1. トップ
  2. 「右に出る者なし」「やっぱり似合う」視聴者が勝手に警戒してしまうほど“怪しい夫”役がハマる俳優【水曜ドラマ】

「右に出る者なし」「やっぱり似合う」視聴者が勝手に警戒してしまうほど“怪しい夫”役がハマる俳優【水曜ドラマ】

  • 2026.5.27

竹財輝之助が夫役で出てくると、つい身構えてしまう視聴者も多いのではないか。SNS上でも「右に出る者なし」「やっぱり似合う」と話題のモラハラ、不倫、無関心エトセトラ……愛憎劇の“クズ夫”を成立させてきた歴史が、こちらの警戒心を勝手に発動させてしまうからだ。しかし『鬼女の棲む家』で演じている星野透は、分かりやすいヒール役ではない。むしろ“引き算”の芝居で、家庭崩壊サスペンスの熱量を上げている。怪しい夫は、いつ豹変するのだろうか? その問い自体が、この作品の罠なのかもしれない。

※以下本文には放送内容が含まれます。

なぜ“クズ夫”役が似合うのか?

端正なルックス、整った物腰、穏やかな声。いわゆる“感じのいい人”の条件を、竹財は最初から満たしている。だからこそ、ほんの僅かな違和感が効く。優しい微笑みのまま、目だけが笑っていない。声のトーンは柔らかいのに、言葉だけが冷たい。理詰めで相手の逃げ道を塞ぎ、支配を“正しさ”に見せかける……なぜか現代的なモラハラの解像度が、妙に高いのである。

その演技が評価されるのは、竹財が“クズ男”をただの記号にしないからだ。最初は魅力的で会話も上手いシゴデキ男に見える。その安心感が崩れた瞬間、恐怖が倍増する仕組みだ。

この転換の巧さが、今回の『鬼女の棲む家』では別の形に変換されている。透は、あからさまな悪人として登場しない。だからこそ、こちらの過去視聴経験が勝手に働いてしまう。この夫が、ただの善人で終わるわけがない……と。

いわば竹財の存在そのものが、メタ的サスペンスの装置になっているのだ。この状態を彼自身が分かっていて、わざと利用しているようにも見えるのがおもしろい。

ただの気弱夫か? それとも悪役か?

undefined
竹財輝之助 (C)SANKEI

『鬼女の棲む家』の透は、一見すると“巻き込まれ夫”だ。息子の不適切動画炎上で生活が崩れ、職も信用も揺らぐ。家庭のなかで何が起きているか分からないまま、振り回されているように見える。

しかし、物語が進むほど、透は単なる被害者では終わらない輪郭を帯びていく。

たとえば、彼が高級ラウンジのホステスに入れ込み、家の財産をつぎ込み、ついには解雇される……という安易で典型的な転落は、かなり露骨に怪しい。普通ならここで“やっぱりクズ夫だった”と確定させてもいいところだが、竹財の芝居はそこに着地させない。

情けない姿を見せたとしても、その情けなさが反省なのか演技なのか、どこか判別しづらい。涙や謝罪の手触りに、奇妙な空白が残る。その空白こそが“引き算”だ。

竹財は感情を盛らない。怒鳴らないし、取り乱しもしない。むしろ諦観に近い静けさで立っている。その結果、透は良い人にも黒幕にも見えてしまう。被害者と加害者の境目が曖昧になる家庭崩壊サスペンスにおいて、その曖昧さを一身に引き受ける存在が透だと言える。

さらに厄介なのは、透が“家庭”という舞台で妙に現実的である点だ。家庭崩壊の局面で、感情的に爆発する人もいれば、現実逃避する人もいる。透は後者に近い。感情が見えない人間は、“何もできないふり”をしたまま人を追い詰めることがある。竹財は、その“何もしない圧”を非常に上手く出しているように見える。

夫婦の温度差が描き出す、家庭の歪み

本作で一段と怖いのは、視聴者が登場人物たちの豹変を“待ってしまう”構造にある。

透を疑うのは簡単だ。なぜなら、竹財が演じているから。これまでの役柄の記憶が、勝手に予習になっているからである。つまり豹変はすでに、視聴者側の脳内で起こっている。

石田ひかり演じる妻の明香里が“動”の怪演で暴走していくほど、透の“静”の演技が、いわば増幅装置になる。明香里が感情を噴出させるたび、透の反応の薄さが不気味に見える。夫婦の温度差が、家庭の歪みを可視化してしまう。

最終章にかけて囁かれている“ヒイラギ=透説”は、確かに魅力的だ。もし透が裏で糸を引いていたならば、これまでの無力さや曖昧さは一瞬で反転し、“すべてを裏で操っていた男”になる。竹財輝之助の真骨頂がそこにあるのも事実だ。

穏やかな声のまま、冷酷な事実を突きつける。目だけが笑わないまま、相手に社会的制裁を下す。

ただし、透が黒幕でなくても本作に漂う恐怖は成立する。むしろ“黒幕ではない”場合こそ怖い可能性があるのだ。なぜなら透は、“何もしない”ことで家庭を崩壊させるタイプにも見えるから。寄り添わない、向き合わない、説明しない。それだけで家庭はいとも簡単に壊れる。

結局『鬼女の棲む家』の透は、クズ夫の系譜を裏切っている。悪として確定させるのではなく、確定しないままドラマを支配しているからだ。怪しい夫はいつ豹変するか……その答えよりも、私たちが彼の豹変を待ってしまうことこそが、このドラマの一番の不穏なのかもしれない。


出典:中京テレビ・日本テレビ系 水曜プラチナイト『鬼女の棲む家』公式HP

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

の記事をもっとみる