1. トップ
  2. 兄「父が亡くなったので口座を確認したい」→10分後、弟が来店し銀行窓口が修羅場になったワケ…

兄「父が亡くなったので口座を確認したい」→10分後、弟が来店し銀行窓口が修羅場になったワケ…

  • 2026.5.11
undefined
出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。銀行窓口で勤務していると、お金のトラブルについて考えさせられる瞬間があります。

その多くは悪意ではなく、“制度を正しく知る機会がないこと”によってどうしても生じてしまうことです。

今回は、私が実際に経験した相続手続きの中でも、特に印象に残っている出来事をお話しします。

死亡当日、静かに始まった手続き

ある平日の午前中、一人の男性が来店されました。

「父が亡くなったので、口座のことを確認したいんです」と切り出したその方は、必要書類もすべて揃えており、非常に落ち着いたご様子でした。

私は通常どおり、死亡の事実確認と口座の照会を進めました。

銀行では、名義人の死亡を確認した時点で一般的には口座の利用を制限する対応が取られることが多いです。

これには不正な出金を防ぐとともに、相続人間でのトラブルを回避し、財産を公平に分配するという重要な目的があります。

ただし、ここで一つ重要な点があります。2019年の法改正によって、現在は一定の条件を満たせば、口座の凍結後であっても預金の一部を払い戻すことが可能になっているのです。

「仮払い制度」という例外ルール

相続では、葬儀費用など「すぐにお金が必要になる場面」が多々あります。

そのため、遺産分割が完了する前であっても一定額を引き出せる「預貯金の払戻し制度(仮払い制度)」が導入されました。

この制度により、死亡時の預金残高に3分の1と法定相続分を乗じた金額、あるいは1金融機関あたり最大150万円のうち、いずれか低い方の金額までであれば出金が認められています。

つまり、凍結されたからといって「まったく引き出せない」わけではありません。しかし同時に、あらゆる支払いに対応できるほど「全額を自由に動かせる」わけでもないのです。

※実際の払い戻しには金融機関所定の確認書類や手続きが必要です。

10分後、窓口の空気が一変した

手続き開始から約10分後。別の男性が慌てて来店されました。

「父の口座から今日中にお金を下ろしたい!」と声を上げたのは、先ほどの男性の弟さんでした。葬儀費用の支払いのため、出金する予定だったとのこと。

しかし、すでに死亡確認は完了していました。

私は制度に基づき「現在は口座が凍結されていますが、仮払い制度により一定額までは出金可能です。ただし、全額はお引き出しできません」と説明しました。

その瞬間、弟さんの表情が変わりました。「なんで全部出せないんですか?」

「出せるのに足りない」という新しい衝突

ここで起きたのは、従来型の「出せないトラブル」ではありません。“出せるが足りない”という新しい摩擦です。

兄は「凍結されるから全部止まるって聞いたけれど……」と困惑し、一方で弟は「一部だけじゃ足りないだろ! 意味ないじゃないか!」と反発しました。つまり、兄は「一切引き出せない」と思い込み、弟は「全額引き出せる」と信じ込んでいたのです。

このように、制度に対する理解が両者で決定的にズレていたことが、衝突の原因となりました。

銀行が“融通を利かせない”本当の理由

「もう少し何とかならないのか」という言葉は、現場で何度も耳にします。

しかし、ここで安易に例外を認めてしまうと、一部の相続人だけが多く引き出すことによる不公平が生じ、それが後日の大きなトラブルへと発展しかねません。

同時に、銀行側が法的責任を負うという重大なリスクが浮上します。

仮払い制度もまた、こうした公平性と緊急性のバランスを維持するために設計された、いわば「妥協点」に過ぎません。決して、すべての問題を解決する万能な手段ではないのです。

修羅場のあとに残った言葉

最終的に兄弟は別室で話し合い、不足分は別資金で対応することになりました。

相続トラブルを防ぐためのポイント

読者の方に、最低限押さえておいてほしい点です。
■ 死亡直後の現実
・口座は凍結される
・ただし一定額は仮払い可能
・全額自由に出金はできない

■ 仮払い制度の理解
・上限は「残高×1/3×法定相続分」または150万円
・金融機関ごとに適用される
・あくまで“応急対応”の制度

■ 事前対策
・葬儀費用は別口座で準備
・家族間で口座情報を共有
・制度を事前に理解しておく

お金が人を狂わせるのではない

悲しみの中で、時間も余裕もない状態。
そこに普段なかなか触れることのない制度の壁が突然立ちはだかってしまうことで衝突が起きます。

銀行窓口は、単なる手続きの場ではありません。

人生の現実が、最もシビアに現れる場所です。もし同じ場面に立つことがあれば、「全部は出せないが、一部は出せる」という事実だけでも、思い出していただければと思います。

不安なことやわからないことがあれば、いつでも窓口にご相談いただければと思います。


ライター:くまえり銀行員
金融機関の窓口業務に携わり、日々さまざまなお客様対応を経験。忙しい日常の中で起こりがちな銀行手続きの行き違いやトラブルを、窓口の内側から見た視点で、読者に寄り添いながら伝えています。「知らなかった」が「なるほど」に変わる瞬間を大切に執筆中。  


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】

の記事をもっとみる