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高齢患者「鍵がないんです」家族「また始まった」妄想かなと思ったら…発覚した予想外の“真相”

  • 2026.6.1
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

訪問看護では、利用者さん本人だけでなく、ご家族から「また始まったんです」という相談を受けることがあります。特に認知症のある方では、物盗られ妄想として説明される場面も少なくありません。

けれど実際には、妄想だけでは片付けられないこともあります。今回は、「鍵が盗まれた」という訴えから見えてきた出来事についてお話しします。

「誰かが鍵を持っていったんです」

訪問看護を利用している高齢女性のAさん。軽度の認知症があり、一人暮らしを続けている方でした。

ある日の訪問時、Aさんは少し興奮した様子でこう言いました。

「鍵がないんです」
「誰かが持っていったんです」

話を聞くと、家の鍵が見当たらないとのことでした。

ちょうどその場にいた娘さんは、少しため息をつきながら言いました。

「またなんです」「最近、盗られたって言うことが増えてて…」

いわゆる「物盗られ妄想」として受け止めている様子でした。

認知症のある方では珍しくない症状です。私自身も、その時点では同じように考えていました。

気になった「なくなるタイミング」

ただ、その後もAさんは繰り返し鍵について訴えるようになりました。

「昨日もなくなった」「また誰か入ってる」

娘さんはそのたびに、

「ちゃんと探した?」「またどこかに置いたんじゃない?」

と対応していました。

しかし話を聞いているうちに、一つ気になることがありました。鍵をなくすタイミングが、毎回ほとんど同じだったのです。

Aさんは決まって、外出から帰ってきたあとに「鍵がない」と言い始めていました。逆に、家の中だけで過ごしている日は、そうした訴えは出ていませんでした。

「もしかして、帰ってきてからの動きに何かあるのかな…」

そんなふうに思うようになりました。

一緒に動きを確認してみると

ある日、訪問のタイミングがちょうどAさんの帰宅直後と重なりました。

私は、「いつも帰ってきたら、まず何してます?」と声をかけ、一緒に動きを確認してみることにしました。

するとAさんは、玄関に入るなり荷物を玄関横に置いてあった紙袋へまとめて入れ始めました。

財布、ハンカチ、買い物したもの、そして鍵。

「あ、ここに入れるんですね」

私がそう言うと、Aさんは自然に答えました。

「あとで片付けるから」

ただ、そのあとでが問題でした。

Aさんは、その紙袋を別の場所へ移動させる習慣があったのです。しかも、そのこと自体を覚えていない様子でした。

紙袋の中から出てきた鍵

数日後、再び「鍵がない」と連絡が入りました。

訪問して一緒に探していると、以前見たあの紙袋が部屋の端に置かれていました。中を確認すると、鍵が入っていたのです。

「あった…」

思わず声が出ました。

Aさんは驚いた顔をして、何度も袋の中を見ていました。

「ここに入れた覚えないわ…」

その後も、同じようなことが数回続きました。

そして毎回、鍵は移動させた紙袋や、その近くから見つかりました。

「また妄想」が見えなくしていたもの

今回の出来事で分かったのは、Aさんの訴えが完全な妄想ではなかったということです。

確かに、「盗まれた」という部分には認知の混乱がありました。けれど実際には、鍵の置き場所が変わっていたことも事実でした。

本人は移動させた記憶が曖昧になっている。だから、「誰かが触った」と感じる。

そこには、認知症による記憶の抜けと、実際の生活行動のズレが混ざっていました。娘さんは悪気があったわけではありません。

これまで何度も似たようなことがあり、そのたびに対応してきた疲れもあったと思います。

だからこそ、「また始まった」という反応になっていた。

しかしその見方が強くなることで、本人の訴えを十分に確認しない方向へ傾いていた部分もありました。

そしてそれは、私自身も同じでした。

「認知症だから」「物盗られ妄想だろう」

そう思った時点で、現実の行動パターンをきちんと見ようとしていなかったのかもしれません。

「症状」と決めつけないこと

認知症の方の訴えには、症状による認識のズレが含まれることがあります。

けれど、その中には現実の出来事が土台になっているケースも少なくありません。今回も、鍵が見当たらなくなるという現実があり、その理由を本人が説明できないことで、「誰かが盗った」という形になっていました。

もし最初から妄想として片付けていたら、Aさん自身も「どうせ信じてもらえない」と感じていたかもしれません。

この出来事以降、私は認知症の方の訴えを聞くとき、以前より少し立ち止まるようになりました。

まずは一度、生活の流れを見てみる。本人の動きを一緒に辿ってみる。そうした視点が、とても大切なのだと感じています。

あの日、Aさんが繰り返していた「鍵がないんです」という言葉。

それは単なる妄想ではなく、自分でも説明できない違和感だったのかもしれません。

認知症だから。そう決めつけることで、見えなくなる現実もある。そんなことを改めて考えさせられた出来事でした。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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