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クマ出没は「天気予報」のように予想できる 札幌市が約20年積み重ねてきたヒント【クマ予報2026①】

  • 2026.5.7

札幌では2025年、クマの出没情報が363件で、記録開始以降、過去最多の件数となりました。
ことし2026年も、また大量出没が起こるのでしょうか。どこに気を付けるべきなのでしょうか。

Sitakke

Sitakkeの連載「クマさん、ここまでよ」では、札幌市と、市の委託を受けて現場調査をしている専門家らに取材をし、気を付けるべき場所とポイントをまとめた「クマ予報2026」をお届けします。

「どの場所が危険なの?!」とすぐに知りたいかと思いますが、「クマ予報」は間違った見方をすると、逆効果になります。

「雨が降るという予報だったから、傘を持って行って助かった…」
天気予報はそのように暮らしを守るために活用することができますが、クマ予報も「予防」のためにあります。

これからお伝えする内容をみなさんが正しく受け止めて、暮らしと命を守るためにお使いいただけるように、シリーズで一歩ずつお伝えしていきます。

第1回の今回は、「何を根拠に予想しているのか」についてです。

札幌で「クマ予報」ができる理由

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クマの痕跡を調べる札幌市職員ら(2019年7月)

札幌市ではクマの出没情報が入るたびに、現地で調査をしています。
そのとき、業務委託を受けている「NPO法人EnVision環境保全事務所」の専門家が、一緒に現地に向かいます。

出没情報は本当にクマだったのか、タヌキやシカなどの可能性はないか。
フンや足跡など痕跡は残っているか。
どんな状況だったのか。

通報者からの聞き取りのほか、現地に残された毛1本まで探して、「どんなクマか」「なぜ出没したのか」などを分析し、対策につなげます。

この現地調査の積み重ねが、予報の根拠です。

現場に残された「ヒント」

キーワードは「DNA」です。
新しいフンや毛が残っていると、そこからクマのDNAが採取できることがあります。

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札幌市内の山林でのヘアトラップ調査。自動カメラで撮影(画像提供:札幌市)

また、出没現場のほかにも、生息数の調査のため山の中にも「ヘアトラップ」(木に体をこすりつけるクマの習性を利用して、クマの毛を採取するもの)を設置することもあり、ここでとれた毛も採取します。
そうして集めたものを北海道立総合研究機構に送って、DNAを分析します。

そのデータを地道にため続けて、約20年。
その数、500件近くにのぼります。

「500頭もクマがいるのかー!」ということではありません。
出没情報が積み重なると、「そんなにたくさんクマが増えているんだ」と感じてしまいますが、実はその大半は同じクマだったりします。

DNAの強みは、その答え合わせができること。
市や専門家らは現地調査の段階で、出没場所や見た目の特徴から、「こことここは同じクマかも」と予想を立てますが、蓄積しているDNAと照らし合わせることで、それがより確実なものになっていくんです。

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顔の周りが白いヒグマ(2018年・島牧村)。ヒグマでも体に白い模様が入っていたりと、個体ごとに見た目の特徴があることもある

札幌市でここ20年ほどでとれたDNAは、件数だと約500件ですが、クマごとに仕分けると169個体になります。この数字の差からは、札幌近郊の山に住むすべてのクマが住宅地に近づいているわけではなく、同じクマによるものが多いということがわかります。

捕獲されたクマや交通事故で死亡したクマからもDNAを取って、過去の出没現場などのDNAと照合します。その結果、自然に死亡したクマも含めて、169頭のうち少なくとも50頭以上が死亡しているとみられています。

そしてDNAが山の中でしか取れていないクマもいるので、すべてが住宅地に出没しているクマではありません。また、札幌で痕跡を残したものの通り過ぎ、ほかの地域に移動しているクマもいます。

