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「クジラ肉」が脳の細胞を守る可能性

  • 2026.4.29
クジラ肉の成分がパーキンソン病に効く可能性 / Credit:Canva

クジラ肉が、脳の細胞を守る

そんな一見突飛な話が、科学的に裏付けられつつあります。

岩手大学の研究チームは、日本鯨類研究所との共同研究により、ヒゲクジラに豊富に含まれる成分「バレニン」が、パーキンソン病モデルマウスの神経細胞の変性を抑え、病気の進行を軽減する可能性を明らかにしました。

研究成果は2026年4月24日付で『Biochimica et Biophysica Acta – General Subjects』に掲載されました。

目次

  • クジラ肉の成分がパーキンソン病に効く可能性
  • バレニンはなぜ神経細胞を守ったのか?

クジラ肉の成分がパーキンソン病に効く可能性

バレニンは、イミダゾールジペプチドと呼ばれる成分の一種です。

これは肉に含まれる機能性成分で、疲労感の軽減などに関わる成分としても知られています。

似た仲間にはカルノシンやアンセリンがありますが、バレニンは体内で分解されにくく、比較的安定して働きやすいと考えられています。

そこで研究チームは、バレニンが加齢に伴う神経の病気にも役立つのではないかと考えました。

注目したのが、パーキンソン病です。

パーキンソン病では、脳の中でドパミンを作る神経細胞が減少します。

ドパミンは、体をスムーズに動かすための信号を伝える物質です。

これが不足すると、脳から体への指令がうまく届かなくなり、動きにくさや震えなどが現れます。

そしてもう一つ重要なのが、バレニンをどうやって脳に届けるかです。

脳には、血液中の物質を簡単に通さない仕組みがあります。

そのため、体に入った成分がそのまま脳に十分届くとは限りません。

そこで今回の研究では、バレニンを鼻から投与する方法が使われました。

鼻の奥を通じて脳へ届けることを狙った方法で、血液中で分解される前に脳へ作用させやすくする工夫です。

実験では、MPTPという物質を使って、パーキンソン病に似た状態のマウスを作りました。

そのうえで、バレニンを1日1回、鼻から投与し、行動の変化や脳の状態を調べました。

結果として、バレニンを与えたマウスでは、病気モデルで見られる行動の乱れが一部抑えられ、物の位置を覚えるテストでも改善が見られました。

さらに脳を調べると、ドパミン神経の目印となる成分の低下が一部抑えられており、バレニンが神経細胞を守った可能性が示されました。

より詳細な結果と、その背景にある仕組みを次項で見ていきましょう。

バレニンはなぜ神経細胞を守ったのか?

今回の研究で重要なのは、バレニンが単に行動の変化に関わっただけではなく、脳の中で神経細胞を守る方向に働いた可能性が示された点です。

研究チームは、ドパミン神経の状態を調べるために、チロシンヒドロキシラーゼという成分に注目しました。

これはドパミンを作る神経細胞の目印になるものです。

パーキンソン病モデルマウスでは、この目印が減っていました。

ところが、バレニンを投与したマウスでは、その低下が一部抑えられており、バレニンがドパミン神経のダメージを軽くした可能性があります。

また、脳の炎症にも変化が見られました。

神経細胞が傷つくと、周囲の細胞が反応して炎症に関わる変化が起こります。

今回の実験では、炎症の目印となる成分の増加が、バレニン投与によって抑えられる傾向が示されました。

では、なぜバレニンはこのような働きをしたのでしょうか。

鍵になるのが、細胞の中にあるミトコンドリアです。

ミトコンドリアは、細胞が活動するためのエネルギーを作る器官です。

特に神経細胞は多くのエネルギーを必要とするため、ミトコンドリアの状態が悪くなると、細胞そのものが弱ってしまいます。

パーキンソン病でも、ミトコンドリアの不調が神経細胞の変性に関わると考えられています。

今回の研究では、バレニンを投与したマウスの脳で、ミトコンドリアに関わる変化が見つかりました。

さらにタンパク質を詳しく調べたところ、細胞内の不要なものを処理し、状態を整える仕組みに関わる変化も確認されました。

分かりやすく言えば、バレニンは細胞の中の「古くなった部品を片づける仕組み」を助けている可能性があります。

その結果、神経細胞がエネルギーを作る力を保ちやすくなり、ダメージに耐えやすくなったと考えられます。

ただし、今回の研究はマウスでの実験です。

人間でも同じ効果が得られるかはまだ分かっていません。

また、クジラ肉を食べれば同じ効果が得られると示されたわけでもありません。

研究で使われたのは、精製したバレニンを鼻から投与する方法だからです。

今後は、人での有効性の検証や、どのような投与方法・投与量が適しているのかを調べる必要があります。

さらに、パーキンソン病以外の神経変性疾患にも応用できるのかが注目されます。

それでも将来的に、クジラ肉に含まれる小さな分子が、神経細胞を守る新しい研究の扉を開くかもしれません。

参考文献

クジラ肉の成分「バレニン」が神経変性を抑制 ―パーキンソン病の新たな予防戦略の可能性―
https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2026/04/007852.html

元論文

Balenine alleviates neurodegeneration and inflammation in a mouse model of Parkinson’s disease
https://doi.org/10.1016/j.bbagen.2026.130953

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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