1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 大人の教養【絵画の観方】「モナ・リザ」はなぜスゴイ?思わず人に話したくなる「描き方の歴史」

大人の教養【絵画の観方】「モナ・リザ」はなぜスゴイ?思わず人に話したくなる「描き方の歴史」

  • 2026.5.14

絵画の背景にある「歴史」を知ると“時代の目”をインストールできます。本記事は美術史ソムリエの井上響さんの著書『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』より一部抜粋し、絵画の描き方を変えた歴史の変遷を辿ります。

教えてくれた人:井上響(いのうえ・ひびき)さん

美術史ソムリエ、クリエイター。東京大学文学部人文学科美術史学専修卒。「美術館が2割面白くなる解説」というTikTokアカウントをメインに、西洋絵画の背後にある物語や美術史を誰でも楽しめるように発信。2025年2月現在、SNS総フォロワーは15万人を超えている。

監修:秋山聰(あきやま・あきら)さん
1962年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。著書:『デューラーと名声―芸術家のイメージ形成』(中央公論美術出版)、『聖遺物崇敬の心性史―西洋中世の聖性と造形』(講談社)、『旅を糧とする芸術家』(共著、三元社)、『西洋美術史』(共編著、美術出版社)など。

※本記事は『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』(KADOKAWA刊)より一部抜粋して構成しています。

今回は、美術の造形の変遷を記録した「歴史」のターニングポイントとなる作品を、解説しながら見ていきます。「歴史」を知っておくと、描かれ方から絵画を分析できるようになります。

絵画はずっと同じ描かれ方をしていたわけではありません。当時の人からすると非常識に思えるような表現が発明され、描き方が変わっていったのです。

【歷史編】ダ・ヴィンチに影響を与えた3人の画家

レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》 1503-19年、ルーヴル美術館、パリ(フランス)
レオナルド・ダ・ヴィンチ《モナ・リザ》 1503-19年、ルーヴル美術館、パリ(フランス)

おそらく、あなたは上の絵を一度は観たことがあるのではないでしょうか。

美術史家でもある16世紀のイタリア人画家ジョルジョ・ヴァザーリは、この絵についてこのように述べています。

「芸術がどれほどまで自然を模倣することができるかを知りたいと思う人があれば、この肖像によって容易に理解することができるであろう。なぜなら、ここには精緻きわまる筆で描きうるすべての細部が写されているからである」

(引用:『芸術家列伝3レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ』(白水Uブックス)ジョルジョ・ヴァザーリ(著)、田中英道、森雅彦(訳)白水社Kindle版「レオナル・ダ・ヴィンチ)

ダ・ヴィンチは、それまでの技術をすべて取り入れ融合させた、この時代の頂点と言って過言ではない画家です。そのスゴさを語る前に、ダ・ヴィンチ以前の歴史のターニングポイントを形成した、3人の画家を簡単に紹介していきましょう。

一人目は、自然を自然らしく描くことを始めた、14世紀フィレンツェの画家ジョット。彼のおかげで画家たちは、「絵に描かれる人間は自然に、そして本物そっくりに描くことができるもの」と知り、現代につながる写実的な絵画が描かれるようになっていきました。

二人目は、「遠近法」を取り入れ、画面に奥行きを与えた15世紀の画家、マザッチョ。彼の作品は、それまであった「どこか歪(いびつ)な空間表現でも気にしない。それが当然のもの」とする風潮を変え、「絵とは完璧な奥行きを持っているもの」という意識の変化を起こしました。

三人目は、徹底的にリアルに描くことを始めた15世紀の画家、ファン・エイク。彼は、高度に完成させた油絵具の技法で、それまでの絵画になかった微妙な色彩や、美しい透明感を表現。「色も限りなく本物に近づけることができるもの」という革新をもたらしました。

彼らの作品にまつわる深いエピソードは、僕の書籍『美術館が面白くなる大人の教養「なんかよかった」で終わらない絵画の観方』で詳しく紹介しているので、ぜひチェックしてみてくださいね。

《モナ・リザ》に見る「究極のリアル」の実現

まず、フィレンツェの画家・ジョットから始まる、「自然らしく描く」伝統。これをダ・ヴィンチは、究極の形まで高めたと絶賛されています。

(左)ジョット《荘厳の聖母(オニサンティの聖母)》1310-11年頃、ウフィツィ美術館、フィレンツェ(イタリア)
(左)ジョット《荘厳の聖母(オニサンティの聖母)》1310-11年頃、ウフィツィ美術館、フィレンツェ(イタリア)

