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建築の美と歴史に浸る、文化財ホテル12【全国版】

  • 2026.4.29
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文化財の中に、泊まれる建築があるのをご存じだろうか? 美しいデザインと歴史を満喫できる「文化財ホテル」を全国でリサーチ。辰野金吾の名建築や塔博士のテレビ塔、ロココ様式の迎賓の間、小川治兵衛による3000坪の庭など、圧倒的な美を誇る5つの重要文化財と7つの登録有形文化財のホテル・宿を紹介する。



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東京ステーションホテル/東京

東京駅の開業は1914年(大正3年)。「東京ステーションホテル」は、その翌年に訪日外国人の急増を受けて東京駅の中に誕生した。日本近代建築の父と呼ばれる辰野金吾の代表作で、イギリスのクイーン・アン様式に倣い、赤レンガと白い窓枠が特徴的なデザイン。全長335m、3階建てで、南北に吹き抜けの美しいドームを持つ。

第2次世界大戦で屋根やドームが焼失し、戦後は2階建ての駅舎として復旧。2003年、国の重要文化財に。2007年より当初の建築美を取り戻す復原・保存工事がスタート、2012年に完成し「東京ステーションホテル」も第2章をスタートさせた。

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2012年の再開業時に、客室は58室から150室に。写真は駅前広場と皇居外苑を眺められる客室タイプ「パレスビュー」。駅舎の南北ドームに面した客室タイプ「ドームサイド」からは、甦ったドームレリーフを部屋の窓から間近に見ることができ、こちらも人気が高い。

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朝食のためのゲストラウンジ「アトリウム」はとても開放的。駅舎の屋根裏を活用し、東側から朝の光が入るように、約4年半をかけて文化庁から特別な許可を得て、線路側の屋根一面をガラス屋根にした。

ベルサイユのトリアノンパレスなど、ヨーロッパの歴史建築をリノベーションした実績のある、リッチモンド・インターナショナルがインテリアを担当し、品格のあるデザインに仕上げられている。

東京ステーションホテル

住所/東京都千代田区丸の内1-9-1


photo: 加藤史人

萬翠楼 福住/箱根

「萬翠楼 福住」(ばんすいろう ふくずみ)は箱根湯本に1625年(寛永2年)に開業した老舗旅館。明治時代に入り政治家など要人を迎えられるように建てられた「萬翠楼」(1878年竣工)と「金泉楼」(1877年竣工)が国の重要文化財に指定されている。これら2棟は、1・2階が木骨石造で3階は漆喰塗仕上げの土蔵造。福住旅館十代目・福住正兄が大工棟梁の三宅安七を伴い東京・横浜方面を視察、新橋の停車場を参考にしたという。日本の数寄屋建築と西洋の建築デザインを融合した擬洋風建築だ。

photo: 加藤史人

写真の「萬翠楼 15号室」は花鳥風月を描いた48点の天井画が有名。逗留した伊藤博文の書がかかる。山桜の木が、自然な形状をそのまま生かして柱として据えられているのも味わい深い。この「15号室」は2026年夏より、ヒストリック・カフェ&バーとして宿泊客以外も訪れることができるように。「萬翠楼」「金泉楼」それぞれに現在も泊まれる客室がある。


photo: 加藤史人

「萬翠楼」「金泉楼」への出入り口には蔵に用いる重厚な扉が設置されている。多彩な障子格子のデザイン、一枚板を用いた階段や、照明上の天井装飾など、随所に職人の技が発揮されているので、ゆっくり眺めたい。


萬翠楼 福住
住所/神奈川県足柄下郡箱根町湯本643



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ザ タワーホテル ナゴヤ/名古屋

1954年(昭和29年)に誕生した日本初の集約電波塔である名古屋テレビ塔。高さ180mのこのテレビ塔を設計したのは、耐震構造の基礎を研究し、後に東京タワーの設計も手掛けて「塔博士」と呼ばれた構造化・建築家の内藤多仲だ。2020年に「ザ タワーホテル ナゴヤ」として再生。2022年に名古屋テレビ塔は国の重要文化財に指定された。

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地域の伝統や文化が大切に生かされ、アートとクラフトに触れられるホテル。客室は全15室。文化財としての制約を守りつつ、免震改修工事を行い、既存の構造体を意匠の一部として取り込んだ。

