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朝ドラのスピンオフに隠された“粋な演出”「思い出して泣いてしまう」見続けた視聴者だからこそ気付いた“聞き覚えある”セリフ

  • 2026.4.11
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『虎に翼』スピンオフドラマ『山田轟法律事務所』(C)NHK

3月20日(金)に放送された 『虎に翼』のスピンオフドラマ『山田轟法律事務所』。物語の後半は、タイトルの通り山田よね(土居志央梨)と轟太一(戸塚純貴)の活躍が描かれた。

本編のファンにはたまらない演出も散りばめられ、改めて寅子(伊藤沙莉)とは異なる『虎に翼』があることを感じられるスピンオフドラマだった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

本編のセリフと対になる「行け、轟」

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『虎に翼』スピンオフドラマ『山田轟法律事務所』(C)NHK

壁に日本国憲法第14条「法の下の平等」を書き記したあと、よねは上野で暮らす子どもたちに声をかけ、世話をすることに。よねが今将来のためにできることを考えた結果だろう。

そんな折、復員したものの親友・花岡悟(岩田剛典)が亡くなったことを知り、ヤケクソになっている轟と再会。よねと轟は、弁護士事務所を設立する。設立するまでの過程は本編でも描かれているが、スピンオフドラマでは寅子との再会前に2人が挑んだある事件が描かれていた。

それはある窃盗事件に関するもの。被告人は長期間の勾留の後、自白を強要されて、起訴されていた。この被告人とは、事務所設立前に家族全員の苗字変更の依頼をよねに持ちかけた被差別部落出身の人物だった。被告人の出自ゆえに、長期間の拘禁をおこなったのであれば、法の下の平等と基本的人権に反する。しかし、憲法で保障されているにもかかわらず、一審と二審では強要された自白が証拠として認定され、有罪のまま。2人は上告をおこない、轟は最高裁判所の大法廷に立つことになった。

本編で描かれた尊属殺重罰規定の裁判よりも前に、2人は憲法を盾に戦っていたのだ。緊張した面持ちの轟に対し、よねは「行け、轟」と呟く。聞き覚えのある人もいるだろう。これは、第126話で尊属殺重罰規程に関する裁判で弁論するよねに向けて轟が呟いた「行け、山田」と対になるセリフだ。

作中の年数のテロップを基にすれば、窃盗事件の裁判やり直しから、尊属殺重罰規定の違憲訴訟まで、20年以上の歳月が流れている。よねと轟は長年にわたり憲法を道標に、互いを鼓舞しながら戦っていたのだ。

よねの前を歩く5人の女性

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『虎に翼』スピンオフドラマ『山田轟法律事務所』(C)NHK

スピンオフのラストに描かれたのは、司法試験会場に向かうよねの後ろ姿だ。学生時代の受験と変わらず、スーツで歩くよねの前に5人の女性がいる。よねはその5人の女性を目に留めた後、決意を新たにしたような表情で歩き始める。よねは5人の女性の姿に、明律大学女子部法科でともに学んだ仲間を重ねたのではないだろうか。

よねの同志である寅子、涼子(桜井ユキ)、梅子(平岩紙)、ヒャンスク(ハ・ヨンス)が挑む予定だった昭和13年の高等試験司法科試験を、実際に受験できたのは寅子とよねだけだ。涼子は家のための結婚、梅子は夫の不倫の末に離婚をつきつけられたことによる家出、ヒャンスクは治安維持法違反の容疑で兄と共に特高警察に追われて朝鮮へ帰国したことで、受験ができなかった。法の下の平等がなかった戦前、5人揃っての受験は、横たわるさまざまな差別によって実現しなかった。よねが見た5人の女性の後ろ姿は、あの日どうしても叶えられなかった幻の光景でもあるのだ。

戦争を乗り越え、さまざまな地獄を目の当たりにしながらも、自分を曲げずに法の下の平等を目標に、前へ前へと進んできたよね。同志たちとの日々を彷彿とさせる5人の後ろ姿は、世界が少しでも前に進んだ証拠として、よねの目に映ったのだろう。

また、昭和13年の高等試験で、よねは筆記では合格したものの、口述試験で不合格となっている。理由は男装をトンチキだと揶揄されたことに対して反論したから。自分を曲げずに挑んだ結果、司法の場に受け入れられなかった経験を持っている。そんなよねにとって、日本が確実に変化している証拠になるような、5人の女性の姿は希望になったはず。ありのままの自分で司法の世界で活躍する決意を新たに、よねはあの頃の仲間との日々を胸に歩き始める。

SNSでは、「よねさんと轟はエールを送りあってたんだね」「女子部5人を思い出して泣いてしまう」など、粋な演出に心を打たれる人が多かったようだ。

『虎に翼』とは、強い力を持つ者(虎)にさらに強い力(翼)が加わり、手が付けられないほど強くなることのたとえのことわざだ。翼はさまざまなもののたとえだろうが、スピンオフドラマを見て、日本国憲法もその一つではないかと感じた。憲法は、生まれたままの自分と生きたい人生を保障する大きな力だ。よねも寅子と同じように憲法があったから、前に進むことができた。よねの人生は、紛れもないもうひとつの『虎に翼』なのだ。


連続テレビ小説『虎に翼』スピンオフドラマ『山田轟法律事務所』3月20日よる9時30分~
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202