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水辺に佇む、美しき名建築10

  • 2026.4.16
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本記事では、水という不定形のエレメントを取り入れ、自然と調和するように設計された日本各地の建築にフォーカス。美術館や宿泊施設など、訪れること自体が目的となる水辺の空間を厳選して紹介する。

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水の教会/北海道

設計:安藤忠雄

北海道の雄大な自然に抱かれた「星野リゾート トマム」の一角に佇む「水の教会」は、安藤忠雄による教会三部作のひとつとして知られる建築。森に囲まれた敷地の奥へと導かれる長いアプローチは、日常から静かに切り離されていくための序章のよう。壁を抜けた先に現れる水面は、訪れる者の感覚を一気に非日常へと引き込む。

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礼拝堂に至るまでの体験は、光と闇、水と音など、五感に訴えるエレメンツで構成されている。ガラスに包まれた“光の箱”では、空や森の気配が全身に降り注ぎ、続く螺旋階段の深い闇が、その先に待つ光への期待を高める。

<写真>4つの十字架が向かい合って建つ「光の箱」。上部は開放されており、自然を近くに感じられる空間となっている。

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階段を降りて辿り着く礼拝堂には、華美な祭壇や装飾はない。ただ大きく開かれた窓の向こうに、水をたたえた湖と一本の十字架が静かに佇んでいる。水面と森、光と影がゆるやかに溶け合うこの場所では、建物だけでなく周りの自然も含めてひとつの教会として存在する。

水の教会
北海道勇払郡占冠村字中トマム

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土門拳写真美術館/山形県

設計:谷口吉生

山形県酒田市、飯森山の自然に包まれる「土門拳写真美術館」は、写真家の土門拳の作品約13万5千点を収蔵し、その保存をはかりながら、順次公開をしている。日本初の写真専門美術館だ。谷口吉生が手がけたこの建物は、背後に広がる自然林と、前面に広がる白鳥池(拳湖)とのあいだに据えられ、周囲の風景と緊張感のある調和を生み出している。

直方体を基調としたミニマルな構成は、花崗岩やコンクリート、ガラスといった限られた素材によってかたちづくられている。池に向かって張り出す「土門拳記念室」や、 冬の風から中庭と入口部分を守るために配された大壁が、建築と水辺の関係に明確なリズムを与える。

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内部では、外光に満ちたエントランスから一転、展示室は閉じた空間へと切り替わる。窓を持たない展示室では、写真そのものと向き合うための静かな環境が整えられ、土門の代表作《古寺巡礼》や《室生寺》などが空間のなかで際立つ。(常設展はない。展示内容は年間スケジュールを参照。)

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また、土門拳と親交の深かった芸術家たちによる協働にも注目したい。入口正面の銘板はグラフィックデザイナーの亀倉雄策が手掛け、中庭にはイサム・ノグチ による彫刻《土門さん》、庭園には勅使河原宏による枯山水《流れ》が配されている。

館内外をめぐる動線の中で、こうした多様な要素が連続的に立ち現れ、自然と建築、芸術が緩やかに重なり合いながら、ひとつの風景を生み出しているのが本館の大きな魅力だ。

<写真>イサム・ノグチによる彫刻《土門さん》。宮城産の玄武岩(通称 どろかぶり)をノミでたたき仕上げたもの。

土門拳写真美術館
山形県酒田市飯森山2-13(飯森山公園内 土門拳記念館)

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SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE/山形県

設計:坂茂

2018年、坂茂の設計により開業した「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」は、山形県庄内平野の水田風景のなかに浮かぶように建つホテル。建物は水面に映り込み、自然と一体化するよう計画されている。

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本施設は、レストランやライブラリーを有する中央のパブリック棟を起点に、客室棟が水田の上に点在し、ガラス張りのテラスや渡り廊下がそれらをゆるやかにつなぐ構成。移動するたび、まるで田園の上を歩くような感覚をもたらす。

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空間の大部分は木造で構成されており、柔らかな光と木の質感が心地よい。共用部は大きく開かれている一方で、客室は静かに風景へと向き合う場として設えられ、自然の気配を身近に感じながら過ごすことができる。

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水田の表情が季節によって大きく変わるのも本施設の大きな魅力の一つだ。春には水面に青空が映り、初夏には稲が芽吹き、秋には黄金色の稲穂が揺れる。こうした風景の変化そのものが、滞在体験の一部として組み込まれているのだ。

近年では、水を張らない栽培方法への挑戦や農業体験の提供など、土地との関係性を深める取り組みも行われており、水田との共生を軸とした新たな風景のあり方が模索されている。

SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE
山形県鶴岡市北京田下鳥ノ巣23-1

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鈴木大拙館/石川県

設計:谷口吉生

金沢の緑豊かな文教地区に位置する「鈴木大拙館」は、仏教哲学者である鈴木大拙の思想に触れ、思索を深めるための文化施設として2011年に開館した。設計を手がけたのは谷口吉生。建築は「玄関棟」「展示棟」「思索空間棟」の3つのボリュームと、「玄関の庭」「露地の庭」「水鏡の庭」という3つの庭から成り、それらを回廊がゆるやかにつないでいる。

なかでも象徴的なのが、浅く水を張った大きな水盤が広がる「水鏡の庭」だ。空や雲、周囲の樹木を映し出す水面は刻々と表情を変え、中央に浮かぶように建つ「思索空間棟」へと視線を向けさせる。

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各所に設けられた床の間的な余白や、禅的な思想や図像に着想を得た「◯△□」のモチーフが、抽象的な哲学を視覚的・体験的に読み解く手がかりとなっている。来館者はこの回遊動線に身を委ねながら、知る・感じる・考えるというプロセスを自然とたどることになるだろう。

鈴木大拙館
石川県金沢市本多町3-4-20

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星のや軽井沢/長野県

設計:東利恵

浅間山の麓、豊かな森と清流に包まれた谷あいに広がる「星のや軽井沢」は、「星のや」ブランドの原点ともいえるリゾート。“谷の集落に滞在する”という独自のコンセプトのもと設計され、分棟型の建築が点在する構成となっている。

客室タイプも、この“集落”という考え方を体現する重要な要素。別荘のように過ごせる戸建ての「庭路地の部屋」、川に面する「水波の部屋」、敷地全体を見渡す高台に位置する「山路地の部屋」の3タイプを用意し、滞在のあり方に多様な選択肢を与えている

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<写真>客室は水辺を囲むように配置され、テラスや大きな開口を通して、屋内にいながら自然を身近に感じられるつくりとなっている。

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敷地内を巡る水は単なる景観要素にとどまらず、水力発電のための調整池としての役割も担いながら、環境と共生する仕組みの一部となっている。高低差のある地形を活かして水が流れ落ち、棚田状の庭園や小さな滝を生み出すランドスケープは、どこにいても水の音や気配を感じられるよう緻密に計画されている。

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敷地内には、水音に耳を澄ませながら思い思いの時間を過ごせる「棚田ラウンジ」をはじめ、散策路や小径も充実。季節ごとに表情を変える、自然の豊かさに触れながらの滞在が叶う。

星のや軽井沢
長野県軽井沢町星野


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佐川美術館/滋賀県

設計:竹中工務店、樂直入

1998年、佐川急便の創業40周年を記念して開館した「佐川美術館」は、琵琶湖のほとり、比叡山や比良山の稜線を遠望する穏やかな環境に建つ。館内では、日本画家の平山郁夫や彫刻家の佐藤忠良、陶芸家の樂直入の作品を中心に収蔵・展示している。

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この美術館の特徴は、敷地の大半を占める水庭と一体となった建築構成にある。大きな切妻屋根をもつ2棟の展示館と、後年増設された「樂吉左衞門館」の3棟が水面に沿って配置され、ガラス張りの回廊によってゆるやかにつながれている。水辺に沿って移動する動線は、外界から切り離される静かな鑑賞環境をつくり出している。

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2007年に開館した「樂吉左衞門館」は、樂直入(十五代吉左衞門)が自ら設計・監修を手がけた空間。水庭に面して設けられた現代の茶室と、水面下に配置された展示室によって構成され、鑑賞者に通常とは異なる空間体験をもたらす。

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茶室は水没する小間と水中に浮かぶ広間からなり、広間の床は水庭の水面とほぼ同じ高さに保たれている。これには「水面と同じ高さに座す。人は自然と同じレベル、目線で生きていかなければならない」という思いが込められているという。

佐川美術館
滋賀県守山市水保町北川2891

※現在は施設の改修及びメンテナンス工事に伴い長期休館中。リニューアルオープンは2026年7月1日(水)予定。
※茶室の見学は別途料金と電話予約が必要。詳細はこちらから。

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松原市民松原図書館 読書の森/大阪府

設計:MARU。architecture

大阪府松原市の文化施設が集まる中央公園エリア。その中でため池に面して建つのが「松原市民松原図書館 読書の森」だ。印象的な外観を持つこの建築の設計を手掛けたのは、MARU。architecture。この地域に点在する古墳やため池といった特有の風景を手がかりに、水辺の環境と連続する建築として計画された。

特徴的なのは、ため池を埋め立てるのではなく、水辺の環境を活かしながら、その中に直接建てられている点にある。厚さ約600mmのコンクリート外壁は、土木構造物のようなスケール感と耐久性を備え、水辺に隣接する立地にも配慮されたつくりとなっている。

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館内では、1階に一般書、2階に雑誌・新聞のブラウジングコーナーと自習スペース、3階に児童書エリアが配されている。約25万冊の蔵書を収めつつ、スキップフロアによって各空間が緩やかにつながり、多様な滞在の仕方を受け止める構成だ。