武骨な鉄骨が剥き出しのまま客室を貫通し、1950年代の高度な溶接技術やリベット打ちの跡が残る鉄の質感を間近に見ることができる。客室に飾られた、杉戸洋、さわひらきなど東海地方にゆかりのある作家のアートも見どころだ。

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かつての展望台は、久屋大通公園を一望できるルーフトップサロンとなり、夜間は宿泊者限定で景色を堪能できる。

ザ タワーホテル ナゴヤ

住所/愛知県名古屋市中区錦3-6-15先

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ホテル長楽館/京都

「長楽館」は、煙草事業で成功を収めた実業家・村井吉兵衛により国内外の賓客をもてなす迎賓館として1909年(明治42年)に建築された。「長楽館」の名をつけた伊藤博文や、イギリス皇太子エドワード8世、アメリカのロックフェラーなどそうそうたる人々が訪れている。2024年に建物と家具51点他が国の重要文化財に指定された。

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豪華絢爛な空間を設計したのは、アメリカ人建築家のジェームズ・マクドナルド・ガーディナー。ガーディナーは美術史を学び、長楽館にさまざまな芸術様式を盛り込んだ。外観は ルネサンス様式で、その中に、ロココや新古典主義の華やかな空間を誕生させた。中国風の部屋や書院造の和室もある。

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イギリス・ヴィクトリア朝のネオ・クラシック様式の装飾が見事なダイニングルームは、写真のフレンチレストラン「ル シェーヌ」に。「バカラ」のシャンデリアがきらめき、往時の気品が今も漂う。ロココ様式の優雅な迎賓の間は、現在アフタヌーンティー専用の部屋として使われている。






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客室は新館に設けられた6つ。円山公園の眺望が楽しめる部屋や杉木立を望むことができ落ち着ける部屋など、邸宅のような感覚でくつろげる。

ホテル長楽館

住所/京都府京都市東山区八坂鳥居前東入円山町 604



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星のや奈良監獄/奈良

1908年(明治41年)に建造され、国の重要文化財である「旧奈良監獄」が、星野リゾートによってミュージアムとホテルとして再生。まず、2026年4月27日に「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」が開館し、6月25日にラグジュアリーホテル「星のや奈良監獄」がオープンする。

「旧奈良監獄」は明治政府が諸外国に法治国家として認めてもらうため司法制度と刑務所の近代化を進め、建造された五大監獄(長崎、金沢、千葉、鹿児島、奈良)の一つで、これらに携わった山下啓次郎が設計した。⾚レンガ造の美しい建物は後に奈良少年刑務所となり2017年まで使われ、明治時代に建てられた五大監獄で全体が現存する唯一の建物だった。

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ホテルは、「ハヴィランドシステム」と呼ばれる中央看守所から放射線状に並ぶ舎房の棟を宿泊棟に。写真は中央看守所を見上げたところで、構造の端正な美しさが印象深い。

全48室のスイートルームは、約5㎡の独居房を9〜11室つなげて一つの客室に仕立てられている。寝室からリビング、バスルームと細長いレイアウトがユニークだ。

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内装設計を手掛けた建築家・東利恵は「狭さに向き合って、つなげて再解釈することで新しい空間体験が生まれました。その意味では、ヨーロッパの寝台列車に近い居心地になるかもしれません」と語る。明治の歴史と現代の感性が融合された新しいラグジュアリーステイの形だ。

星のや奈良監獄

住所/奈良県奈良市般若寺町18
※ホテル「星のや奈良監獄」は6月25日開業。

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日光金谷ホテル/日光

明治時代初期、東照宮の楽師をしていた金谷善一郎が、ヘボン式ローマ字綴りを考案したアメリカ人、J・C・ヘップバーン(ヘボン)博士と出会い、自宅の一部を外国人の宿泊施設「金谷カッテージ・イン」としたのが「日光金谷ホテル」の始まり。

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1893年(明治26年)に、現在の場所に金谷ホテル(本館)を建設(2階建て、30室)。以降、1901年に新館(2階建て、10室)。1921年に竜宮(観覧亭・展望閣)。1935年、別館落成(3階建て24室)と、施設を増やし、1936年には、コロニアル風の2階建ての建物だった本館を、地面を掘り下げて3階建てにする改修工事を行った。写真は本館にあるフロント。1961年、第二新館が完成。