こうしてデータを積み重ねると、札幌の住宅地に出没しているクマは一部であることがわかり、どこでどんな対策が必要なのか、絞り込んでいくことができます。

これが次の分析や対策に、非常に役に立つんです。

データ分析してきたからこそできた対策

データの蓄積が、対策に結びついた事例もあります。

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道路を悠々と歩くクマ(札幌市南区・2019年)

2019年の夏、札幌市南区藤野・簾舞の住宅地に毎日のようにクマが現れました。住宅の庭のリンゴや、家庭菜園のトウモロコシなどを食べる姿が目撃されました。

このクマが捕獲された後、DNAを調べると、過去に複数の場所で取れたDNAと一致したといいます。その結果、4年前から山に近い場所などで少しずつ果樹の被害を出していて、次第に住宅地に近づいてきていたことがわかりました。

過去の出没現場のうち一つには、近くに誰も管理していない果樹、いわゆる「放棄果樹」がありました。

そこには、たくさんのクマの痕跡が残されていました。1頭ではなく、5~6頭分の痕跡が確認できたといいます。

人口が減るにつれ、増えた「放棄果樹」。毎年果実が実っていて、人は手入れにやってこない…クマにとっては、栄養が高くおいしいものを簡単に食べられる場所になっていたのです。

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2019年、札幌市南区の住宅の庭でクマが食べたリンゴ

放棄果樹は、人が育てた果実のおいしさをクマが覚えるきっかけになり、住宅地への出没の原因になると考えられます。

しかし放棄果樹も個人の財産であり、行政が手を付けるにはハードルがあります。また対策すべき場所は多くあり、人手も必要です。

そこに環境市民団体「エコ・ネットワーク」が協力者に加わったことで、官民連携でのクマ対策ボランティア「クマボラ」がスタートしました。

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クマボラの様子(札幌市南区・2020年)

放棄果樹を伐採し、運び出せるように枝をハサミなどで切って整理します。対策をした場所の出没情報は激減し、大きな効果が見えました。

分析をこれからの対策に生かすには

対策の強みになるDNAですが、すべての現場にフンや毛が残っているわけではありません。見つかったとしても、フンや毛が古い場合などDNAが検出できない場合もあります。

DNAだけで考えるわけではなく、そのときの社会や環境の状態などさまざまな要因が影響するため、出没が続いている最中は、市の担当者や専門家らが「現場の感覚」で予想を立てて動き、DNAは後から答え合わせに使います。

そうした現場経験やデータが蓄積されるにつれ、市の担当者や専門家は、「ある程度、クマの出没予報ができるのでは」と考えるようになりました。

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札幌市西区・2025年10月

2025年秋の大量出没も、そうなるのではという予感があったといいます。本当に大量出没が起きたことで、「もっと予報をうまく伝えて、注意喚起に役立てられないか」と考えるようになりました。しかし行政が発表する公式情報としては、現場の感覚を反映した予報をどう説明していいのかというハードルがあります。

天気予報のように、暮らしと命を守るための情報発信ができないだろうか。
その思いに共感し、HBCとしてできることがないだろうかと、今回の取材を企画しました。

過去の出没のデータが、今後の対策に役立つ。
ということは、2026年のクマ予報のためには、2025年の大量出没がなぜ起きたのかがカギになります。
続きは次回の記事でお伝えします。

取材協力:札幌市環境共生担当課・坂田一人さん、清尾崇さん、NPO法人EnVision環境保全事務所・早稲田宏一さん、中村秀次さん

天気表現の監修協力:HBCウェザーセンター・近藤肇気象予報士

連載「クマさん、ここまでよ」
連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

文:Sitakke編集部IKU
ドキュメンタリー映画『劇場版 クマと民主主義』監督。2018年にHBCに入社し、報道記者として取材した島牧村をきっかけに、人にできるクマ対策はたくさんの選択肢があることを知る。「Sitakke」や「クマここ」の運営、放送やイベントなどを通じて取材・発信に取り組んでいる。

※掲載の内容は取材時(2026年3~4月)の情報に基づきます。

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