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溺れた子供の命を救う「人工呼吸」が減っている

  • 2026.3.22
溺れた子供への人工呼吸が減ってきている / Credit:Canva

子供たちにとって海や川で遊ぶことは楽しいことです。

しかし時には、ほんの一瞬の油断が深刻な事故につながることもあります。

親や周囲の大人たちは、どんなことを心得ておくべきでしょうか。

岡山大学の研究グループは、溺れた子どもの心停止に対して市民がどのような蘇生を行ってきたのかを、日本全国のデータを使って調べました。

その結果、本来重要とされる人工呼吸を含む心肺蘇生が年々減り、代わって胸骨圧迫のみの蘇生が増えていることが分かりました。

さらに、胸骨圧迫のみの蘇生は、人工呼吸を含む蘇生に比べて、30日以内の死亡や脳の状態が悪くなることと関連していました。

本研究は2026年3月10日、学術誌『Resuscitation』に掲載されました。

目次

  • 溺れた子供への「人工呼吸」が減ってきている
  • 「息を吹き込むこと」を躊躇すると、子どもの死亡リスクとその後の状態が悪くなる

溺れた子供への「人工呼吸」が減ってきている

心停止に対する心肺蘇生には、大きく分けて2つのやり方があります。

ひとつは、胸骨圧迫に人工呼吸を組み合わせる方法です。

もうひとつは、人工呼吸を行わず、胸骨圧迫だけを続ける方法です。

近年は一般向けの救命教育で、主に成人の心停止を想定して、実施しやすい「胸骨圧迫のみの蘇生」が広く普及してきました。

さらに新型コロナウイルス感染症の流行以降は、口をつける人工呼吸に抵抗を感じる人も増えたと考えられています。

ただし、ここで見落としてはいけないのが、心停止に至る原因の違いです。

成人では心臓のトラブルがきっかけになることが多い一方で、溺水ではまず呼吸がうまくできなくなり、低酸素状態が進んだ結果として心停止に至ります。

つまり溺水では、血液を回すことだけでなく、酸素を体に取り込ませることがとても重要になります。

そのため、子どもの溺水では人工呼吸を含む蘇生が特に大切だと考えられてきました。

そこで研究チームは、総務省消防庁が管理する「All-Japan Utstein Registry」を用いて、2012年から2023年までに発生した17歳以下の小児の溺水による院外心停止を調べました。

このデータベースは、救急車が到着する前に市民が心肺蘇生を行ったか、AEDが使われたか、心拍が戻ったか、その後に生存したかといった情報を、全国で統一した形で記録しているものです。

研究では、そのうち市民による蘇生が行われた740例を対象に、人工呼吸を含む蘇生と胸骨圧迫のみの蘇生を比べました。

主に見たのは、30日以内の死亡、病院前に心拍が再開しなかったかどうか、そして30日後の神経学的転帰(意識や脳の働きがどの程度回復しているか)です。

その結果、740例のうち、人工呼吸を含む蘇生は41.6%、胸骨圧迫のみの蘇生は58.4%だと分かりました。

また、年ごとの推移を見ると、人工呼吸を含む蘇生は2012年ごろには約45%でしたが、2020年以降は約30%まで低下していました。

人工呼吸を含む蘇生の割合が年々減っているのです。

さらに、胸骨圧迫のみの蘇生は、人工呼吸を含む蘇生に比べて、30日以内の死亡や脳の状態が悪くなることと関連していました。

では、なぜこのような結果になったのでしょうか。詳細を見てみましょう。

「息を吹き込むこと」を躊躇すると、子どもの死亡リスクとその後の状態が悪くなる

研究の詳しい解析では、胸骨圧迫のみの蘇生は、人工呼吸を含む蘇生に比べて30日以内の死亡リスクが高く、調整リスク比(他の条件の違いをならして比較したときのリスクの比)は1.38でした。

また、病院に着く前に心拍が戻らないことや、神経学的転帰が悪いこととも関連していました。

つまり、単に助かるかどうかだけでなく、その後の脳の状態まで含めて差が出ていたのです。

さらに注目されたのが、心停止が目撃されていない症例です。

こうしたケースでは、溺れてから発見されるまでに時間がたっている可能性があり、その分、低酸素がより進んでいると考えられます。

研究では、目撃されていない症例に限って見ても、胸骨圧迫のみの蘇生は転帰不良とより強く関連していました。

これは、現場を直接見ていなかったとしても、発見した時点で人工呼吸を含む蘇生を行う重要性を示しています。

加えて、年齢ごとの分析によると、特に1~7歳で、胸骨圧迫のみの蘇生におけるリスク上昇がはっきり見られました。

もちろん、この研究にも限界はあります。

たとえば、どこで溺れたのか、どのくらいの時間水中にいたのか、水温はどうだったのかといった、溺水の結果に影響しそうな細かい状況までは記録されていません。

また、市民が行った蘇生の質そのものも詳しくは分かりません。

それでも、日本全国の大規模なデータから、子どもの溺水では人工呼吸を含む蘇生が重要であることが改めて示された意義は大きいと言えます。

溺れた子どもを救う場面では、「押すだけ」では足りないことがあります。

命をつなぐには、周囲の大人たちの「ひと息」が必要なのかもしれません。

参考文献

溺れた子どもを救う“ひと息”~市民による蘇生で人工呼吸が減少している現状とその影響~
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1511.html

元論文

Decline in rescue breathing and its impact on outcomes in pediatric out-of-hospital cardiac arrest due to drowning: a nationwide study, 2012–2023
https://doi.org/10.1016/j.resuscitation.2026.111049

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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