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『豊臣兄弟!』前半戦、“涙腺攻め”3キャラの物語 信長の孤独、市の心の鎧、直の愛

  • 2026.4.26
(左から)白石聖、仲野太賀、小栗旬 クランクイン! width=
(左から)白石聖、仲野太賀、小栗旬 クランクイン!

約3分の1が進んだNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』。弟・小一郎(仲野太賀)の視点から、藤吉郎(池松壮亮)の天下統一取りを描く物語は、史実にフィクションを大胆に編み込みながら加速している。気づけば、何度も涙腺を攻められてきた。織田信長(小栗旬)、お市の方(宮崎あおい・「崎」は「たつさき」が正式表記)、直(白石聖)。ここでは、3人の物語を振り返りたい。

【写真】『豊臣兄弟!』に泣かされる――信長・市・直の名シーン

◆小栗・信長、最強の男が、これほど泣かせてくるとは

「カリスマ」「冷酷」「革命児」と、常に強烈なイメージで称される織田信長。これまでに名だたる名優たちが演じてきたが、演じるほうのプレッシャーも計り知られない。しかし小栗旬は期待を軽々と上回る「織田信長感」でねじ伏せてくる。

戦国の世を拓く圧倒的な存在感と、みながひれ伏す恐ろしさが際立つが、だからこそ妹・市の前での気を許した姿も刺さる。そんな信長の感情を、“弟”への思いが爆発させてきた。

信長が、己の命を狙った弟の信勝(中沢元紀)を柴田勝家(山口馬木也)に斬らせた過去は、早い時分より明かされていたが、小一郎と秀吉の強固な結びつきが描かれるにつけ、その事実に切なさが加わっていった。そして第6話で、市が小一郎に、謀反以前の関係を語り、視聴者にも解像度が上がった。弟であっても裏切りはさして珍しくない時代だろう。しかし、信長はリーダーとして常に孤独にさらされながら、自分を慕っていた信勝を信頼していた。頬を震わせ「なぜじゃ!」と叫ぶ信長の姿に、裏切りの傷の深さを感じた。

小一郎が兄のために命を投げ出した第8話では、信長は市に「弟が兄を裏切る姿が見たかったのだ」とうそぶいた。しかし市から「でもうれしそうですね」と返され、小一郎の姿を浮かべ、満足そうに相好を崩した。そして市を嫁がせたことで、自分の“弟”となった浅井長政(中島歩)のまっすぐさに、また自分も弟を信じてみようかと心を動かす。長政と相撲を取ったあと、「今度は負けませぬ」と言われたときの信長のうれしそうな顔といったら、そのあとのことを考えると切なさしかなかった。

そして、第14話。長政の謀反である。有名な逸話である、市からの「小豆袋」が登場したが、本作の信長は、長政を信じようとし、「そんなものはこじつけじゃ!」と撥ねつけた。“また”弟に裏切られたと知った信長が、ラスト、足利義昭(尾上右近)を前にした際の赤い目は、もはや演技とは思えぬものだった。

◆長政だけが外せた、お市の鎧

そんな信長を一番近くで見てきたのが妹の市だ。「私も男に生まれたかった」と言っていた通り、本来なら右腕として戦場にも赴きたかった市。信長が信勝に裏切られ、苦しんだことも知っている。そんなお市が長政のもとに、いわゆる人質として嫁いだのは、兄のためならばという一心からだった。祝言の席のときから、市のことを気遣っていた長政は、いわゆる“強い”兄とはまるで異なるタイプで好みとは思えなかったが、長政は、信長とは違う“強さ”を持っていた。

第11話。信長からの鏡の京土産をうれしそうに見つめる市。実は同じく市のために鏡を買っていた長政は、渡せずにいた。自分を思う長政のやさしさに心を動かされ始めていた市は、信長からの鏡を炎の中に捨てる。しかしそれを見た長政は「大切なものを捨てる必要はない」と手にひどいやけどを負いながら、市のために火の中に手をつっこんだ!

