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あくびをすると脳に「知られざる動き」が起きていたと判明

  • 2026.5.3
Credit: canva

私たちは眠くなったり、退屈したときに、よく「あくび」をします。

しかし実は、科学者たちは今もなお、私たちがなぜあくびをするのかをはっきり説明できていません。

他の動物もあくびをすることが知られており、ヒトの胎児も発達の早い段階であくびをします。

つまり、あくびは単なる「退屈のサイン」ではなく、進化の中で長く保存されてきた、かなり根本的な生理現象である可能性があります。

今回、豪ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の研究チームは、リアルタイムMRIを使って、あくびをするときの頭部と首の内部を観察。

その結果、あくびの最中には、脳を守る液体である脳脊髄液が、通常の深呼吸とは異なる動きを見せることがわかったのです。

研究の詳細は2026年4月23日付で学術誌『Respiratory Physiology & Neurobiology』に掲載されています。

目次

  • あくびは「ただの深呼吸」ではなかった
  • 脳の「掃除」や「冷却」に関わる可能性

あくびは「ただの深呼吸」ではなかった

研究チームが注目したのは、脳脊髄液(CSF)血液の流れです。

脳脊髄液とは、脳や脊髄の周囲を満たしている透明な液体です。

水の中に浮かぶ物体のまわりを水が包むように、脳と脊髄を取り囲み、衝撃から守っています。

さらにこの液体は、栄養を運び、老廃物を外へ運び出す役割にも関わっています。

つまり脳脊髄液は、脳を守るクッションであると同時に、脳の環境を整える循環システムの一部でもあるのです。

研究では、健康な成人22人がMRI装置の中で、通常呼吸、深呼吸、あくびをこらえる動作、そして映像によって誘発された「伝染性あくび」を行いました。

伝染性あくびとは、誰かがあくびをしているのを見ると自分もあくびをしたくなる現象です。

チームは、人や動物があくびをする映像を見せることで、参加者の自然なあくびを引き出しました。

比較のために、参加者には「あくびのふりをした深呼吸」も行ってもらいました。

もしあくびが単なる大きな深呼吸なら、MRIで見える液体や血液の動きも深呼吸と似ているはずです。

ところが、実際には違っていました。

深呼吸では、静脈血が頭蓋骨の外へ流れ、脳脊髄液はそれとは逆に頭蓋骨の内側へ向かう傾向が見られました。

これは通常の呼吸でも見られる生理的な動きです。

一方、本当にあくびをしたときには、静脈血と脳脊髄液が一緒に頭蓋骨の外へ向かって流れていました。

つまり、あくびでは「脳から出ていく流れ」が一時的にそろうような、独特の動きが起きていたのです。

チームにとっても、これは予想外の結果でした。

あくびと深呼吸はどちらも大きく息を吸う動作に見えますが、脳脊髄液に関しては、まったく同じものではありませんでした。

外から見ると似ている行動でも、脳のまわりでは別の生理現象が起きていた可能性があります。

また、あくびの初期段階では、内頸動脈を通って脳へ入る血流も増加していました。

脳から静脈血と脳脊髄液が外へ向かい、それと同時に新しい動脈血が入ってくるような変化が見られたのです。

この結果は、あくびが単に眠気や退屈の副産物ではなく、脳周辺の液体循環を一時的に切り替える行動である可能性を示しています。

脳の「掃除」や「冷却」に関わる可能性

では、なぜあくびのときに脳脊髄液や血液の流れが変わるのでしょうか。

チームは、現時点では断定できないと慎重に述べていますが、いくつかの興味深い可能性を挙げています。

一つは、あくびが脳内の老廃物の移動に関わっている可能性です。

脳は活動する中で老廃物を生み出します。

こうした不要な物質の排出には、脳脊髄液の流れが関係していると考えられています。

アルツハイマー病やパーキンソン病、認知症などの神経変性疾患では、脳内や脳周囲に老廃物が蓄積することが関係している可能性が指摘されています。

そのため、あくびが脳脊髄液の流れを変えるという今回の発見は、加齢や神経変性疾患の研究に新しい視点を与えるかもしれません。

ただし、ここで注意が必要です。

今回の研究は、「あくびをすれば脳の老廃物が除去される」と証明したわけではありません。

あくびの最中に脳脊髄液の流れが変化することを示した研究であり、その変化が実際にどの程度、老廃物除去に役立つのかは今後の課題です。

もう一つの可能性は、脳の温度調節です。

人間の脳は、体のほかの部分よりも最大で摂氏1度ほど高くなることがあり、脳から出ていく静脈血は、入ってくる動脈血よりわずかに温かいとされています。

今回の研究では、あくびの際に比較的冷たい動脈血が頭蓋内へ流れ込む量が増える様子も確認されました。

そのためチームは、あくびが脳の熱を逃がし、温度を安定させる仕組みに関わっている可能性もあると考えています。

脳は温度変化に敏感な器官です。

熱くなりすぎれば、細胞の損傷やけいれん、脳の腫れなどのリスクが高まります。

だからこそ私たちの体には、血流や発汗など、温度を調節する仕組みがいくつも備わっています。

あくびもその一部なのかもしれません。

今回の研究は参加者22人という小規模なものであり、調べられたのも映像で誘発された伝染性あくびです。

眠気や起床時、就寝前に自然に出るあくびでも同じことが起こるのかは、まだ確認が必要です。

それでも、あくびが深呼吸とは異なる形で脳脊髄液と血流を動かすことをリアルタイムMRIで示した点は、非常に興味深い発見です。

私たちが何気なくしているあくびの裏では、脳を守る液体と血液が、ほんの一瞬だけ特別な流れを作っているのかもしれません。

参考文献

Yawning Does Something Unexpected in Your Brain, MRI Scans Reveal
https://www.sciencealert.com/yawning-does-something-unexpected-in-your-brain-mri-scans-reveal

A good yawn might do more than you think, say researchers
https://www.unsw.edu.au/newsroom/news/2026/04/Good-yawn-does-more-than-you-think

元論文

Biomechanics of contagious yawning: Insights into cranio-cervical fluid dynamics and kinematic consistency
https://doi.org/10.1016/j.resp.2026.104575

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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