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わたしの好きな少女小説のヒロイン|弥生美術館学芸員の内田静枝さんが語る『スウ姉さん』

  • 2026.4.7
撮影=藤巻 斉(フレイム)

『小公女』『赤毛のアン』などの海外小説から、日本の戦前の少女小説、少女小説レーベル、そして現代文学へと受け継がれてきた“少女の物語”。そこで描かれる誇り高き少女たち、少女的な感性で生きるヒロインたちは、いくつになっても心のなかに生き続け、私たちに希望や勇気、自信を与えてくれます。そんな小説を愛し、少女の心を持ち続ける方々が、名作から学んだこととは……?

スウ(スザナ・ギルモア) 『スウ姉さん』

少女小説を牽引した作家と翻訳家が示した女性の生き方

昭和初期、日本文学史に少女小説というジャンルを切り開き、作家として中心にいたのは吉屋信子ですが、海外の少女小説の紹介者としてともにメインストリームにいたのが翻訳家の村岡花子。

彼女が『赤毛のアン』と同じくらい愛し、少女たちに繰り返し推薦したのが『スウ姉さん』です。自分の夢を追いかけて生きることよりも、家族のために尽くすことを選ぶスウ姉さん。そういう人生を、みなさんはどう思いますか?

いまの時代も子育てや介護など、女性の悩みは尽きません。家族を優先して乗り切ってきた女性はたくさんいるでしょう。「スウ姉さんのような人は世界中にいて、その人たちに届けたい」と作者のエレナ・ポーター、訳者の村岡花子も言っています。自分を必要としてくれる人に応える生き方は素晴らしい、それは後悔すべきではない。スウ姉さんの生き方を通して、ふたりはそう伝えたかったのではないでしょうか。

[『スウ姉さん』(河出文庫)P284]人から必要とされることほど有意義なことはない。それは「犠牲」ではなく、本当に生きがいのある生活をするための「機会」だという言葉に納得したスウが、音楽修業を切り上げ、家族のもとへ帰ることを告げたときのひと言。 Hearst Owned

人それぞれ生き方があるとは思いますが、自分を頼り、求めてくる人を蹴とばして成功したとしても、幸せにはなれないのかな……。いまあらためて読みなおすと深く心に染みました。自分を必要としてくれる人の手を振りほどかないと活躍できない世の中であってはいけないと思いますし、女性がどんな生き方を選んでも、罪悪感を持たなくていい社会になってほしいと強く感じましたね。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『スウ姉さん』

エレナ・ポーター/著 村岡花子/訳
河出文庫 814円

ピアニストを目指しながらも、14歳で亡くした母に代わり、家族の世話を強いられるスウ姉さん。父が経営する銀行が破綻し、恋人が去ってもなお持ち前のユーモアを支えに、明るく前向きに与えられた場所でタフに生きていく。スウ姉さんは耐え忍ぶのではなく闘う女。1932(昭和7)年に翻訳された当時のタイトルは『姉は闘ふ』だった。

一方、吉屋信子の作品からは『紅雀』と『わすれなぐさ』のヒロインを挙げたいと思います。

まゆみ『紅雀』

『紅雀』のまゆみは15歳の美少女。両親を亡くし、愛らしい弟と男爵家の家庭教師に引き取られる可哀そうな身の上です。

これまでの少女小説であれば、哀れな子が同級生にいじめられ、それに耐え抜いて最後は大逆転するというのが定番でしたが、まゆみはそうではありません。最初から意志が強くて誇り高く、文武両道で周囲から崇拝される存在。

でも、彼女は自尊心が高すぎるがゆえに、人から注目されたり、施しを受けたりすることに耐えられず、家出をしてしまいます。そこから彼女が自ら体を動かして働き、お金を稼ぐことを通して成長していく過程が見どころ。働くことで自分の殻を破るヒロインは、現代的でもあります。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『紅雀』

吉屋信子/著
河出文庫 1,100円

勝気な美少女・まゆみと幼い弟・章一は両親を亡くし、男爵家の家庭教師・純子に引き取られる。男爵家からも家族同然の愛情を注がれるが、気位の高さゆえ人から施しを受けることが許せないまゆみは、弟を残して家出をしてしまう……。悲運に負けず、自らの手で人生を切り開いていくまゆみの姿に、日本中の乙女たちが熱狂した。

弓削牧子、相庭陽子、佐伯一枝『わすれなぐさ』

『わすれなぐさ』には3人のヒロインがいますが、個人的に好きなキャラクターは、何でも「ホホホ」で済ませてしまい、「欲しいものは欲しいのよ!」といわんばかりにぶっ飛んだ陽子です。

とはいえ、主人公は牧子。吉屋信子は、牧子の視点を通して「女はかくあるべし」という男尊女卑思想に対する嫌悪感や、良妻賢母以外の道もあることを読者に示します。いま吉屋信子作品が再注目されているのは、圧倒的なエンターテイメント性がありながら、フェミニズム的視点や問題意識をバランスよく融合させているからだと思います。

撮影=藤巻 斉(フレイム)

『わすれなぐさ』

吉屋信子/著
河出文庫 957円

少女雑誌『少女の友』の1932年4月号~12月号に掲載された連載小説。とある女学校の同級生3人の人間模様を描く。無口で風変りな牧子を自分のものにしようとゲーム感覚で迫る美しくわがままな陽子。牧子は女王然とした陽子の誘惑に抗えない一方で、“ロボット”と称されるほどに真面目で模範生の一枝にも惹かれていく……。

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うちだしずえ〇出版美術を専門とする弥生美術館の学芸員を務める。昭和の少女文化、ファッション、イラストレーションに関する企画展を数多く手掛け、編・著作に『少女時代によろしく』『水森亜土』『長沢節』(すべて河出書房新社)などがある。

少女小説をもっと知るためのイベント

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特別展 生誕130年吉屋信子展 シスターフッドの源流

会期:4月4日(土)~5月31日(日)
時間:9時30分~17時(入館は~16時30分)
会場:神奈川近代文学館
休館日/月曜(5月4日は開館) 入場料/800円

20歳で作家デビューし、大正、昭和を通じて、旺盛な活動を続けた人気作家、吉屋信子。連作短編集『花物語』は、女学生を中心に熱狂的な支持を集め、日本文学史に少女小説という一ジャンルを築いた。

作中で多様な女性像や女性同士の関係を描き、自身も同性のパートナーと生涯をともにした信子。神奈川近代文学館が所蔵する膨大な資料を中心に、信子の人生と作品に「女性同士の絆」という観点から新たな光を当て直す。

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集英社コバルト文庫創刊50周年ときめくことばのちから──少女小説家は死なない!─

会期:4月29日(水・祝)~5月10日(日)
時間:10時~20時(入館は~19時30分)
会場:西武渋谷店A館7階催事場
入場料/1,500円

1976年5月28日に創刊し、今年で50周年を迎えるコバルト文庫。1980年代から2010年代にかけて生み出されてきたコバルト文庫の物語と言葉は、多くの少女たちを夢中にさせ、“いちばんの親友”としていつも寄り添ってきた。

本展では、「ことば」「ときめくことばのちから」に着目し、コバルト文庫の50年の歴史と魅力を掘り起こす。日替わりでゲストとして登壇するコバルトのレジェンド作家たちにもご注目!

撮影=藤巻 斉(フレイム) 編集・文=柏木敦子(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年5月号より

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◾️特集「少女小説が教えてくれたこと」

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