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「愛と欲望のラーメン。」編集後記:あなたのラーメン、私のラーメン

  • 2026.5.18
No.1054 編集後記

あなたのラーメン、私のラーメン

「ラーメンが好きです」と、あまり人に話したことがありませんでした。学生時代から日常的にラーメンを食べに行っていたし、社会人になってからも週1・2回は食べていて、休日は電車に乗って遠くのラーメン屋さんに向かうこともあるなど相応の自覚はあったのにです。目の前の丼だけに集中して湯気と匂いに包まれながら一杯に没入する時間には、長年ほかの食事にはない特別な感覚を抱いていましたが、一方でこれはごく個人的な楽しみでありマニアでもない自分がラーメン好きを名乗るには畏れ多いなと、どこかで気後れしていたように思います。

そんな感覚が変わったのが、〈BAR山元〉山元涼子さんと〈EUREKA!〉千葉麻里絵さんとの出会いでした。山元さんとは2023年のカクテル特集、千葉さんとは24年の酒場特集の取材でお世話になりましたが、その後にお二人とも大のラーメン好きであることを知りました。お店に伺い「どんなラーメンがお好きなんですか?」と軽率に質問すると、山元さんはかつて武蔵境にあった〈ラーメン きら星〉、千葉さんは地元盛岡の〈柳屋〉のエピソードを皮切りに、それぞれが感銘を受けてきたお店やその一杯を食べた時の心情をじっくり話してくださったのです。

気づけば時間を忘れて聞き入っていました。二人の記憶を追体験しているような気分で、私もいつかその味を確かめたいとも思いました。同時にラーメンはすごくパーソナルな食事で、不思議と一人ひとりの体験や記憶が結びついている。そこにそれぞれの”好き”があるんだなと気付かされました。「私はこの一杯が、こんな理由で好きなんです」という話には、その人の記憶や価値観が自然とにじみ出ていて、好きな映画や音楽の話を聞く時に近い面白さがありました。

今回の特集は、そんな感覚を手がかりに作ったものです。〈麺や七彩〉阪田博昭さん、文筆家で“ラーメン考古学者”の渡邊貴詞さん、『趣味の製麺』の玉置標本さんとマダラさん、料理家の稲田俊輔さん、〈マルディグラ〉和知徹さん、〈ビーバーブレッド〉割田健一さん、〈南野商店〉南野マキさん、〈サニーデイ・サービス〉田中貴さんなど、ラーメンへの個性的な“好き”を持つ方々のご協力により、ユニークなラインナップの159杯が登場します。マニアが信頼を寄せる名店の一杯から、地元に愛される老舗町中華の中華そば、バーで味わえる締めの一杯、ガストロノミックな創作系、製麺所が贈る絶品乾麺や、コンビニで買える身近なカップラーメンまで。作り手と食べ手、一杯の背景にあるそれぞれの記憶や偏愛も含めて、楽しんでいただけたら嬉しいです。

No.1054『愛と欲望のラーメン。』編集後記
校了中に食べに行った築地〈幸軒〉のラーメン。早朝6時半、店内に流れるラジオ体操をBGMに生姜が香り立つ醤油スープを体に流し込みました。五臓六腑に染み渡ります!

 

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瀬下裕理(本誌担当編集)

せしも・ゆり/『BRUTUS』編集部員。ソウルミュージック、お笑い、SF、ハロプロ、もんじゃ、ラーメン好き。

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