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2005年、日光金谷ホテルの本館、新館、別館、竜宮が国指定登録有形文化財に登録された。客室は本館・新館・別館・第二新館にあり、クラシックな趣を生かしたものやモダンにまとめられたものなどさまざまなタイプがある。

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本館のメインダイニングルーム(写真)を彩る華やかな欄間や、長きにわたり使われてきた回転扉、創始者・金谷善一郎が勤めていた日光東照宮にある霊獣・動物彫刻に似た、想像上の象の彫刻飾りもぜひ見ておきたい。

ホテルから車で5分ほどの距離に、創業者・金谷善一郎が1873年に「金谷カッテージ・イン」を開いた屋敷があり、そちらは「金谷ホテル歴史館」として公開されている。

日光金谷ホテル
住所/栃木県日光市上鉢石町1300

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葉山 加地邸/葉山

フランク・ロイド・ライトに師事し、ライトが設計した帝国ホテルを完成に導いた建築家・遠藤新が設計した実業家・加地利夫の別荘が1棟貸しの宿泊施設に。建物は1928年に竣工。ライトが生み出した水平ラインが際立つプレーリースタイルで、インテリアや家具にもライトのデザインのエッセンスが生かされている。2017年に国登録有形文化財に登録。カミヤアーキテクツの神谷修平による修復・改装を終え2020年より宿泊施設としてオープンした。

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老朽化していた建築の再生を依頼された神谷は、オリジナルの状態に全てを復原するのではなく、文化財の制約を守りながら、復原するところと、ライトと遠藤のデザインを受け継ぎながら新しくするところを熟考。傷んでいた家具類を丁寧に復原・修復して配したところもあれば、「加地邸」によく使われていた三角形や六角形をモチーフとして新しく家具を製作し、調和をはかった部分もある。

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もともとスタッフルームで、デザインの特徴がなく文化財としての改修制限がゆるかった地下室は、約100年前からの梁が見え、自然光の降り注ぐ広い浴室を設けて大きくつくり変えた。

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1棟貸しのため、2人の巨匠の建築に暮らすような感覚で滞在できる、贅沢な宿泊施設だ。

葉山 加地邸
神奈川県三浦郡葉山町一色1706

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富士屋ホテル/箱根

始まりは、1878年(明治11年)。創業者・山口仙之助が、富士山を眺められる景勝地であり、東京から近く、温泉がある箱根・宮ノ下に洋風建築を建て、海外からのゲストを迎えるホテルを開業(5年後に宮ノ下大火で焼失)。その後、「富士屋ホテル」は複数の建物の新築・移築・改造を経て現在に至る。

1997年に「本館」、「西洋館(1号館・2号館)」、「食堂棟」、「花御殿」、「菊華荘」、「アイリー」が国の登録有形文化財に。1884年築で花御殿裏手に移築された「アイリー(鷹の巣)」(現在は非公開)を除き、それぞれ現役で、2020年の大規模改修を経て新たなハーモニーを奏でている。

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本館は1891年(明治24年)築の和洋折衷の建築。日本建築の「菊華荘」はもともと1895年(明治28年)に建てられた内親王の御用邸、1946年に下賜され富士屋ホテルの別館に。西洋館(1号館・2号館)は1906年 (明治39年)築の客室棟。1930年 (昭和5年)に建設された食堂棟の2階には、写真のメインダイニングルーム「THE FUJIYA」があり、動物の彫刻が店内のあちこちにある。花御殿は1936年(昭和11年)築の和風建築で、バルコニーの赤い高欄が外観に彩を添える。

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客室があるのは本館、西洋館、花御殿、フォレストウィングの4棟。一つの棟の中にもデザインの異なる多彩な客室がある。

富士屋ホテル
住所/神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下359

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万平ホテル/軽井沢

万平ホテル誕生のきっかけは、1886年(明治19年)、カナダ人宣教師たちが万平ホテルの前身となる旅籠「亀屋」に滞在したこと。彼らをもてなした宿の主人・佐藤万平は、外国人のためのホテルの需要を見据え、1894年(明治27年)に屋号を「亀屋ホテル」に、これが万平ホテルの始まりだ。その2年後に外国人が発音しやすいよう「MAMPEIホテル」に改名。1902年(明治35年)に現在の軽井沢・桜の沢へ移転した。

