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『銀河の一票』『カルテット』プロデューサーの5年前“至高ドラマ”、有名脚本家と“タッグを組んだ”上質な一作

  • 2026.5.22

『銀河の一票』も好評な佐野亜裕美プロデューサーが関西テレビに移って最初に手がけた、2021年放送の連続ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(以下『まめ夫』)は、坂元裕二が脚本を手がけており、坂元にとって近年の代表作の一本と言っていい作品だ。

松たか子演じる大豆田とわ子と、三人の元夫たちをめぐる物語は、一見すると洒落た会話劇であり、大人のラブコメディだ。だが、その軽いノリの裏側には、現代社会の生きづらさや、恋愛、結婚、仕事、孤独、喪失といったテーマが静かに描かれている。

本作が面白いのは、登場人物の誰もが恋愛をうまくできていないことだ。とわ子は恋愛が下手な中年女性として描かれるが、三人の元夫も、新たに現れる男たちも、みんな下手である。いや、そもそも恋愛というやっかいなものは、誰だって本当は上手くできないものなのだ。『大豆田とわ子と三人の元夫』は、その当たり前の事実を、軽やかに、しかし深く描き出したドラマだった。

未練と後悔と、切なさと可笑しさが同居する物語

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松たか子(C)SANKEI

物語の主人公は、住宅建設会社『しろくまハウジング』の社長・大豆田とわ子(松たか子)。三度結婚し、三度離婚した彼女には、三人の元夫がいる。最初の夫は、レストラン『オペレッタ』のオーナー兼ギャルソン・田中八作(松田龍平)。二番目の夫は、ファッションカメラマンの佐藤鹿太郎(角田晃広)。三番目の夫は、とわ子の会社の顧問弁護士でもある中村慎森(岡田将生)。物語は、とわ子が亡くなった母のパソコンを開くため、パスワードを知っていそうな元夫たちを訪ねるところから始まる。パソコンのパスワードとは、現代人にとって重要な秘密だが、全編を通して見るととても示唆的なエピソードだったと後にわかってくるのが面白い。

設定を聞くと、恋愛も仕事もばりばりこなすタイプの女性の華やかなドラマのようにも思えるかもしれない。だが、主人公のとわ子はそういうタイプではないし、三人の元夫もそれぞれ情けない部分がある。なにより未練たらたらな三人とそんな元夫になにかと頼ってしまうとわ子のだらしなさと、可笑しさが本作の魅力だ。同時に、離婚してもなお消えない関係があり、別れても人と人とのつながりは簡単には終わらないということを本作は鮮やかに描き出す。

その魅力を支えているのが、坂元裕二らしい軽妙洒脱なセリフの数々だ。例えば、とわ子が慎森に「別れたけどさ、今でも一緒に生きてると思ってるよ」というセリフ。もう夫婦でも恋人でもないけど、かつて同じ時間を生きた相手として、今も人生のどこかでつながっている。なんとなく救われるような、ではなぜ一緒にいられないのだろうと切なくもなるセリフだ。洒落たやり取りにこうした真理を突くようなセリフがいくつも散りばめられているのが、視聴者の心を掴んだ要因だろう。

また、とわ子の母が残した「ひとりでも大丈夫な人は大事にされないもんだよ」という言葉も印象深い。しかし、とわ子は「ひとりでも大丈夫だけど、誰かに大事にされたい」と思っている。これは自立して生きるべきとされる現代的な女性像を体現していると同時に、誰かに支えてほしいという気持ちが裏にあるという心理を見事に突いている。自立したい気持ちと支えてほしい気持ちは両立するのだ。

等身大の完璧ではない人物を演じた役者陣の素晴らしさ

とわ子は、会社の社長であり、母であるが、完璧からはほど遠い。ベランダの網戸をすぐに外してしまうし、それを自分で直せないし、恋愛では肝心なところで迷ったりする。この絶妙なバランス感覚は、松たか子でないと成立しなかっただろう。とわ子のコミカルな可笑しさと、地に足の着いた生活者としてのリアリティを同時に体現している。とわ子が魅力的なのは、特別だからではない。むしろ、どうしようもなく普通の人間だからだ。

三人の元夫たちも、それぞれに魅力的だ。田中八作は、松田龍平の飄々とした佇まいが見事にはまった。誰に対してもやさしいが、何を考えているのか読めない。その心の奥底に何を秘めているのかがわからない松田の魅力が、とわ子の親友であるかごめ(市川実日子)をめぐる中盤の展開で生きてくる。

角田晃広演じる佐藤鹿太郎は、器が小さく、見栄っ張りな男だ。しかし、角田が演じることで、その小ささが愛おしさに変わる。とわ子が社長として孤独を抱えている時、彼は「器を小さくすればいいんだよ」と声をかける。器が小さいからこそ言えるセリフであり、きちんとそれを自覚できているから、人の弱さにも寄り添えるのだ。

岡田将生が演じた中村慎森は実に面倒くさい男だった。理屈っぽく、未練がましく、情けない。岡田将生にとってこの役は珍しいタイプと言えるが、彼が演じることで、不思議と清潔感がある。自分には「人を幸せにする機能が備わってません」と言う慎森が、とわ子の言葉をきっかけに少しずつ変わっていく。そんな彼の成長物語でもあった。

そして、第2章で登場する小鳥遊大史を演じたオダギリジョーの存在感も忘れがたい。穏やかで理知的で、とわ子の喪失を受け止める優しい男に見えながら、仕事では彼女の会社を追い詰める存在でもある。『まめ夫』が単なるおしゃれな会話劇にとどまらなかったのは、小鳥遊という異物の存在が大きい。

上質なラブコメディだが笑わせるだけじゃない、人生の悲喜こもごもが詰まっている。弱い自分やダメな自分を肯定して、生きる力を与えてくれる、二度と戻ってこない喪失があったとしても、人生はトータルでは悪くない。そんな風に思わせてくれるドラマだった。


出典:ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』カンテレ公式サイト

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi

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