左の絵はジョットの《荘厳の聖母(オニサンティの聖母)》ですが、今一度《モナ・リザ》(右)と見比べてください。全体的に別格と言っていいほど《モナ・リザ》の方がうまいのは一目瞭然だと思うのですが、注目してほしいのは人物のポーズの自然さです。

ジョットの作品は人物像から受ける硬い質感以外にも、人物のポーズの自然さがやはりどことなく不足しているように感じます。どこか強張ったような硬い印象をジョットの作品からは受けます。

ジョットが描いた当時としては、革新的なまでに自然だともてはやされた絵画も、ダ・ヴィンチによる自然なポーズと比較するとどうしてもわざとらしく作り物のようなポーズに見えてしまいます。

また《モナ・リザ》は単に姿勢が自然なだけではありません。やはり細部の表現が素晴
らしいです。

次は、ファン・エイクの《アルノルフィーニ夫妻像》と見比べてみましょう。

(左)ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》 1434年、ナショナル・ギャラリー、ロンドン(イギリス)
(左)ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》 1434年、ナショナル・ギャラリー、ロンドン(イギリス)

手を比較してみると、どちらも手のひらのシワの部分まで描き込まれていて、両者ともに細かく描き込まれているのがわかります。

「モナ・リザ」はなぜスゴイ?思わず人に話したくなる「描き方の歴史」

しかしダ・ヴィンチの方しか表現できていない要素があります。それは皮膚の持つ柔らかさ、肉体の感覚です。ファン・エイクの描く人間はどこか木のような硬い感覚を受けませんか? それに対してダ・ヴィンチの描く手は、触ったら押し込めそうな柔らかさを感じます。

柔らかい肉体の感じと、木彫りのような肉体。その違いは顔を観ても感じます。このような柔らかい肉体を描くことが、ダ・ヴィンチにはできたのです。

そんなダ・ヴィンチの秘密の一つに、彼が発明したとされる技法「スフマート」の存在があります。薄く絵具を塗り重ねることによって、線を使わずにぼかしながら描くこの技法により、豊かな立体感と柔らかい印象が生まれているのです。

傑作《最後の晩餐》ダ・ヴィンチが評価される理由

ダ・ヴィンチが、それまでの成果を十分に学んでいたことは、マザッチョが15世紀に取り入れ始めた「遠近法」についても言えます。

彼の傑作である《最後の晩餐》を観れば、彼がいかに遠近法を駆使していたのか理解できるでしょう。この絵画は、イエス・キリストが弟子達に向かって、この中に裏切り者がいると告げた場面を描いた作品です。

レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》1495-98年、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院、ミラノ(イタリア)
レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》1495-98年、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院、ミラノ(イタリア)

イエスの言葉を聞いた弟子たちの動揺、困惑、恐れ、疑問、主張。豊かな広がりを持つ空間の中で、人物たちが自然な立体感を持って描かれています。

言葉はいらないでしょう。ここまで記事を読んだあなたなら、その自然さ、豊かな感情表現と技術にきっと驚くはずです。

「彼のみがあらゆる人々に勝った。フェイディアスにも、アペレスにも、そしてすべて彼らに優るものにも勝った」

[引用:『芸術家列伝3レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ』(白水Uブックス)ジョルジョ・ヴァザーリ(著)、田中英道、森雅彦(訳)白水社Kindle版「レオナルド・ダ・ヴィンチ」]

フェイディアスとアペレスは古代ギリシャの芸術家です。彼らは史上最高の芸術家と言われていました。そんな過去の偉大な芸術家、世界最高とされる芸術家と比較しても、勝るとも劣らないと考えられていたのが、レオナルド・ダ・ヴィンチなのです。

それまであった絵の常識

  • 人間の皮膚の柔らかさは表現できない
  • どこか歪な人間しか描くことはできない

ダ・ヴィンチによる絵の革新

  • 理想的な人間を、皮膚の柔らかさまで写実的に表現することができる

さて、ここまでいろいろな視点を使って作品を鑑賞してみました。

自分が作品を観たときも「なんか良かった・悪かった」だけでなく、もっと深く言語化できそうと感じたでしょうか?

美術館に行ったときに、物語と歴史の知識を生かすことができれば、鑑賞体験はきっともっと豊かになるはずです。

※HALMEK upの人気記事を再編集したものです。

元記事で読む
の記事をもっとみる