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『プラダを着た悪魔2』はどこまで本当? ELLEの歴代編集長が明かす“エディターあるある”

  • 2026.5.8
CEDRIC DIRADORIAN

モード誌の舞台裏と、ファッションを通して主人公の成長を描いた名作『プラダを着た悪魔』の続編が20年越しに公開される。いち早く鑑賞した“日本版プラダを着た悪魔”の異名を持つ(?)編集長を務めたおふたり、ELLEをはじめ各モード誌の編集長を歴任したファッションジャーナリストの塚本 香氏と、坂井 佳奈子ELLE編集長が、作品の見どころと、リアルすぎる“編集部あるある”を赤裸々にクロストーク。

『プラダを着た悪魔2』は、“編集部あるある”の宝庫

坂井(以下、S) 今日の塚本さんのお召し物は?

塚本(以下、T) 今日はプラダでなくてヴァレンティノ。私の大好きなピエールパオロ・ピッチョーリ時代の2019年春夏コレクションです。古いものですが、気に入っています。

S 素敵です! 私はトップスがドリス ヴァン ノッテンの2026年春夏コレクションで、ネックレスとリングはヴェルニエというミラノブランド。『プラダを着た悪魔2』の劇中でミランダも着用していたものを、お借りしてきました。さて、ネタバレ注意でお話したいんですけれども、「あの映画で描かれているモード誌の世界って本当なんですか?」って仕事柄よく聞かれますよね。塚本さんはどうですか?

T 前作はもちろん、『プラダを着た悪魔2』もかなりモード誌の舞台裏、実情に近い部分を描いてますよね。ミランダみたいな編集長は……昔はいました(笑)。あそこまでプライベートな無茶振りをする人はいなかったかもしれませんけど、仕事の上では「どうしてできないの?」「できるでしょ」っていうことはありましたよね。

S そうですよね。そういう時代だったということもあるかもしれません。塚本さんは「フィガロジャポン」、「エル・ジャポン」、「ハーパーズ バザー」の編集長を歴任される以前に、「ヴォーグ」日本版でファッションディレクターを務められていましたが、ニューヨークのオフィスにあるクロゼットのエピソードは、以前聞いて痺れました。

T 前作『プラダを着た悪魔』で、主人公アンディが編集部のクロゼットから服を借りていくシーンがありましたよね。ニューヨークにある「ヴォーグ」オフィスには、本当に立派なクローゼットがあるんです。そこはリアル。撮影用の服がぎっしりと詰まっていて。日本にいる私たちは、撮影で使いたいサンプルルックが日本にない場合には海外から取り寄せるのですが、それでもなかなか入手できないこともあります。当時ニューヨークでの撮影で、まさにプラダのルックを探していたとき、本当に入手できなくて。そんなとき、現地オフィスで働いていた同僚が「絶対あそこのクローゼットにあるはずだ」と見に行ったら、本当にあった。しかも2着も(笑)。私たちは「すみません、それをお貸しください」といって、無事に撮影できたという話です。そういうミラクルな話はたくさんあります。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

S 編集部あるあるで言うと、アンディの「デスクの下にヒールの靴を隠しておく」ということもリアルですね。大事な時に履き替える。私は逆で、外から帰ってきたらヒールからフラットシューズに履き替えていました。

華やかなミラノコレクションの場面。エディターの実情は?

S 『プラダを着た悪魔2』では、ミランダご一行がミラノコレクションを訪れるシーンが華やかなハイライトでした。実際にミラノで撮影されたそうです。

T あのようにコレクションに行って、ファッションエディターって現地で何しているんだろうと思われるかもしれませんね。実際には、会場に入って、ランウェイに登場する次シーズンの服を見て、次はどんなムードになるか、デザイナーたちは何を伝えたいのか、色やシルエットはこう変わっている、というポイントを見ます。それと同時に、空いている時間は注目のセレクトショップにいって、リサーチして。リサーチという名のお買い物ですね(笑)。