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現在、「アルプス館」「愛宕館」「碓氷館」の3つの宿泊棟を持つ。「日光金谷ホテル」などを手掛けた久米権九郎が設計した1936年(昭和11年)築の「アルプス館」が、2018年に登録有形文化財となった。アルプス館は木造3階建て。スイスやドイツに見られる木組みを外観の意匠として見せるハーフティンバー風が、軽井沢の緑によくなじむ。2024年にホテル全体の大規模改修・リニューアルが完了したが、アルプス館のインテリアは和洋折衷のスタイルが保たれた。

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写真のアルプス館の他、全室温泉を備えた「愛宕館」、四季折々の美しさをよりいっそう体感できる「碓水館」など、滞在の好みに合わせて客室を選べるのも魅力の一つだ。

万平ホテル
住所/長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢925

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伊豆長岡温泉 三養荘/伊豆

伊豆長岡の「三養荘」は、1929年(昭和4年)に旧三菱財閥の創始者、岩崎彌太郎の長男、岩崎久彌の別邸として築かれた。小川治兵衛の手による3000坪もの広大な日本庭園の中に、自然に寄り添うように数寄屋建築が配されている。1947年に15棟からなる旅館「三養荘」として開業した。

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2017年、玄関・茶室棟(現在の本館玄関・茶室・応接室など)、客間棟(「老松」)、中央棟(「木曽」「巴」)、居間・書斎棟(写真の「松風」と「小督」)、御幸の間(「みゆき」)、待合、露地門が国の有形文化財に登録された。近代和風住宅の美を今に伝えている。

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1988年には村野藤吾の設計による新館も誕生。本館と新館にある客室はいずれも庭に面しており四季折々の美しさを満喫できる。写真は本館の貴賓室(御幸)、専用の畳廊下を持つ。

広大な日本庭園と数寄屋造りの各建物が、プライベートな別邸として構想された当時のまま保存されており、それらを宿泊して体感できるという稀有なスポットだ。

伊豆長岡温泉 三養荘

住所/静岡県伊豆の国市ままの上270

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三木屋/城崎

元禄年間に創業し、300年以上の歴史を刻む城崎温泉の「三木屋」。志賀直哉が名作『城の崎にて』を執筆した宿として知られる。1925年(大正14年)の北但大震災で『城の崎にて』の当時の建物は失われたが、1927年(昭和2年)に再建された後も志賀直哉は幾度となく滞在。希少な木造3階建ての東館と木造2階建ての西館から成り、2014年に国登録有形文化財となった。

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2013年より二俣公一が率いるケース・リアルによるリノベーションを段階的に実施。「更新作業」と位置づけ、文化財である建物の良さを大切に維持しながら全4期の工期を経て、現代に求められる快適さや機能をプラス。過去に皇族も迎えた特別室「22号室」の改修では、既存のディテールや材も生かしながら、和室と洋間が柔らかくつながる上質な空間をつくり上げた。館の全体に穏やかさが漂う。

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約300坪の日本庭園もあり、四季の移ろいもまた目を楽しませてくれる。

三木屋
住所/兵庫県豊岡市城崎町湯島487

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雲仙観光ホテル/長崎

1935年(昭和10年)、外国人観光客を誘致するホテルとして長崎県雲仙に誕生した「雲仙観光ホテル」。設計は、竹中工務店に所属し、神戸の大邸宅「ジェームス邸」(1934年竣工)の設計にも携わった早良俊夫が担当した。スイス・シャレー風の意匠を取り入れた木造3階建ての建築は、2003年に国の登録有形文化財に。ハーフティンバー様式で、かつ外壁の一部に地元の溶岩石を配した外観が、山岳リゾートの風格を形成している。

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館内は、客船をイメージしてデザインされた。大階段の宮大工による手斧削の手すり、カラフルなタイルがパズルのようにはめ込まれたバーの床、創業時から変わらぬディテールが随所に見られる。200畳の広さを誇るダイニングルームの艶やかな床板も、ほとんどが竣工時からのものだ。

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2003年から細やかな改修を行い、1930年代の設計によるクラシカルな山岳ホテルの雰囲気を今も維持している。

雲仙観光ホテル
住所/長崎県雲仙市小浜町雲仙320

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