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一夜にして1800人が死んだ「ニオス湖の大惨事」の真相とは

  • 2026.5.10
ニオス湖/ Credit: en.wikipedia

1986年8月21日の夜、アフリカ中部・カメルーン北西部の村々で、まるで時間が止まったかのような光景が広がりました。

人も家畜も、鳥も昆虫も、ほとんど音を立てないまま倒れていたのです。

火山が爆発したわけでも、洪水が押し寄せたわけでもありません。

しかしニオス湖の周辺では、一夜にして約1800人が命を落とし、約3500頭の家畜も死亡しました。

この大惨事の犯人は、炎でも溶岩でもなく、目に見えない「二酸化炭素」でした。

では、なぜ静かな湖が突然、周囲の村を死の世界に変えてしまったのでしょうか。

目次

  • 静かな湖から流れ出した「見えない死の空気」
  • 湖底にたまった二酸化炭素が「巨大な炭酸飲料」のように噴き出した

静かな湖から流れ出した「見えない死の空気」

ニオス湖は、カメルーン北西部にある長さ約1.9キロ、深さ約200メートルの火口湖です。

普段は青く美しい湖として知られていましたが、1986年8月21日の夜、その湖は突然、周囲の村々を巻き込む大災害を引き起こしました。

午後9時から10時ごろ、湖の近くにいた住民たちは、奇妙な地鳴りのような音を聞きました。

湖に近い場所では、水が泡立つような音が聞こえたとも言われています。

その後、湖から白い煙のようなものが立ち上り、北の方向へ流れていきました。

ニオス湖/ Credit: en.wikipedia

しかしそれは普通の煙ではありませんでした。

正体は、湖の地底から一気に放出された大量の二酸化炭素です。

二酸化炭素は空気より重いため、上空へすぐに散っていくのではなく、地面を這うように谷へ流れ込みました。

まるで目に見えない空気の毛布が、低地の村々を覆っていくような状態です。

近くの村々に住む多くの住民は眠っている間に、あるいは異変に気づく間もなく意識を失い、そのまま窒息しました。

二酸化炭素そのものは、強い毒性を持つガスではありません。

私たちも呼吸によって二酸化炭素を吐き出しています。

しかし高濃度になると、空気中の酸素を押しのけてしまいます。

そのため、周囲が二酸化炭素で満たされると、人や動物は酸素を取り込めなくなり、意識を失ってしまうのです。

このときのガス雲は、谷やくぼ地にたまりやすく、高い場所にいた人ほど助かりやすかったと考えられています。

実際、生存者の多くは高地に住んでいた人々でした。

彼らは6時間から36時間ほど昏睡状態に陥り、目を覚ましたときには、家族や村の人々、家畜が一斉に倒れている光景を目にしました。

救助隊が現地に入ったのは、災害発生から約36時間後でした。

カメルーン軍の支援を受けた救助隊は、防護装備と酸素ボンベを身につけて村に入りましたが、被害はあまりにも大きく、犠牲者を一人ずつ葬ることはできませんでした。

そのため、集団墓地が掘られることになりました。

また、普段は鮮やかな青色だった湖の水は、噴出後に赤褐色へ変わっていました。

これは、湖底の深い水が一気に表面へ上がり、そこに含まれていた鉄分が空気に触れて酸化したためと考えられています。

つまり、湖の色の変化そのものが、湖底で起きた大規模な水のかき混ぜを物語っていたのです。

湖底にたまった二酸化炭素が「巨大な炭酸飲料」のように噴き出した

ニオス湖の大惨事は、現在では「湖水噴火」と呼ばれる現象だったと理解されています。

湖水噴火とは、火山性の湖などで、湖底に溶け込んでいた大量のガスが、あるきっかけで一気に放出される現象です。

ニオス湖の場合、主役となったガスは二酸化炭素でした。

湖は休止火山やマグマだまりの近くにあり、地下から二酸化炭素を含むガスが少しずつ供給されていました。

そのガスは地下水を通じて湖底へ入り、深い水の中に長期間蓄積していったと考えられています。

普段は静かに見えても、内部には大量のガスがたまっていたのです。

亡くなっていた家畜/ Credit: en.wikipedia

では、何が最初の引き金になったのでしょうか。

候補としては、地すべり、小さな地震、湖底での小規模な火山活動、冷たい雨水の流入による湖水の不安定化などが考えられています。

ただし、これについては現在も断定されていません。

重要なのは、湖底に大量の二酸化炭素がすでに蓄積しており、湖そのものが非常に不安定な状態になっていたことです。

引き金が何であれ、危険の本体は「見えないガスの貯蔵庫」と化していた湖底にありました。

ニオス湖の災害後、科学者たちは再発を防ぐ方法を考えました。

当初は湖を爆破してガスを抜く案まで検討されたとされていますが、最終的にはより安全な方法として、脱ガス装置(パイプ)が採用されました。

これは湖底のガスを多く含む水をパイプで引き上げ、少しずつ安全に二酸化炭素を逃がす仕組みです。

2001年には深さ約203メートルまで届く恒久的なパイプが設置され、その後2011年にはさらに2本のパイプが追加されました。

この対策によって、湖底に二酸化炭素が過剰に蓄積する危険は大きく減らされました。

しかし、ニオス湖周辺の問題が完全に終わったわけではありません。

当局は住民を移住させ、湖の近くに戻らないよう呼びかけてきました。

それでも一部の人々にとって、そこは祖先から受け継いできた土地です。

危険を承知しながらも、故郷へ戻りたいと考える人たちもいます。

ニオス湖の大惨事は、自然災害が必ずしも轟音や炎を伴うとは限らないことを教えています。

ときには静かな湖の底で、目に見えない危険が長い時間をかけて蓄積しているのです。

参考文献

In 1986, Something At Lake Nyos Killed 1,800 People In One Night. It Took Months To Figure Out What
https://www.iflscience.com/in-1986-something-at-lake-nyos-killed-1800-people-in-one-night-it-took-months-to-figure-out-what-83303

The 1986 Deadly Gas Blanket From Lake Nyos
https://explorersweb.com/the-1986-deadly-gas-blanket-from-lake-nyos/

元論文

Using asteroid early orbital data for rapid mars missions
https://doi.org/10.1016/j.actaastro.2026.04.018

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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