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『半年で4回の通帳紛失』窓口で出会った高齢男性…銀行員が気づいた“SOSのサイン”とは

  • 2026.4.20
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。くまえり銀行員です。
銀行窓口で勤務していると、「なぜこんなことで?」と思う出来事に日常的に出会います。
今回お話しするのは、一見すると“困ったお客様”に見えた、ある高齢男性のエピソードです。
けれどその出来事は、私自身の「銀行員としての視点」を大きく変えるものでした。

何度も通帳を再発行する男性

その男性が初めて来店されたのは、平日の午前中でした。
「通帳をなくしてしまってね。再発行をお願いできますか」
穏やかな口調で、身なりも整っています。手続き自体は珍しいものではありません。
紛失による再発行は、窓口では日常的に発生します。

しかし問題は、その“回数”でした。

・1か月後、再び通帳紛失
・さらに数週間後、また再発行依頼
・半年で4回目の手続き

正直に言えば、窓口側には緊張が走ります。
なぜなら銀行では、不正利用や詐欺の可能性を常に想定しなければならないからです。

銀行が「違和感」を見逃さない理由

銀行には、お客様を疑うためではなく「守るため」の確認ルールがあります。
特に通帳の再発行が続く場合、以下を慎重に確認します。

・第三者による不正引き出しや詐欺の可能性
・家族間トラブルや金銭管理問題
・判断能力の低下による誤操作

お金は生活そのものです。
一度トラブルが起きれば、取り戻せないケースも少なくありません。

そのため、私は少し踏み込んで質問をしました。
「最近、お困りのことはありませんか?」
すると男性は少し考え込み、こう答えました。

「……実はね、どこにしまったか思い出せなくなるんです」
その瞬間、窓口の空気が静かに変わりました。

クレームではなく「サイン」だった

男性は怒っていたわけでも、不正を隠していたわけでもありませんでした。
ただ、本当に“分からなくなっていた”のです。

話を聞くと、
・通帳を安全な場所に隠す
・後日、その場所を思い出せない
・「盗まれたかもしれない」と不安になる
この繰り返しでした。

さらに、同じ質問を短時間で何度も繰り返す様子も見られました。
私たちはそこで初めて、「認知症の初期症状」の可能性を意識しました。

銀行窓口は、医療機関ではありません。
診断もできません。

それでも、日常の変化に最初に気づく場所になることがあります。

銀行員が取った“ルールの先”の対応

私たちは上席と相談し、慎重に対応を進めました。

・家族への連絡を提案(本人同意のもと)
・キャッシュカード管理方法の見直し
・出金時の確認体制の強化

後日、来店されたご家族からこう言われました。
「最近様子がおかしいと思っていたんです。銀行さんが気づいてくれて助かりました」
その言葉に、私はハッとさせられました。

それまで私は、“手続きを正しく進めること”が仕事だと思っていました。
しかし本当は、「生活を守る最後の砦」である場面もあるのだと知ったのです。

読者の方へ|今すぐできる3つの備え

高齢化が進む今、これは特別な話ではありません。
もし家族や身近な人に次の変化が見られたら、注意が必要かもしれません。

・同じ物を何度もなくす
・金銭管理に急な不安を感じ始める
・手続き内容をすぐ忘れてしまう

早期にできる対策としておすすめなのは

・通帳や印鑑の保管場所を家族で共有する
・代理人制度や家族信託を検討する
・銀行へ事前相談しておく

銀行は「問題が起きてから行く場所」ではありません。
むしろ、起きる前に相談してほしい場所なのです。

あの日から、窓口の景色が変わった

あの男性は、今も時々ご家族と一緒に来店されます。
以前より安心した表情で、ゆっくり手続きをされています。
窓口で見えるのは、ほんの数分の出来事。

けれどその背後には、それぞれの人生があります。
一見すると理不尽に見える行動の裏側に、助けを求めるサインが隠れていることもあるのです。

それ以来私は、「違和感」をただのトラブルとして扱わないようになりました。
銀行窓口とは、お金を扱う場所である前に、

人の暮らしと向き合う場所なのかもしれません。


ライター:くまえり銀行員
金融機関の窓口業務に携わり、日々さまざまなお客様対応を経験。忙しい日常の中で起こりがちな銀行手続きの行き違いやトラブルを、窓口の内側から見た視点で、読者に寄り添いながら伝えています。「知らなかった」が「なるほど」に変わる瞬間を大切に執筆中。


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