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川添愛「言葉のセンス研究所」(4)パペットスンスンは暴走する

  • 2026.4.8

SNSで大人気の青くてフワフワしたキャラクター、パペットスンスン。愛くるしさと得体の知れなさを兼ね備えたスンスンから縦横無尽に繰り出される、あまりにシュールなボケの正体とは――?

気鋭の言語学者・川添愛さんが日常に飛び交う会話を様々な角度から分析し、「言葉のセンス」を探求する言語学エッセイ連載第4回です!

いくら「言葉のセンスがある」と言っても、口を開くたびに聞く者を唸らせるほどの人材はそういない。しかしここ一年ほど、そういった希有な存在に圧倒され続けている。その名は「パペットスンスン」。ネットやめざましテレビとかでよく見る、あの青くてフワフワしたキャラクターだ。年齢は(おそらく "永遠の")6歳で、パペットの国トゥーホックというところに住んでいるらしい。

私がスンスンを初めて見たのは、ネットでたまたま見かけた「ぼうえんきょう」という短い動画でのことだった。この動画では、スンスンが親友のノンノンに「紙を丸めて望遠鏡を作ったの~」と話しかけ、本当に紙を丸めて作っただけの望遠鏡を手渡す。望遠鏡を覗いて自分を見るノンノンに、スンスンは「回すと大きく見えるよ」と言う。ノンノンが望遠鏡を回すと、スンスンが少しずつ大きく見えてくる。しかしそれは、スンスンが望遠鏡に近づいているからなのであった。ノンノンの「ほんとだ、おっきく見える」というコメントで動画は終わる。

見終わった私の喉から、変な笑い声が出た。動画を見たことがない人は、もしかすると上の説明を読んで「スンスンはノンノンをだまそうとしているのかな」とか、「スンスンはノンノンに夢を与えようとしてるのかな」などと考えるかもしれない。しかし少なくとも私が見るかぎり、スンスンは本当に「何も考えずに」ノンノンに近づいていた。マジで何を考えているか分からない得体の知れなさと、それを補ってあまりある可愛らしさに、ただ笑うしかなかった。

一連の動画作品におけるスンスンの立ち位置は主に「ボケ」だ。ボケにもいろいろな種類があるが、スンスンの場合、話している相手との「共通の理解」を無視したボケが目立つ。

ここで言う共通の理解とは、会話をスムーズに成立させるために、話し手と聞き手が共有している知識のことを指す。私たちは会話をするときに、相手が何をどれくらい知っているか、自分と相手が互いのことをどれほど理解しているかなどを考えながら、適切な表現を選んで話している。

たとえば、そこにいない第三者(○○さん)のことを話すときに、相手がその人のことを知らなそうだったら「○○という人がいてね、こないだその人が……」という言い方をした方が親切だが、もし相手もその人をよく知っているという確信があれば「こないだ○○がさぁ」のような切り出し方ができる。また、もし自分の知らない誰かについて相手が「こないだ○○がさぁ」と話し始めたら、「○○っていう知り合いがいるんだな」と自分の知識をこっそり更新したり、あるいは「○○って誰?」と聞き返して「自分はその人を知らない」ことを相手に知らせたりする。そうやって、その場で「共通の理解」を調整するわけだ。意識しているか否かにかかわらず、私たちはそういう繊細な作業をしている。

で、パペットスンスンはどうかというと、話している相手との間で共通の理解を構築せずに暴走したり、共通の理解があるように見せかけて後からぶち壊したりするケースが散見される。

まずはライトな例から見ていこう。「AとBのどちらか」という質問に対する返答についてだ。

カルチャー動画メディア「McGuffin」とのコラボシリーズに「パペットスンスンのお悩み相談室」というのがあり、McGuffinのスタッフさん(スンスンが呼ぶところの「おじさん」)とスンスンとの掛け合いが楽しめる。その「#8 ピザのトッピングのおすすめは?」という動画の中で、おじさんがスンスンに「スンスンは、モッチリしてるピザが好き? パリッとしてるピザが好き?」と訊ねる場面がある。ここでスンスンはためらうことなく「べちょっとしてるピザが好き!」と答える。

「AとBのどっち?」という二択の質問をするとき、質問する側は「この二つのどちらかに正解があるはずだ」と考えている。もしこの予想が間違っている場合、質問された側は「どちらでもないよ」と明言することで相手の思い込みをリセットするなどして、共通の理解を調整することが多い。しかしスンスンはその手間をすっ飛ばして「べちょっとしてるピザ」と、選択肢にないことを平気で答えている。

