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NHKドラマ10“圧倒的な映像美”だけじゃない「開始5分で惹きつけられた」「さすがすぎ」物語を“整える”女優の存在

  • 2026.4.11

NHKドラマ10『魯山人のかまど』は、1話放送開始直後から「開始5分で惹きつけられた」「古川琴音さん、さすがすぎる」といった声がSNS上で相次いでいる。食と美の巨人・北大路魯山人の晩年を描く本作は、その圧倒的な映像美だけでなく、若き記者・ヨネ子を演じる古川琴音の存在によって、より豊かな温度を獲得している。気難しい天才のそばで、一歩も引かずに向き合う彼女。その演技は、単なる“聞き手”にとどまらず、物語そのものを動かしている。

※以下本文には放送内容が含まれます。

“受ける”ことで物語を動かす

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ドラマ10『魯山人のかまど』3月31日放送(C)NHK

『魯山人のかまど』における古川琴音の魅力は、一言で言えば“受ける演技の精度”にある。

藤竜也が演じる魯山人は、あまりにも強烈な存在だ。傲慢で、偏屈で、しかし美と色に対してはどこまでも純粋。その圧に対して、ヨネ子という役は一歩間違えれば“振り回されるだけの人物”になりかねない。しかし古川は、決してその位置にとどまらない。
魯山人の言葉に戸惑い、反発し、時に呆れながらも、その奥にある本質を捉えた瞬間、ふっと表情が変わる。その変化があまりにも自然で、観ている側は“いま、何かを理解した”という感覚を共有することになる。

つまりヨネ子は、単なる登場人物ではなく、観客の視点を代弁する“鏡”として機能しているのだ。
この“観察する力”の高さこそが、古川琴音の強みである。相手の演技を受け取り、それをそのまま返すのではなく、一度自分のなかで咀嚼し、微細なニュアンスとして表出する。そのプロセスが、作品全体の解像度を引き上げている。

一歩も引かない軽やかさと、身体性

本作において、もうひとつ特筆すべきなのが“食べる”シーンの説得力だ。

『魯山人のかまど』は、食と美をテーマにした作品である以上、料理のシーンが単なる背景では成立しない。味や香り、温度といった“目に見えない情報”を、どう視覚化するかが問われる。
その中心にいるのが、ヨネ子を演じる古川琴音だ。

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ドラマ10『魯山人のかまど』3月31日放送(C)NHK

湯呑みを手に取り、じっと見つめる。料理の香りを感じるように、わずかに呼吸が変わる。そして一口味わった瞬間、ほんの少しだけ目の奥の光が変わる。その一連の動作に、誇張はない。むしろ驚くほど静かだ。しかし、その静けさに、確かな実感が宿っている。
言葉による説明はほとんど存在しない。それでも、彼女の表情と所作だけで“理解に至る過程”が伝わってくる。この身体性こそが、食を扱うドラマとしての説得力を支えている。

古川琴音の演技が際立つもうひとつの理由は、魯山人との距離の取り方にある。
ヨネ子は決して従順ではない。気難しい魯山人に対しても、必要以上に萎縮することなく、ときに率直に踏み込んでいく。その軽やかさが、作品に独特のリズムを生んでいる。

藤竜也が体現する魯山人は、重厚で、どこか近寄りがたい存在だ。その“重さ”に対して、ヨネ子はあくまでしなやかに、しかし確実に食らいついていく。この温度差が、ふたりの関係性に心地よい緊張をもたらしている。
重要なのは、その踏み込み方が決して無神経ではない点だ。ヨネ子は魯山人を、権威や異端としてではなく、ひとりの人間として見ている。そのまっすぐな視線が、結果として魯山人の内面に触れていく。

だからこそ、彼もまた彼女を拒絶しきれない。ふたりの関係は、師弟でもなく、対等な議論相手でもなく、どこか曖昧だ。しかしその曖昧さこそが、この物語に深みを与えている。

わずかなぬくもりを引き出す

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ドラマ10『魯山人のかまど』4月7日放送(C)NHK

『魯山人のかまど』は、孤独な天才の晩年を描いた物語である。同時に、それは“誰かと向き合うことで、ふたたび灯るもの”を描いた作品でもある。
世間が魯山人を“扱いづらい人物”として遠巻きにするなか、ヨネ子だけは違う。偏見を持たず、ただ目の前の人間を見つめる。その姿勢が、彼に残っていたわずかな温もりを引き出していく。

古川琴音の演技には、その“火を灯す力”がある。決して大きなアクションではない。むしろ、ほんのわずかな表情や間によって、相手の変化を引き出していく。その繊細さが、作品全体の温度を整えている。

映像の美しさや題材の重厚さが注目されがちな本作だが、その中心には確かに古川琴音がいる。彼女の存在があるからこそ、このドラマはただの伝記ではなく、いま、ここに生きる物語として立ち上がっているのだ。


ドラマ10『魯山人のかまど』毎週火曜よる10時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_