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また、水辺に建つ立地を活かした環境演出も見どころのひとつ。1階では、水面の揺らぎが反射光となって天井に映り込み、時間帯や天候によって異なる表情を見せる。晴天時には展望広場も開放され、周辺の景色や夕景を楽しむことができる。

松原市民松原図書館 読書の森
大阪府松原市田井城3-1-46

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海の駅 なおしま/香川県

設計:SANAA

瀬戸内海に浮かぶ直島は、現代アートと建築が点在することで知られ、「アートの島」として国内外から多くの来訪者を集めている。宮浦港に面して建ち、島の玄関口として機能しているのが、SANAAによる設計の「海の駅 なおしま」である。

特徴的なのは、敷地の大半を覆う大屋根。約3,600㎡の薄いスチール屋根が、直径約85mmの細い柱によって支持され、視界を遮らずに水平に広がる構成となっている。フェリーからも認識しやすく、周囲の風景と連続するランドマークとして機能している。

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屋根の下には、観光案内所やカフェ、チケット売り場、物産ショップなどがガラスの箱として点在。そのあいだには半屋外のスペースがゆるやかに広がり、フェリーを待つ人や休憩する人、行き交う人など、さまざまな過ごし方を受け止めている。

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構造は柱と屋根の接合部まで含めてできるだけシンプルにまとめられており、全体として軽やかな印象をつくり出している。屋内と屋外を明確に分けないつくりのため、海や空の気配を感じながら過ごせるのも特徴だ。

海の駅 なおしま
香川県香川郡直島町2249-40

©SIMOSE

下瀬美術館/広島県

設計:坂茂

2023年に開館した「下瀬美術館」は、美術館とヴィラ、レストランからなるアート複合施設「SIMOSE」 の中核を担う施設だ。設計を手がけたのは坂茂。瀬戸内海に面した立地を活かし、周囲の風景と連続する建築として計画された。ユネスコ主催の建築賞「ベルサイユ賞」では「世界で最も美しい美術館」とも称され、世界からも高い評価を受けている。

建築全体は、全長約190m、高さ約8.5mのミラーガラスのスクリーンによって囲われている。この外装は周囲の海や空、庭の風景を映し込み、建築の輪郭を視覚的にやわらげる役割を果たしている。

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美術館はエントランス棟、展示棟、管理棟が海岸線に沿って配置され、渡り廊下によって結ばれている。敷地内には、ガラス工芸家エミール・ガレの作品世界に着想を得た庭園が広がり、四季の植栽とともに来訪者を迎える。

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海側の水盤には、色彩豊かなガラスで覆われた複数の可動展示室が配置されている。瀬戸内の多島景観に着想を得たこれらの展示室は、造船技術を応用した水に浮かぶ構造となっており、配置を変えることも可能だ。館内では、近代絵画や工芸作品など多様なコレクションを収蔵・展示する。

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敷地内にはレストランに加え、同じく坂茂が設計を手がけた10棟のヴィラが点在している。ヴィラは、瀬戸内海を望む立地やプライベートな庭を備えるなど、それぞれに異なる滞在環境が用意されており、用途や過ごし方に応じて選択できる。美術館にとどまらず、建築や食、周囲の自然環境をあわせて体験できる場となっている。

下瀬美術館
広島県大竹市晴海2-10-50

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ホテル川久/和歌山県

設計:永田祐三

白浜の海を望む地に建つ「ホテル川久」は、城郭のような外観で知られるリゾートホテル。バブル期の1989年、永田祐三の設計監修のもと、「世界の数寄屋」をテーマに計画され、中国、ヨーロッパ、イスラム、日本など各地の技術を融合させて建設された。

総工費は約400億円、延床面積は約2万6,000㎡におよび、約2年の工期を経て1991年に完成した。

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外観で目を引くのは、中国の宮殿建築に着想を得た黄色の瑠璃瓦で、屋根には約47万枚が用いられている。外壁は73種類・約140万ピースのレンガによって構成され、重厚さと緻密さをあわせ持つ表情を生み出している。

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館内に入ると、大空間のロビーが広がる。22.5金の金箔で覆われたドーム天井は、その規模の大きさでも知られ、空間全体に強い印象を与える。これを支える柱には、ドイツの伝統技法をもとに制作された人工大理石が用いられ、床にはイタリアの職人によるモザイクが敷かれるなど、各国の技術が細部にまで取り入れられている。

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また、館内外には多くの美術品が配されており、中国美術や近代絵画など多彩なコレクションが点在する。2020年にはオーナーコレクションを公開する「川久ミュージアム」が開設され、豪華絢爛な空間とあわせてアートも鑑賞できる構成となっている。

ホテル川久
和歌山県西牟婁郡白浜町3745

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