まあ、これぐらいの「二択破り」なら、普通の人でもやるかもしれない。しかしYouTube公式チャンネルの「パンとごはん」では、「AとBのどちらか」という問いに対して、さらに常軌を逸した振る舞いが見られる。

スンスンはたぶん何も考えていない

まず、スンスンが親友ノンノンに「パンとごはん、どっちが好き?」と訊ねる。どっちか選べず、考え込むノンノン。悩んだ末に「ちなみに、スンスンは、どっちが好きなの?」と聞くと、「ぼくはねえ、パンとごはんとハンバーグとサラダとスープのセットが好き~」と答えるのだ。

ちなみに「AとBのどちらか」という二択に対して、「AとBの両方」と答えること自体は一応「あり」だ。しかし、「AとBとCとDとE(のセット)」は明らかに、訊かれてもいない情報を付け加えすぎだ。しかも、もともと自分から相手に「AとBのどちらか」と訊ねておいて、いざ自分が同じ質問をされたらこのように答えるのは、凄まじい「二択破り」である。

また、固有名詞を利用したボケも見られる。「【パペットスンスンのお悩み相談室】#9 鳴き止まない犬への対処法は?」にて、スンスンはおじさんに犬の役をしてもらう。そのときに何の脈絡もなく、おじさん(犬)のことを「バンボボーボンボビエー」という名で呼ぶ。理由は「そういうふうに鳴くから」らしい。

誰かを特定の名で呼ぶという行為が成功するには、文脈上でけっこうなお膳立てが必要だ。少なくとも、呼ぶ側も呼ばれる側も「この人は(/私は)○○という名前である」と理解しておかなくてはならない。そういう共通の理解がない場合は、名を呼ぶ前に「今日からお前を○○って呼んでやるぜ」ぐらいの宣言はしておく必要がある。しかし、スンスンはそんなのおかまいなしだ。バンボボーボンボビエーという名前の異様さもさることながら、自分の脳内でつけた名前をいきなり相手に適用するのは、明らかに暴走していると言える。

固有名詞を使ったボケをもう一つ紹介しておこう。「ボベガガ」という動画で、スンスンはノンノンに、あっちで大きなカブトムシを見たと報告する。ノンノンが「あっちってどっち?」と訊くと、「あっちの、ボベガガの方」と言う。ノンノンはスンスンが指さした方に行くが、カブトムシを見つけられない。戻ってきて改めて「ボベガガって何?」と聞くと、スンスンは「わかんない」と答え、逆にノンノンに「ボベガガって何?」と聞き返す。

人名、地名などの固有名詞をいきなり単独で口にするには、「自分も、そして相手も○○が何であるかを知っている」という前提が成り立っているのが望ましい。自分が○○をよく知らないときや、相手が○○を知らない可能性がある場合は、先に述べたように「○○という人」「○○っていう場所」のような表現が選ばれることが多い。一方、話し手が明確な前振りもなしに単独で「○○」と言う場合にはたいてい、「私は○○をよく知っている」という意味合いが伴う。

つまりスンスンが「あっちのボベガガの方に」と言った時点で、聞き手のノンノンは「ボベガガっていう名前の何かがあって、スンスンはそれをよく知っているんだな」と推測し、自分の理解を更新する。しかしスンスンはそれを後から「わかんない」「ボベガガって何?」とくつがえすのだから、ノンノンも視聴者も不安になるわけだ。

しかしスンスンはけっして、悪気があってやっているわけではない。「ぼうえんきょう」のときと同じく、たぶん何も考えていない。そして、単に「何も考えていない」というだけで、これほど面白いボケができるわけでもない。もし普通の人が以上の考察だけを踏まえて「スンスン風のボケ」をしたら、周囲の人々をイラつかせる危険性がある。どうしてもやりたい人は、何十年かの激しい修行ののちに全身からフワフワした青い毛が生えてからやった方がいい。

また、ここまで書いてきたことは、パペットスンスンの面白さ、シュールさを構成する要素のひとつに過ぎない。スンスンについてはまだ語り足りないので、またいずれ取り上げようと思う。

川添愛(かわぞえ・あい)

言語学者、作家。九州大学文学部、同大学院ほかで理論言語学を専攻し博士号を取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。著書に、『白と黒のとびら』『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』『ふだん使いの言語学』『言語学バーリ・トゥード』『世にもあいまいなことばの秘密』『日本語界隈』(ふかわりょうとの共著)『「わかってもらう」ということ 他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方』『パンチラインの言語学』『裏の裏は表じゃない』など多数。

文=川添 愛
イラスト=Akimi Kawakami

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