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センサーも電池も「脳」すらない”形状で動く”ロボット群を開発

  • 2026.4.7
電子的な脳、バッテリー、センサーを持たない、形状によって動くロボット / Credit:Xinyi Yang(GATech)et al., Advanced Intelligent Systems(2025), CC BY 4.0

「これは本当にロボットなのか?」

そう疑いたくなるかもしれません。

今回開発されたロボットには、センサーも、コンピューターも、バッテリーすら存在しません。

それでも彼らは、外部から振動を受けると、集団になることでまるで意思を持ったかのような振る舞いを見せます。

この不思議なロボット群を開発したのは、アメリカのジョージア工科大学(GATech)の研究チームです

研究の中心にあるのは、「知能を電子回路ではなく構造そのものに埋め込めないか」という発想です。

この研究成果は、2025年7月13日付の学術誌『Advanced Intelligent Systems』に掲載されました。

目次

  • 脳を持たない「形で考える」ロボットを開発
  • 「電子回路やバッテリーが必要ない」というメリット、応用に期待

脳を持たない「形で考える」ロボットを開発

今回の研究で最も面白いのは、「ロボットには電子的な頭脳がある」という常識をひっくり返している点です。

普通のロボットは、センサーで周囲の情報を集め、コンピューターで判断し、プログラムに従って動きます。

つまり、ロボットの知能は電子回路の中にあります。

しかし今回のロボットは違います。

情報処理を担うのは電子部品ではなく、粒子どうしの接触と形状です。

それぞれの粒子ロボットは円形の本体を持ち、その周囲には等間隔で、しなる触手のようなアームが配置されています。

このアームが別の粒子に触れると、曲がりながら互いに引っかかり、ロック状態になります。

このときアームはバネのように変形しており、内部には弾性エネルギーが蓄えられています。

ここまでは、いわば「くっつく仕組み」です。

では、どうやって離れるのでしょうか。

そのきっかけになるのが外部から与える振動です。

研究チームが粒子を載せた台に小さな振動を加えると、粒子はすぐに離れるのではなく、まずはロックしたまま小さな衝突を何度も繰り返します。

この微小な衝突が積み重なることで、触手どうしの接触状態が少しずつ変わり、ある瞬間にロックが一気に解除されます。

すると、触手に蓄えられていたエネルギーが運動エネルギーに変わり、粒子どうしが勢いよく反発して離れていきます。

重要なのは、この一連の動きが「考えて決めた結果」ではなく、「形と力学の結果」として生じていることです。

つまり、このロボットは命令を計算しているのではなく、構造そのものが答えを出しているのです。

研究チームはこの考え方を「mechanical intelligence(機械的な知能)」と表現しています。

さらに面白いのは、粒子が2個ではなく多数集まると、振る舞いが一気に複雑になることです。

一気に広がったり、段階的に広がったりできる。また一方に移動することも可能 / Credit:Xinyi Yang(GATech)et al., Advanced Intelligent Systems(2025), CC BY 4.0

粒子が互いにロックして塊を作る状態もあれば、振動によって一斉にほどけて周囲に広がる状態もあります。

実際、粒子群が分離した状態から固まった状態になり、そこから再び一斉に拡散する様子が示されており、まるで物質が液体や固体や気体のように姿を変えるようにも見えます。

しかも、この振る舞いは偶然ではありません。

触手の先端の形を少し変えるだけで、ロックの強さや外れやすさ、離れるときに放出されるエネルギーが変わります。

たとえば、しっかり噛み合う形なら外れにくくなり、外れやすい形ならより弱い振動でも離れやすくなります。

この違いを利用すると、どの粒子群が先にほどけるか、どの段階で広がるかといった挙動を設計できます。

また、ロボットの構造によっては、特定の方向に移動することも可能です。

こうした点が、従来のロボットとの決定的な違いです。

普通のロボットは、ソフトウェアを書き換えることで行動を変えます。

一方で今回のロボットは、形を変えることで行動が変わります。

言い換えれば、プログラムの代わりを形の設計が担っているのです。

そのため、これは「ロボット」というより、「動く仕組みそのもの」に近い存在だと言えるかもしれません。

では、これらのロボット群はどんな可能性を秘めているのでしょうか。

「電子回路やバッテリーが必要ない」というメリット、応用に期待

このロボットの大きな利点は、電子回路やバッテリーに頼らないことです。

普通のロボットは高性能になるほど、センサーや制御装置、電源など多くの部品が必要になります。

しかし今回の仕組みでは、粒子そのものの形と接触だけで振る舞いが決まるため、構造を極めて単純にできます。

この単純さは、弱点ではなく強みになりえます。

特に注目されるのは、小型化しやすい点です。

電子部品を積み込む必要がないなら、粒子をもっと小さなスケールにしていく余地があります。

研究チームは、この考え方を将来的には微小な粒子ロボットへ広げられる可能性があると見ています。

たとえば、さらに小型化できれば血管内に送り込み、超音波のような振動で広げて、通常の機器では届きにくい場所にアクセスするといった応用が可能です。

がん治療薬を狙った場所に届けたり、細い血管の構造を調べたりするのに役立つかもしれません。

応用先は医療だけではありません。

たとえば宇宙空間のように、放射線や極端な温度変化が電子機器にとって厳しい環境では、電子回路に頼らない仕組みそのものが強みになります。

粒子を小さくまとめて運び、必要な場所で振動を与えて一斉に展開することができれば、探査や簡単な作業、障害物を避けながらの拡散などに利用できる可能性があります。

また、この研究はロボット工学だけでなく、「材料」の考え方にもつながっています。

形を工夫することで、くっつく、離れる、広がるといった振る舞いを材料側に持たせられるなら、将来的には条件に応じて自ら形を変える構造物や、刺激に応じて分散する素材といった方向にも発展するかもしれません。

もちろん、課題もあります。

このロボットは、従来のロボットのように複雑な判断をしたり、精密な作業をしたりするのは得意ではありません。

外部からの振動という比較的単純な刺激に応じて動く仕組みなので、「何でもできる万能ロボット」ではないのです。

しかし逆に言えば、入り込みやすい、広がりやすい、そして電子回路に頼らないという点では、これまでのロボットにない個性を持っています。

今回の研究は、ロボットをより賢くするのではなく、「賢さを別の場所に移す」という発想を実現させた点で大きな価値を持っています。

確かに、ロボットとは、センサーや電池やコンピューターを備えた機械のことだと私たちは思いがちです。

しかし今回の研究は、その常識を少し揺さぶります。

未来のロボットの中には、形だけで動き出す「仕組み」や、それらが複雑に組み合わさったものも含まれるのかもしれません。

参考文献

Researchers build a robotic swarm with no electronics, no batteries and no brains
https://techxplore.com/news/2026-04-robotic-swarm-electronics-batteries-brains.html

元論文

Electronic-Free Particle Robots Communicate through Architected Tentacles
https://doi.org/10.1002/aisy.202500151

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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