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NHK“60分×2話”の新ドラマ「思わず叫んだ」「なんと素敵な組み合わせ」人気作家“今年注目の俳優”で実写化に期待

  • 2026.5.24

小説家・エッセイストの燃え殻による人気エッセイ『この味もまたいつか恋しくなる』が、高橋一生主演・60分×2話で、ドラマ化される。すでにSNS上では「知らせに思わず叫んだ」「なんと素敵な組み合わせ」と話題に。料理や酒が記憶を呼び起こす、切なくて温かい“味の物語”が放送されるのは、2026年秋だ。

舌が理解してしまう残酷さ

決して“ただの思い出話”では終わらない。横浜で食べたシーフードドリア。熱々のソースを、冷たい白ワインの酸味で流し込む瞬間のこと。はたまたゴールデン街の、頼りないほど薄いハイボール。夜勤の終わりに決まって見かけたのに、ある日を境に消えてしまった牛丼屋の店員。
そういう記憶は、過去を美しく飾り立てるためにあるんじゃない。あの日々はもう、どこにもないという寂しくも確かな現実に、心よりも舌が先に気づいてしまう残酷さ。

これらの味の記憶は、もう戻れない、失くしてしまった時間へつながる片道切符だ。けれど、だからといって当時に戻りたいわけじゃない。“あの人”に会いたいわけでもない。もう二度と会えないからこそ、恋しいのだ。
エッセイスト・燃え殻が描きだす切なさは、日常のなかに見え隠れする喪失に、そっと重なる。ドラマティックでない代わりに、私たちは自分の記憶の引き出しを、勝手に、ガラガラと開けさせられてしまう。この作品の一番の強さは、そこにある。

ドラマになっても、きっと“食”が主役の顔をしながら、本当に描かれるのは“ついに言いそびれてしまった感情”のはずだ。料理や酒の味は、言葉の代わりにずっと残る。ときには、言葉よりも正直に。その率直さは、傷口を刺激することもあれば、頼りない救いになることもある。

息苦しい、生活のリアル

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高橋一生(C)SANKEI

今回の企画でもっとも期待が集まるのは、やはり高橋一生が演じる物書きの“僕”だろう。
仕事に行き詰まることもある。くっついたり離れたりの彼女との関係は微妙。うっすら苦手な編集者とも折り合いをつけていかなければならない。この設定だけで、息が詰まりそうな生活のリアルが見えてくる。

高橋一生の武器は、感情の大きさではなく、温度差だ。視線の動かし方、立ち姿、声の抑揚。ほんの少しの間に“言えなかったこと”を滲ませる。エッセイ原作で、主人公が物書きという設定はつまり、モノローグが大事になりそうな作品に、この俳優を据えるのはかなり強い。

本作ですくい上げられるのは、日常に埋もれた、感情の沈殿物みたいなもの。高橋一生が得意なのも、まさにその沈殿物を、騒がずに掬い上げて見せる芝居だ。料理を口にした瞬間、視線がふっと遠くへ行く。その一瞬だけで、一本の短編が始まってしまう。そんな絵が、もう想像できる。

駅からの帰り道に、ふと思い出すような

脚本を手がけるのは坪田文。NHKの作品などで、街の匂いや人の感情のひだを丁寧に紡いできた彼女が、燃え殻の文章に宿る情緒をどう翻訳するのか。

本来ならエッセイは、読み手のなかに私的な光景を立ち上げることで成立する文芸だと思う。だからこそドラマ化には、その“読み手の余白”を奪ってしまわないための工夫が要る。
その点、60分×2話という構成は潔い。言葉や表現を詰め込みすぎず、心地よい名残を残してくれるはずだ。

原作のテーマは、味にまつわる8つのストーリー。2話の枠にすべてを盛り込むよりも、いくつかの物語を徹底的に研ぎ澄ますほうが、この作品には似合う気がしてならない。味の記憶とは、数が多ければ強いというものではないから。むしろ、たったひとつの味が、人生のある季節をまるごと連れてきてしまう。

決して派手なエンタメではなく、駅からの帰り道にふと思い出すようなドラマ。秋の夜長、冷めかけた湯気のような淡い気配が、明日を生きる自分をほんの少し変えてくれるようなドラマになるはず。燃え殻の言葉と、高橋一生の持つ静けさが交わるとき、そこに生まれる変化は静かであっても、決して揺らぐことはない。


出典:ドラマ『この味もまたいつか恋しくなる』NHK公式サイトより

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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