1. トップ
  2. 看護師「無理しないでくださいね」→後日、患者が救急搬送。良かれと思った“普通のアドバイス”が“予想外の展開”になったワケ

看護師「無理しないでくださいね」→後日、患者が救急搬送。良かれと思った“普通のアドバイス”が“予想外の展開”になったワケ

  • 2026.4.18
undefined
出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

医療現場では、患者さんを気遣う言葉をかける場面が多くあります。

「無理しないでくださいね」も、そのひとつです。

しかしその言葉が相手にどう届くのかは、必ずしも私たちの意図通りとは限りません。

今回は配慮のつもりでかけた一言が、結果的に治療の中断につながってしまった出来事についてお話しします。

無理をしながら通院を続けていたAさん

Aさんはパーソナリティ障害の診断があり、定期的に外来通院をしていました。

感情の揺れが大きく、人間関係や日常生活でのストレスも強い方でしたが、それでも受診は欠かさず続けていました。

ある日の診察後、待合で声をかけると、Aさんは少し疲れた様子で言いました。

「正直、来るのしんどくて…」

「でも来ないとって思って、なんとか来てます」

その言葉に、無理をしている様子が伝わってきました。

私は自然な流れでこう返しました。

「そうだったんですね」

「しんどい時は、無理せずに過ごしてくださいね

よくある声かけでした。相手を気遣う、ごく自然な言葉のつもりでした。

Aさんは少しだけ頷いて、「はい」と答えました。そのときは、それ以上深く考えることはありませんでした。

突然途絶えた通院

それから数週間後。Aさんが受診に来ていないことに気がつきました。

「最近来られていないですね」

スタッフ間でも話題に上がりましたが、よくある間が空くケースだろうと捉えていました。

連絡を入れるべきか迷いながらも、様子を見ていたところ、ある日、連絡が入りました。

「Aさんが救急搬送されました」

一気に空気が変わりました。

状態は悪化しており、精神的にもかなり不安定な状況とのことでした。

「行かなくていいと言われた気がした」

入院後、1週間ほどで精神状態は落ち着きました。そんなある日、Aさんとゆっくりと話をする機会がありました。

「最近、来られてなかったですよね」

そう声をかけると、Aさんは少し間を置いてから話し始めました。

「…行かなくていいと思ってました」

その言葉に、胸がざわつきました。

「どうしてそう思ったんですか?」

Aさんは静かに答えました。

「この前、無理しなくていいって言われたじゃないですか」

私は言葉を失いました。Aさんは続けます。

「だから、行かなくていいんだって思って」「しんどいし、休んでもいいんだって」

その受け取り方は、私の意図とは全く違うものでした。

私は「負担を減らしていい」という意味で伝えたつもりでした。けれどAさんには、「通院しなくてもいい」という許可のように届いていたのです。

言葉の意図と受け取りのズレ

あのときのやり取りを思い返しました。

Aさんは、「しんどいけど来ている」と話していました。その背景には、「来ないといけない」という思いがあったはずです。

そこに対して私は、「無理しなくていい」と伝えました。

その一言が、Aさんの中では「行かなくていい」という意味に変わってしまったのです。

Aさんにとって通院は、気力を振り絞って続けていた行動でした。

その支えになっていた「来なければならない理由」を、結果的に崩してしまったのかもしれません。

支える言葉が、行動を止めてしまうこともある

「無理しないでください」

医療現場では当たり前のように使われる言葉です。けれど、その言葉がどのように届くかは、相手の状態や背景によって大きく変わります。

あの日、私は優しさのつもりで言葉をかけました。

けれど結果として、その言葉がAさんの通院を止めるきっかけになってしまいました。

支えるつもりの言葉が、行動を止めてしまうことがある。それは、これまであまり意識していなかった盲点でした。

その後、Aさんは治療を再開し、少しずつ状態を整えていきました。帰り際、Aさんはぽつりとこう言いました。

「ちゃんと来た方がよかったですよね」

私はすぐには答えられませんでした。

ただ、「無理せずに通院を続けられる方法を一緒に考えていきましょう」と伝えることしかできませんでした。

言葉は、私たちが思っている以上に大きな影響を持ちます。

特に、揺れやすい状態にある人にとっては、その一言が行動の指針になることもあります。

あの日の出来事以降、私は「無理しないでください」と言うとき、その言葉がどう受け取られるかを、より意識するようになりました。

支えるための言葉とは何か。その問いは、今も現場で考え続けているテーマのひとつです。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名】