CEDRIC DIRADORIAN

S 毎日、朝9時から夜8時まで1時間おきにファッションショーを見ています。ミランダたちのように、あんな華やかに来場するゲストは一部のセレブリティだけ。最近では、インフルエンサーや人気歌手といったセレブリティを撮りに来ているパパラッチの数が多いです。私たちはその人だかりの隙間を「すみません、すみません」とかき分けて、なんとか会場に入って行くような現象がここ数年続いています。

T どのブランドにも、そのブランドをまとったスターが来場しているので、そのファンの方々も、恐ろしいほどたくさんいらしてますよね。コンサート会場並みの熱気です。

エディター仕事の醍醐味。インタビューシーンに思うこと(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

S 『プラダを着た悪魔2』の重要な場面といえば、ミランダとアンディが取材に行くシーンがありましたよね。インタビューは、20年前も今も変わらずエディターの重要な仕事のひとつですが、塚本さんは過去に印象に残っているインタビューはありましたか?

T 一度「ハーパーズ バザー」で、マルジェラ時代のガリアーノのインタビューを実施させてもらえたことがありました。ロンドン在住のファッションジャーナリスト、アレクサンダー・フューリーが取材を担当。残念ながら私は同席できなかったのですが、ランチしながら約4時間、ずっと彼の話を聞けたそう。リラックスした雰囲気、たっぷりした時間。インタビューってやっぱりこう、心と心が通じ合う瞬間があって、いくつか言葉を重ねてキャッチボールしないと、なかなかその人の内面を引き出せないものだなと思いました。

S その空気感が直接わかるインタビューは、本当に貴重ですよね。クリエイターの生の言葉を聞く、というのは素晴らしい仕事だと思います。映画では、ミランダがインタビュアーの役割でした。

T あのシーンは、取材対象者の自宅に伺ってインタビューしていました。お互いがすごくリラックスした雰囲気で、自分らしくいられる環境だから引き出せた言葉があったのだと思います。

S まさに仰る通りです。ただ、あのようなエクスクルーシブ(独占取材)をとるのは、本当に難しいです。

シリーズに一貫する問い――服は人生を変えられるか?(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

S 最後にもうひとつ、「服は人生を変えられるのか」という問いについて。前作では、アンディが着る服によって自信をつけていくシーンもありました。ファッションにはそういう力が宿っているのではないか、というお話をしてみたいのですが、塚本さんはどうでしょうか。

T あると思います。前作でアンディが少しずつ変わっていく姿もそうですし、最新作では、彼女が着てる服が前作とは全く違う。これは、アンディが歩んできた道がそのまま着ているものに現れている、ということだと思います。私はよく、「これまでと違う装いをすると、気が付かなかった自分をその服が教えてくれる」と話すのですが、きっとそういう瞬間がアンディの人生にはあったんじゃないかな、と思うのです。

S 私も近い考えです。スタイルがある人、ってよく表現されると思いますが、そのスタイルって、実は全員スタイルなんですよね。つまり自分が、おしゃれをしても、していなくても、それがその人のスタイル、ということ。そう考えると、やはり自分らしいものを見つけるってすごく大事。それがその人のスタイルになるわけだから、自分に変化をもたらしてくれるものが、自分の扉を開くことにも繋がるのではないでしょうか。

CEDRIC DIRADORIAN

ミランダはなぜあんなに怖い? 編集長ならではの分析

T 続編では、雑誌をとりまく環境が様変わりした様子が描かれています。雑誌ってこの先どうなっていくのかな、ということも話してみたいですけれども、坂井さんどうですか? 編集長として。

S 私はデジタルとプリント(雑誌)、両方の編集長を務めています。雑誌は、もう雑誌というカテゴリーではなくなっていくのではないでしょうか。読者と深い関係性を築ける媒体が、これから生き残っていく可能性があるのではと思います。

T デジタルの様々な手法とプリントを上手くリンクさせて、より強い世界観を重層的に届けていく。あのミランダが怖いのは、やっぱりその世界観へのこだわりが、半端じゃない、尋常じゃないところでしょうね。

S どうしても、世界観を追求するとああならざるを得ない、という部分も少しわかります。

T 本当にそう。わからなくないです。

S 痛快な映画でしたね。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『プラダを着た悪魔2』歴代編集長の注目ポイントQ&A

