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一度聞いたら忘れられない“強烈”なタイトル…ドラマや映画に欠かせない俳優の新たな“代表作”を予感させた【春ドラマ】

  • 2026.4.26

春クールのドラマが次々と始まっているが、一度聞いたら忘れられない強烈なタイトルだと思ったのが『夫婦別姓刑事』だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

四方田誠(佐藤二朗)と鈴木明日香(橋本愛)は、東京都の中野区にある沼袋警察署の刑事課に所属する刑事。二人はバディを組んでいたが、実は夫婦だった。
だが、結婚したことを上司の井伏幸吉(坂東彌十郎)に報告すると、警察には夫婦が同じ部署に所属してはいけないという暗黙のルールがあるため、どちらかが刑事課から異動することになると言われる。
そして、定年までの残された時間を穏やかに過ごしたいという井伏の意向で、二人は結婚していることを隠していた。

俳優の魅力を引き出す秋元康の企画力

本作の企画・原案を担当するのは秋元康。AKB48や乃木坂46といったグループアイドルのプロデューサーとして知られている秋元だが、テレビドラマも多数手掛けており、考察ブームを決定的なものとしたミステリードラマ『あなたの番です』も彼の企画である。
他にもAKB48のアイドルたちがヤンキー高校生を演じたアイドルドラマ『マジすか学園』シリーズも手掛けている。
本作はAKB48のメンバーが不良役を演じ、荒れ果てた高校で不良同士が延々と戦い続ける姿を描いたドラマ。 アイドルグループのセンター争いを不良同士の戦いと重ねて描いた本作は、ドラマでありながらドキュメンタリーを観ているような生々しさが存在した。何より見事だったのが、前田敦子たちアイドルの個性と演じる役柄の性格を極限まで近づけたことで、その結果、演技経験が少なかったアイドルたちのポテンシャルを引き出すことに成功していた。
つまり、出演俳優の魅力を引き出すシチュエーションこそが、秋元康の企画の魅力だと言えるのだが、それは『夫婦別姓刑事』にも当てはまる。

コメディとシリアスを往復する物語と、佐藤二朗の怪演

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佐藤二朗 (C)SANKEI

まず、本作で何より目を引くのが『夫婦別姓刑事』というタイトルだろう。
結婚後も、それぞれが結婚前の姓を名乗ることができる選択的夫婦別姓制度の導入をめぐって日本では議論が起こっている。
そのためタイトルを見た時は、制度の是非について問う社会派ドラマかと思ったが、第1話の段階では、結婚を隠すために職場で二人が違う姓を用いているというシチュエーション以上の意味はないように見える。

おそらく秋元たち作り手がやりたかったのは、結婚していることを隠して生活している夫婦の話だったのだろう。
『夫婦別姓刑事』の設定を知って連想したのは、教師と女子高生が結婚して同棲しているのを隠して学園生活を送る連続ドラマ『おくさまは18歳』だ。
学園ドラマ以外でも、夫婦であることを隠して同棲するドラマは多数存在し、ジャンルとして定着している。この設定を警察署で働く刑事の夫婦の物語に落とし込んだのが本作の魅力だ。
こういった夫婦の話はラブコメが多いため、本作もコメディ色の強い作品となるのではないかと思った。実際、署内で二人が家に置くベッドの大きさの話をしているところに同僚がやってきて咄嗟にごまかす場面はラブコメでは定番のシチュエーションで、思わず笑ってしまった。

だが、四方田誠が再婚で、前妻の皐月(清水美砂)が何者かによって命を奪われ、その事件が未解決だとわかってくると、物語は少しずつシリアスなトーンに変わっていく。

四方田は娘の音花(月島琉衣)の中学時代の担任教師だった喜多村拓春(竹原ピストル)と、ある事件の捜査をきっかけに再会し、事情聴取をすることになるのだが、彼が知るはずのない四方田の妻の事件の時の情報を知っていたことから、事件の真相を知っているのではないかと感じ、激しい怒りを露わにする。

結局、事件のことは何もわからなかったが、喜多村が課長の小寺園みちる(斉藤由貴)に見送られてエレベーターに乗り、扉が閉まる際に、喜多村は不気味な表情になり、事件当時の回想が挟まるため、何か関係があるのではないかと勘繰ってしまう。
だが、課長の小寺園も不穏な表情だったため、彼女の回想である可能性も否定できない。

このあたりは考察系ミステリードラマとしては面白い引きで、今後の展開が楽しみだが、それ以上にインパクトが残ったのは、四方田を演じる佐藤二朗の演技の落差だ。

佐藤二朗は今のドラマや映画に欠かせない名バイプレイヤーとして知られているが、おそらく多くの視聴者が連想するのは『今日から俺は!!』等の福田雄一監督作品で見せるコメディの演技ではないかと思う。

一つの台詞を言った後、小さな声でぼそぼそと補足することで生まれる独自のセリフ回しが佐藤の魅力で、脱力した笑いを生み出す面白いおじさんというのが彼のイメージだが、昨年は映画『爆弾』で演じた不気味な犯罪者の役が、大きな話題となった。
つまり、コメディもシリアスも上手い俳優なのだが、今回の『夫婦別姓刑事』では、普段はコメディの演技をしている佐藤が突発的に見せるシリアスな芝居に凄みがあるため、俳優・佐藤二朗のポテンシャルがこれまで以上に発揮されている役だと言える。

物語は結婚を隠している夫婦のラブコメと考察系ミステリーの両輪で進んで行くが、コメディとシリアスの振れ幅が大きい佐藤の芝居との相性はばっちりなので、新たな代表作となるのではないかと楽しみである。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。