、身体に巻きつく錯視的なシルエット、ウールの端切れを圧着したテーラリング、炎のような色をまとったフェイクファーなど、実験的な素材表現がさらに進化している。

Launchmetrics.com/spotlight
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グリッターやクリスタルの輝き、内側からにじむような色彩が、記憶の曖昧さと快楽の余韻を映し出し、「乱れた装いこそが最もセクシーである」というマーティンスらしい享楽主義の美学を印象づけた。

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とはいえ、その大胆さは決して過剰にはならず、むしろブランドのレイヴカルチャーと反骨精神を洗練された形へと昇華している。「メゾン マルジェラ」で培った前衛的な視点と、「Yプロジェクト」での実験性を背景に、マーティンスはショーとしての迫力と実際に着られる服のバランスを見事に両立させている。楽しむことこそが現代の豊かさである——そんなメッセージが今季も力強く響いていた。

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