Q1. 好きなシーンや台詞を教えてください。

塚本(以下、T) 好きなシーンが多すぎて選べません。ひとつだけなら、アンディとエミリーが最後にカフェで会うシーンです。好きな台詞は、ミランダの「この仕事が好きでたまらないの」。自分もずっとそう思っていたので。あとはエミリーの「退路を断って、前進あるのみ」。今の自分の心境に通じるものがあります。

坂井(以下、S)ミランダを助けるために、アンディとエミリーが動き出したのにミランダは固辞するシーン。20年経った今も、ふたりは無意識にまだ彼女を崇拝しているところは、コミカルでありシニカルでした。

Q.2 ずばり、一番好きなキャラクターは?

T 断然、エミリー! 彼女の仕事への姿勢に共感できるし、どこか自分と重なります。自己肯定感の低い(私にはそう見える)エミリーにとって、アンディはただただ眩しい存在。でも彼女から学ぶものが多いことも知っている。だからふたりのシスターフッドがエミリーを幸せにしてくれることを祈っています。

S ミランダ。メリル・ストリープを尊敬しているので、彼女が演じるとやはり好きになります。前作は断然アンディでしたが、私も経験を重ねていくと、ミランダの心境に少しだけ共感が持てた部分もあったのかもしれません。

Q.3 印象に残っている衣装はありますか?

T アンディの衣装では、最初にオフィスを訪ねるときのスエードのジャケットにデニム、首元にはスカーフのルックと、ガブリエラ・ハーストのマルチカラーのパッチワークドレスが印象に残りました。ミランダはやっぱりMETでの赤いドレスとドリス ヴァン ノッテンのタッセルのジャケット。ナイジェルがクローゼットでアンディの洋服を選ぶときに挙げたブランド名(ブルネロ・クチネリとトーテム)に時代の変化を感じました。

S 具体的なアイテムの話ではありませんが、NYとミラノで、衣装のタッチをそれぞれ変えているところは、映画の見せ方としてセンスを感じました。どちらかというとNYシーンのスタイルが今の自分の好みです。

(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

Q4. 『プラダを着た悪魔2』では、前作で酷評されたセルリアンブルーのセーターを、アンディが再び着用しています。アンディがあらためてこのセーターを着た意味や、心の変化をどう解釈しますか? ※アン・ハサウェイが撮影の舞台裏で、前作で着たセーターの袖をハサミで裁断し、ベストにDIYしたという。

T 20年前、アンディは初めてファッションが歴史や文脈をもつ表現であることを知らされます。それまで彼女はファッションをうわべだけの軽薄なものとしか見ていませんでした。そういう「本質を知らない、知ろうとしない」姿を象徴していたのが、あのセルリアンブルーのセーター。続編で再登場したベストは、少しずつファッションを知ってきた彼女が今は自分の意思でそのベストを着ていることの証明。同じブルーを選んでいるのは、どんなにキャリアを重ねても自分の信念は変わらないことを表明しているように思えました。これからも自分らしい道を進んでいくという決意をあのブルーで伝えている気がします。

S 前作で、ニュアンスの異なる2色のブルーのベルトについて、ミランダが説明するシーンを思い出しました。20年前のアンディは、ブルーのセーターを選んだ理由を説明できませんでした。でも、『プラダを着た悪魔2』のアンディは、なぜこのブルーベストを着たのか、今なら説明できるはず。それも読者が真似したい、買いたい、着てみたいと思うレベルで。つまり自分自身に自信が持てる素敵な女性に成長した証拠なんだと思います。

PROFILE
塚本香
ファッションジャーナリスト。「フィガロジャポン」、「ELLE JAPON」、日本版「ハーパーズ バザー 」編集長を歴任し、現在はファッションジャーリストとして国内外で活躍。

坂井佳奈子
「ELLE JAPON」編集部でファッション・ディレクターなどを経て、2014年1月に「ELLE girl」編集長に就任。 2022年よりELLE&ハーパーズ バザー グループの編集局長を兼任。

映画『プラダを着た悪魔2』は20世紀スタジオ(ウォルト・ディズニー・ジャパン)にて5月1日(金)より日米同時公開。(C) 2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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