すでに浅井家の嫁である身にも関わらず、兄を大切に思う気持ちを含めて、まっすぐ自分を思ってくれる長政の姿に、市の心の鎧が外れた。人質としてわたった武将に向けてつけていた織田家の鎧というだけでなく、市というひとりの人間としてずっと自分を覆っていた鎧を脱いだ瞬間でもあった。長政のもとに駆け寄る市。市は、信長にも見せたことのない弱い自分をさらすのだった。涙。

演じる宮崎あおいは、いまだ、かわいらしさがイメージの先に立つ人でもあり、宮崎の市には、当初「かわいらしすぎるのではないか」という声が聞かれたこともあった。しかし、小一郎、藤吉郎らサルを相手にする際の、気の強さも入ったキュートさや、信長と接する際の、ふとしたときに見せる慈しみに満ちた顔、そして兄を思う強さと、幾重にも感じさせる人物像を見せてくれる。なかでも、長政のもとに嫁ぐと決まった際の、織田の者としての覚悟が伝わる凛とした姿は本当に美しかった。加えて長政と出会ったことで見えてきた“弱さ”が実に魅力的だ。

中島歩の演じる長政は、妻を庇護するのではなく、手と手を取り共に歩む相手として寄り添う。だが長政は、先にも触れた通り、結局、信長を裏切る道しかなくなっていく。朝倉家と父・久政(榎木孝明)からの圧力、人質になっている息子、そして市も引き合いに出され……。視聴者としては「そなた(市)は織田と浅井の架け橋だ」と言っていたのに~! と叫びたくもあったが、戦国の世にはやむを得ない判断なのだろう。そのことは市も分かっている。

小豆袋の一件も、長政は分かっていた。浅井を裏切った行動が久政らに知られぬよう、罪を1人でかぶって斬られた織田の密使を、覚悟を持って見つめる市と長政。長政と共にある覚悟を、市は自ら選んだ。

◆死してなお、小一郎を立ち上がらせた直の愛

そして、この前半戦で特に涙腺を刺激されたのが、幼なじみ・直の物語である。幼なじみではあるものの、そもそもは土豪・坂井喜座衛門(大倉孝二)の娘として、小一郎たちとは身分が違うとされていた直だったが、当初から、直のほうがより小一郎のことを好きなのだろうと気持ちが見て取れた。

第2話で家族のために村に残ろうとした小一郎の背中を押したのは、母・なか(坂井真紀)だけでなく、直もそうだった。そして背中を押すだけでなく、直は共に村を出る。女性たちの強さが印象的な本作にあって、直にも強さが備わっていたが、彼女の強さには、「小一郎を好きだ」というはっきりしたベースがあった。しかし、好きになればなるほど、出世を重ねて、休む間もなく戦場に出ていく小一郎を前に、「失ったらどうしよう」という怖さが芽生えていく。

一度は小一郎のもとを去って村へ帰ろうとした直だったが、その気持ちを小一郎が知ったことで、これまで以上の絆を確認した。しかし、そのうえで父に結婚を許してもらおうと村へ帰った直を悲劇が襲う……。

直のなきがらを前にした小一郎の叫びが突き刺さる。そこからの魂が抜けたような小一郎は、藤吉郎と同じく、見ていられなかった。そんな小一郎に直の父が、生前の直と交わした、ある“賭け”を伝えて喝を入れた。

そして第9話のラスト。信長によって名を改められた岐阜城で、小一郎は、第2回のラストと重なる直の幻影を見る。「私、すごいな。小一郎なら、きっとそう言うと思った」と。死してなお、小一郎を立ち上がらせる直の愛。終生の妻となるのは、このあと登場してきた吉岡里帆演じる慶だが、直は、小一郎が秀長として上り詰めるそのときにも、心の片隅にずっといることだろう。(文・望月ふみ)

引用:『豊臣兄弟!』公式Instagram(@nhk_toyotomi)

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