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【世界初】反物質をトラックで輸送することに成功

  • 2026.3.25
【世界初】反物質をトラックで輸送することに成功
【世界初】反物質をトラックで輸送することに成功 / Credit:CERN

CERN(欧州原子核研究機構)で進められた研究により、92個の反陽子を特別な装置に閉じ込めたままトラックで運ぶことに成功しました。

これは人類史上、道路の上を反物質が移動した初めての出来事です。

反陽子は反物質なので、ふつうの物質に触れるだけで消えてしまいます。

今回の成果は、そうした“触れたら終わり”の粒子を、反物質を作る施設から、必要とする場所へ運べる可能性を現実にしたこととになります。

研究者たちは将来的に、反物質製造所から各地の研究所に反物質を提供することを目指しているようです。

この成果は2026年3月24日にCERNのプレスリリースとして発表されました。

目次

  • “触れたら終わり”の荷物
  • なぜ反物質輸送が重要なのか?

“触れたら終わり”の荷物

【世界初】反物質をトラックで輸送することに成功
【世界初】反物質をトラックで輸送することに成功 / Credit:CERN

私たちの体や地球、星や宇宙に存在する普通の物質は、「陽子」「中性子」「電子」という粒子でできています。

このうち「陽子」はプラスの電気、電子はマイナスの電気を帯びています。

しかしこの宇宙には、それぞれに対応する反粒子としての反物質が存在します。

たとえば陽子の反対にあたる反陽子はマイナスの電気を持つことが知られています。

反陽子の何が難しいかというと、これが通常の物質に触れた瞬間、お互いを打ち消し合って「消滅」してしまうことです。

そのため、反陽子を実験に使うためには、絶対に普通の物質に触れさせることができません。

そこでCERNの実験チームは「可搬型反陽子トラップ(BASE-STEP)」を開発しました。

この装置の中心部には電磁場で反陽子を閉じ込めるトラップがあり、そのまわりを超高真空の真空槽、液体ヘリウムで冷やす低温機構、電源の予備系、超伝導磁石が取り囲みます。

2021年の設計資料によれば、この装置の大きさはおよそ長さ2メートル、幅0.9メートル、高さ1.85メートル、重さは1トン未満とされています。

これまでにも反陽子を実験室内の巨大な装置で保持することは可能でしたが、今回はその装置を可搬化のために大幅に再設計し、トラックに積めるサイズにまで小型化すると同時に、輸送時の振動にも耐えられるように改良が行われました。

実験では、この装置の中に反陽子92個を閉じ込め、まずそれを慎重に研究施設の実験設備から切り離してトラックに積み込みました。

その後、ゆっくりと施設の敷地内を走行させ、輸送後に装置を確認しました。

結果、輸送後も反陽子が保持され、実験継続が確認されました。

これは、つまりBASE-STEPという装置が「反物質を保持したままトラック輸送できる」という役割をしっかりと果たせることを世界で初めて示した、重要な成果なのです。

なぜ反物質輸送が重要なのか?

【世界初】反物質をトラックで輸送することに成功
【世界初】反物質をトラックで輸送することに成功 / Credit:CERN

ここまで読むと、「すごいのはわかったけど、結局ただ運べただけでは?」と思うかもしれません。

ですが、本当の問題はここからです。

そもそもCERNで行われたこの実験の目的は、「反陽子と陽子が本当に同じ性質を持っているのか」を極限まで正確に調べることです。

宇宙のはじまりには、物質と反物質がほぼ同じだけ生まれたはずです。

なのに今、私たちのまわりは物質だらけです。

その「なぜ」を追いかけるうえで、陽子と反陽子を極限まで正確に比べることには大きな意味があります。

BASEはすでに、陽子と反陽子の電荷と質量の比を16兆分の1の不確かさまで比べることに成功しており、まさにこの問題の最前線を走っています。

もし両者のあいだに、理論が予想しきれていないズレが見つかれば、なぜ宇宙に物質ばかりが残り、反物質がほとんど見当たらないのかという大問題の手がかりになるかもしれません。

ところがCERNの反物質製造工場は反陽子を作るには最高の場所ですが、精密測定という目で見ると、その“工場”であること自体が弱点になります。

加速器や減速器が近くで動くため、磁場の環境がわずかに落ち着かないのです。

ふつうの感覚ではまったく問題にならないレベルの揺らぎでも、性質の違いを極限まで確かめる大きな障害となってしまいます。

そのためさらに高精度を狙うには精密測定を行う装置は反物質製造工場から離れた場所に置く必要がありますが、これまでは製造工場と測定装置を結ぶ輸送方法がなかったのです。

しかし今回の成功により、それへの道筋が具体的に見えてきました。

研究者たちは最初の目標は、ドイツのハインリヒ・ハイネ大学デュッセルドルフ校にある専用の精密実験室へ反陽子を運ぶことだと述べています。

もしそれが可能ならば、次は「ヨーロッパ中の研究室へ反物質を運ぶ」という段階に入り、反物質研究を大きく前に進める可能性があります。

参考文献

BASE experiment at CERN succeeds in transporting antimatter
https://home.cern/news/press-release/experiments/base-experiment-cern-succeeds-transporting-antimatter?utm_source=chatgpt.com

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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