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初回放送から何度も見返してしまう…“観てよかった”最高の導入部分 歴史に残る“傑作ドラマ”を予感させた【新・火曜ドラマ】

  • 2026.4.11

永作博美主演の連続ドラマ『時すでにおスシ!?』は、子育てを終えた50歳の女性が新たな人生をスタートするために鮨アカデミーに通う物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。 

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火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』第1話(C)TBS

待山みなと(永作博美)は息子の渚(中沢元紀)を、一人で懸命に育ててきた。しかし、渚が新社会人となり実家から巣立ったことで、子育ての日々が終わり、自分の時間と向き合うこととなるが、何をしていいのかわからず、喪失感を抱えていた。
そんな時に友人の磯田泉美(有働由美子)から、3か月で鮨職人になれるという鮨アカデミーに一緒に参加してみないかと誘われる。
入学初日。泉美が転んで怪我をして来られなくなったため、みなとは一人で鮨アカデミーの門を叩く。
彼女のクラスを教えることになった講師・大江戸海弥(松山ケンイチ)は、鋭い眼光で生徒たちを睨みつける堅物で、厳しい口調で生徒たちを指導していくため、みなとは圧倒される。

火曜ドラマで展開される50歳の女性の物語

本作が放送されている火曜ドラマ(TBS系火曜夜10時枠)は『逃げるは恥だが役に立つ』や『じゃあ、あんたが作ってみろよ』といった、漫画を原作とした若者向けラブコメのイメージが強いドラマ枠だ。
そのため、『時すでにおスシ!?』が、50歳の女性を主人公にしたオリジナルドラマだったと知った時は、とても驚いた。
本作の脚本を担当する兵藤るりは、新進気鋭の脚本家で2025年に『マイダイアリー』で、第43回向田邦子賞を受賞している。20代の若者の内面を描いた繊細な会話劇を得意としていた兵藤だが、本作は、大人が主人公のドラマだったため、どのような作品になるのか気になっていたが、みなとが抱える子育てが終わった母親の葛藤がしっかりと描かれており、とても丁寧に物語を積み重ねていると感じた。

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火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』第1話(C)TBS

また、第1話でとても魅力的だと感じたのが、鮨アカデミーで教える講師の大江戸だ。
大江戸は厳しい口調で、職人としてやらなければならないことを的確に伝えるという指導をおこなっている。
しかし一方で、寡黙で何を考えているのかわからないところがあるため、どこか他人に対して心を閉ざしているようにも見え、周囲も萎縮している。
このあたりは松山ケンイチの演技が絶妙で、悪い人ではないのだろうが、どこか偏屈で近寄りがたい中年男性を好演している。

そして、一番引き込まれたのが、待山みなとを演じる永作博美の演技だ。子育てが終わって喪失感を感じている50歳の女性の心情を、彼女はとても丁寧に演じている。
アイドルグループ・ribbonの時代から筆者は永作の活躍を観てきたが、彼女はとても不思議な女優で、どこにでもいそうな平凡な女性を、少し影のある健気な笑顔で魅力的な存在として演じることができる。
様々なドラマや映画に出演してきた永作は、今や日本を代表する名女優の一人だと言って間違いないだろう。だが、近年は出演作が少ないため、現役の人気女優でありながら半分隠居しているようにも見える。おそらく今の永作は、自分が本当にやりたい作品にしか出演していないのだと思うのだが、逆に言うと永作が本作に出演すると決めたということは、それだけ魅力的な企画だと思ったのだろう。
だからこそ、素晴らしい作品になるのではないかと放送を楽しみにしていたのだが、第1話を観て、その予感は正しかったと思った。

永作博美と松山ケンイチのすばらしい芝居

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火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』第1話(C)TBS

第1話終盤、みなとが働くスーパーに大江戸が訪ねてくる。彼女が鮨アカデミーの退学を希望していると事務局から知らされた大江戸は、その理由を尋ねる。
みなとは、息子が一人立ちした喪失感を埋めたくて、勢いで何も考えずに入学してしまったが、クラスメイトや大江戸の姿をみて、そんな気持ちで来る場所ではなかったと語る。
その時、自転車に乗った少年が目の前を通り過ぎ、彼のリュックからシューズの片方が転げ落ちる。すぐさま、みなとはシューズを手に取って走り出すのだが、大江戸も後を追いかけ、疲れて動けなくなったみなとから、リレーのバトンのようにシューズを受け取り、少年の元に走る。
これまで淡々と進行していた物語が二人が走りだしたことで、大きく動きだしたような高揚感があった。一緒に走った後、夕焼けを見ながらみなとは母親として生きてきた自分の思い出と、現在の心情を語るのだが、その話を聞いた大江戸は、みなとが料理を作る時の手を褒め「何千、何万回と相手を心から思って料理を作ってきた。そんな手に見えました」と語り、彼女を引き止めようとする。
決して、派手な見せ場ではないが、永作博美と松山ケンイチの芝居があまりにも素晴らしかったため、この終盤のやりとりは何度も観返してしまった。
第1話はまだ導入部で、鮨アカデミーを舞台にした人間ドラマが本格的に動き出すのは次回以降となりそうだが、この二人の芝居が観られただけでも、“本作を観てよかった”と感じた。
こんな胸を打つ芝居が毎週観られるのであれば、本作は歴史に残る傑作ドラマとなるのではないかと思う。


TBS系 火曜ドラマ『時すでにおスシ!?』毎週火曜よる10:00〜

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。