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コーヒーでミシュランを目指す。伝統芸能と和の精神が響き合い、文化継承を促す究極の一杯

  • 2026.4.30

2016年にラテアートの世界大会で日本人初の優勝を果たし、国内外でSAMURAI SHIN(サムライ シン)として知られる深山晋作さん。元スノーボード選手という異色の経歴を持つ彼が率いる「BARISTA MAP Coffee Roastersバリスタ マップ コーヒー ロースター)」は、大阪・心斎橋を拠点に“コーヒーでミシュランを目指す”という前例のない挑戦を続けています。

Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

深山さんが追求するのは、単なる一杯の飲料としてのコーヒーではありません。大阪の伝統芸能「文楽」の竹本織太夫さんをクリエイティブディレクターに迎え、日本の伝統美とコーヒーが響き合う新たな体験を提案。また、バリスタの地位向上や雇用創出、次世代の育成を掲げています。

大会で名を馳せ、世界中のラグジュアリーブランドや企業からラブコールを受ける彼がいま見つめるのは、コーヒーを通じた教育と日本文化の継承、そして海を越えた未来。その情熱の源泉を伺いました。

<Profile>
深山 晋作(ふかやま しんさく)/BARISTA MAP Coffee Roasters 代表

1983年生まれ。元スノーボード選手。2013年にバリスタ未経験でコーヒー先進国のオーストラリアへ渡り、メルボルンにある名店St. Ali(セント・アリ)で修行。2016年ラテアート世界大会優勝、2018年オーストラリア・ラテアート選手権優勝。2020年にSamurai Dream株式会社を設立。2025年おむすびとコーヒーの店「KOME MAME」をプロデュース。技術普及のための器具開発や、企業のコンサルティング、教育機関での講師など幅広く活動中。

AZUSA TODOROKI(BOWplus KYOTO)

運命的な出会いから始まった「文化の共鳴」

―― 伝統芸能の世界に生きる竹本織太夫さんとの出会いのきっかけを教えてください。

始まりは、大阪・日本橋にあったわずか1.8坪の小さな焙煎所での出会いからでした。国立文楽劇場の近くということもあり、ひとりの男性がふらりと立ち寄ってくださったのです。実は最初、私はどなたか存じ上げなくて。当時はスクールの運営で手一杯で余裕がなく、営業時間外に来られた際に「申し訳ございません。いまは開いておりません」と何度もお断りしてしまいました。でも、その方はたびたび足を運んでくださったのです。ある時、調べてみたら「とんでもなくすごい方だ!」と驚きました。それが、人形浄瑠璃文楽・義太夫節の六代目・竹本織太夫(たけもと おりたゆう)さんと巡り合うきっかけでした。

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―― そこからどのように距離が縮まったのでしょうか。

最初に飲んでいただいた時、「これ、むちゃくちゃ美味いね」と気に入ってくださり、舞台のたびに寄ってくださったのです。初めてきちんとお話しした際、驚くべき共通点が見つかりました。血液型も誕生日も同じ。さらに、その日に履いていたデニムのブランドまで一緒だったのです(笑)まさに、運命的なシンパシーを感じました。

織太夫さんは、苦みがあるエスプレッソを舞台に上がる前に飲むことで集中力を高めていたようで、ご自身の舞台を支える大切な存在としてコーヒーを愛用していました。そして、「インドネシアのコーヒーをお客様にプレゼントしたいから、オリジナルのブレンドをつくってくれないか」というご相談をいただいたのが、最初のお仕事でした。

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―― 織太夫さんが、深山さんのコーヒーに惚れ込んだ理由とは?

私たちは異業種ですが、「日本文化を背負って世界へ広げていきたい」という志が共通しています。心斎橋へ移転し新規開店する際には、織太夫さんのお父様が割烹料理店を営まれていた地を引き継がせていただき、「深山くん、ここでミシュランを目指したらいいじゃない」と背中を押してくださったのです。織太夫さんはバリスタマップフラッグシップストアーのクリエイティブディレクターとしても参画してくださいました。コーヒーを単なる飲料ではなく、文楽と同じように「道を極めるべき文化」として捉えてくださったのです。彼に出会えたことで、私の“コーヒーでミシュランを獲る”という目標は、確信に変わりました。

Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

五感で味わう「和」の精神とコーヒーの融合

―― 日本文化のエッセンスはどのように表現されているのでしょうか。

心斎橋のフラッグシップショップは、和とコーヒーが心地良く交わる空間になっています。例えば、私たちがドイツの老舗コーヒーブランド・メリタと共同開発した「流速コーヒーフィルター(¥6,600)」や、ワイングラスのような形状の「珈琲器(¥16,500)」。これらはすべて、“日本の美意識”と私が追求する“世界基準の抽出技術”が融合したものです。織太夫さんはよく「焦って美しいものはできない」とおっしゃいます。時間をかけて積み上げられた美学こそが、人の心を動かす。心斎橋の店では、スタッフ一人ひとりがその精神を体現し、お客様にミシュラン級の体験を届けることを使命としています。

―― オリジナルの珈琲器について教えてください。

370年続く伊万里鍋島焼の歴史や技術をバックグラウンドに日本文化を継承する「畑萬陶苑」と共同開発した珈琲器は、1年以上をかけ試行錯誤して完成させた自信作です。

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この器は、ワイングラスの構造から着想を得ており、液体の流れが舌に垂直に落ちるよう設計されています。それにより甘みをしっかりと感じ、ふちを薄くすることでフレーバーを感じやすい繊細な口当たりになっています。濃密なアロマを閉じ込められるようオリジナル家紋を印した蓋も作りました。伝統工芸を守り、現代のストーリーとして体現することも、私たちが大切にしている社会貢献の形です。

Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

コーヒーを提供する時は、美味しさが最も際立つ55℃〜60℃前後の適温を専用の機器で確認してから蓋を閉じ、徹底的に温度管理をします。そうすることで蓋を開けた瞬間に立ち昇る鮮烈な香りを堪能しながらコーヒーを味わうことができます。器で鼻を覆い温度と香りの変化を五感で楽しんでください。

Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

圧倒的な「味」を支える、世界基準のクオリティ

―― BARISTA MAPが誇る味へのこだわりについて教えてください。

私たちが提供するのは、最高グレードのスペシャルティコーヒーです。産地へ直接赴いて豆を選別し、自家焙煎をしてから最適な抽出方法で提供します。また、生態系への影響を最小限にした持続可能な運営を行っているルワンダの農園のコーヒー豆を採用するなど環境保護にも配慮しています。

Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

そして、最大の強みは大会でタイトルを獲得するほどの技術をもつバリスタがいること。技術を磨くのはもちろん、コーヒーと人を繋ぎ、心地良いひとときを過ごしてもらえるホスピタリティを大切にしています。

――ファッションブランドのカフェ等で監修もされていると伺いました。

これまでラグジュアリーブランドのメゾンや企業で、トレーニングや監修に携わってきました。ラグジュアリーブランドを訪れるお客様は、ただ喉を潤したいわけではない。その空間、そのブランドが提示する「Art de Vivre(美しき人生)」という美学に触れに来ています。だからこそ、コーヒーもその一部として完璧でなければなりません。

また、Mercedes me Australia(メルセデス ミー オーストラリア)、伊藤園オーストラリア、Panasonic(パナソニック)をはじめ、Melitta(メリタ)、DALLA CORTE(ダラコルテ)、TIMEMORE(タイムモア)など、国内外のブランドとの協業にも携わってきました。商品開発、教育プログラム、ブランド体験設計などを通じて、コーヒーの可能性を広げる活動を続けています。

―― 大切な人に贈るギフトとして、オススメを教えてください。

ショップでは自社で焙煎した豊富な種類の豆や、ドリップバッグを販売しています。

左から「ETHIOPIA(エチオピア)」¥2,000、「FRUITY BLEND (フルーティーブレンド)」¥2,000、「LoureeJOE’s BLEND(ル―リージョーズ ブレンド)」¥2,800 Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

人気があるのは「ETHIOPIA(エチオピア)」。ゲイシャ種をカーボニックマセレーションナチュラルというワインの精製を行ったシングルオリジンで、アプリコット、オレンジ、レモンを感じるフレーバーです。また、ストロベリーショートケーキとベリー、ワインのようなフレーバーの「FRUITY BLEND (フルーティーブレンド)」は、華やかなフローラル感とワインのような複雑な香りがあり、自分へのご褒美や午後のティータイムにぴったりです。

「LoureeJoe Drip Bag(ル―リージョー ドリップバッグ)」¥3,500 Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

「LoureeJOE’s BLEND(ル―リージョーズ ブレンド)」は織太夫さん好みのオリジナルの味。ドリップバッグはインドネシア、コロンビア、ブラジルのスペシャルティコーヒー豆を最上の比率でブレンドしており、深煎りでキャラメルのような甘さと香ばしさを楽しめるブレンドです。様々な種類のコーヒーがあるので、お店でバリスタと相談しながらお気に入りのフレーバーを見つけてください。

バリスタの価値向上と、次世代へと繋ぐ好循環

―― 深山さんが目指すコーヒー業界の未来像とはどのようなものでしょうか。

私が会社を設立した大きな目的は、バリスタという職業の価値を高め、持続可能な雇用を創ることです。スクールでの教育を通じ、単に技術を教えるだけでなく、コーヒーと人を繋ぐプロフェッショナルなホスピタリティを伝えています。こうした取り組みが当たり前になり、次世代のバリスタたちが世界に羽ばたいていく。その循環こそが、業界全体の価値向上に繋がると考えます。

Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

運営するスクールでは、これまでにのべ6,000名以上の生徒に技術だけでなく「自分で考える力」を伝えています。AIやオートメーションが進む時代だからこそ、人間にしか出せない価値が重要になります。また、福井の製菓学校「レコール デ グルマン フクイ」でコーヒーにまつわる講義を担当し、インターンシップの受け入れもしています。

若い世代にはストイックに一つの道を追求してほしい。コーヒーと向き合うことを毎日繰り返し、長く続けることで、技術に磨きがかかり美しさを帯びていく。私たちが繋ぐ活動が、次の100年のコーヒー文化を創っていくのだと信じています。

―― 今後の展望を教えてください。

現在、心斎橋のショップをリフォームしており約2倍の広さになる予定です。トレーニングエリアを広げて品評会や焙煎体験ツアーなどもやりたいです。さらに、年末へ向けて産地であるインドネシアへ進出し、焙煎所とショップを出す予定です。日本のスクール生が向こうへ留学したり、インドネシアの生徒がこちらへ来たりして、異文化交流も楽しんでいただけたらと思っています。イメージとしては、お店の数を増やすよりも層を厚くしてブランド力やチーム力を強化したいです。

Azusa Todoroki(BOW PLUS KYOTO)

コーヒーは、私にとって世界と繋がるための言語です。日本文化と融合したコーヒー文化のおもてなしを大切に、バリスタという道を極めていきたい。心斎橋からインドネシアへ、そして世界へ。僕たちが、いまここで注いでいる情熱が、コーヒー文化を豊かに彩る一助になれば、これほど嬉しいことはありません。

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「BARISTA MAP Coffee Roasters(バリスタ マップ コーヒー ロースター)」

所在地/大阪府大阪市中央区西心斎橋2-18-12
営業時間/11:00~18:00
定休日/月曜日
URL/baristamap.coffee

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