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フェイクニュースの時代に戻ってきた伝説のコンテンツ…「放送禁止」を大勢が信じ、翻弄された理由とは?

  • 2026.3.20

生成AIを使った巧妙なフェイクニュースを日常的に目にするようになり、情報の正しさを判別するメディアリテラシーの能力が個人に求められる時代となった。そんなフェイク混じりの怪しい情報を、エンタテインメントとして早くから扱ってきたのがフェイクドキュメンタリーやモキュメンタリーと呼ばれるジャンルだ。ドキュメンタリー同様の臨場感と、フィクションならではの驚愕の展開が待ち受けている。

【写真を見る】一夫多妻制の生活を送る男女4人に迫った『放送禁止 ぼくの3人の妻』

2003年4月1日。その番組は始まった…

米国では魔女伝説を題材にした『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)がメガヒットしたが、この作品で使われたフェイクドキュメンタリーの手法を日本で広めたのが、2003年からフジテレビで始まった深夜番組「放送禁止」だ。初回は4月1日(エイプリルフール)の26時05分から放送され、バブル後の廃ビルで次々と起きる失踪事件の謎をカメラは追っていた。

ある廃ビルで起こった失踪事件に迫る(「第1話 放送禁止1」) [c]2006 EAST/フジテレビジョン
ある廃ビルで起こった失踪事件に迫る(「第1話 放送禁止1」) [c]2006 EAST/フジテレビジョン

番組の噂を耳にし、筆者がリアルタイムで視聴を始めたのは同年6月に放送された「第2話 放送禁止2ある呪われた大家族」からだ。当時大人気だった大家族ドキュメンタリーを題材に、家族間の深い闇を描いた禍々しい内容だった。初めて遭遇した未知なる映像作品に背筋がざわつき、以降は不定期に放送される「放送禁止」という四文字を、新聞のラテ欄で探し求めるようになった。

リアルなドキュメンタリーと勘違いした視聴者たち

「放送禁止」は、その後もストーカー、隣人トラブル、自殺幇助…といった地上波テレビで扱うには危険なテーマを取り上げ続け、全7本がオンエアされた。番組の終わりに「これはフィクションです」と毎回クレジットされるのだが、あまりのインパクトある内容に、リアルなドキュメンタリーだと勘違いする視聴者が続出したと言われている。

フェイクドキュメンタリーやメディアリテラシーという言葉が一般的に知られるようになるのは、森達也監督の「ドキュメンタリーは嘘をつく」(テレビ東京系)が2006年に放送されて以降だろう。「放送禁止」の過激な内容に戸惑う視聴者がいるのも当然だった。

呪われた大家族の真実とは?(「第2話 放送禁止2ある呪われた大家族」) [c]2006 EAST/フジテレビジョン
呪われた大家族の真実とは?(「第2話 放送禁止2ある呪われた大家族」) [c]2006 EAST/フジテレビジョン

ドキュメンタリー系バラエティ番組「奇跡体験!アンビリバボー」(フジテレビ系)の構成・ディレクターも務めた長江俊和監督による「放送禁止」は、テレビの常識から抜けだしただけでなく、やがてテレビの枠そのものからも抜けだすことになる。『放送禁止 劇場版 密着68日復讐執行人』(08)を皮切りに、『ニッポンの大家族 Saiko! The Large family 放送禁止 劇場版』(09)、『放送禁止 洗脳 邪悪なる鉄のイメージ』(14)が公開。深夜でも放送できない、よりダークサイドに踏み込んだ劇場版だった。

フリージャーナリストがストーカーに怯える女性に取材する(「第3話 放送禁止3ストーカー地獄編」) [c]2006 EAST/フジテレビジョン
フリージャーナリストがストーカーに怯える女性に取材する(「第3話 放送禁止3ストーカー地獄編」) [c]2006 EAST/フジテレビジョン

きれいごと発言の真意まで見抜けるか

そして、12年ぶりとなる劇場版『放送禁止 ぼくの3人の妻』が公開された。一夫一妻しか認められていない日本で、一夫多妻制を実践している4人の男女の生活をカメラは映しだしている。

【写真を見る】一夫多妻制の生活を送る男女4人に迫った『放送禁止 ぼくの3人の妻』 [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会
【写真を見る】一夫多妻制の生活を送る男女4人に迫った『放送禁止 ぼくの3人の妻』 [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会

これまでテレビ版でも劇場版でも「放送禁止」は、大家族=愛情いっぱいの親子関係という紋切り的な描写に対する欺瞞性をあぶりだしてきたが、新作『ぼくの3人の妻』は改めて家族の在り方を俎上にしている。夫婦別姓、少子高齢化など家族にまつわる多くの問題が、いまの日本にはある。社会の闇を映しだしてきた「放送禁止」ならではのテーマだろう。

ルーティン制で性生活も共有していることを明かす(『放送禁止 ぼくの3人の妻』) [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会
ルーティン制で性生活も共有していることを明かす(『放送禁止 ぼくの3人の妻』) [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会

魅力的な3人の美女たちとの共同生活を男性webデザイナーは満喫していたが、4人が暮らす瀟洒な一軒家にはなぜか開かずの間があり、男性は夜な夜な助けを求める奇妙な声を聞くようになる。オカルトっぽい展開は「放送禁止」ではおなじみだが、やがて4人の関係性は取材クルーたちが想像していた以上に複雑怪奇であることが浮かび上がる。

それぞれが夫が殺したと泣きながらに語る3人の妻たち(『放送禁止 ぼくの3人の妻』) [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会
それぞれが夫が殺したと泣きながらに語る3人の妻たち(『放送禁止 ぼくの3人の妻』) [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会

3人の妻を持つ男性は「自分が家族を守る」と断言し、怪奇現象の謎を解き明かそうとするが、こうしたきれいごと発言には別の事実が隠されているのもシリーズのパターンである。耳なじみのいい甘い言葉ほど、疑わしいものはない。

夫がどんどん怪現象に追い詰められていく(『放送禁止 ぼくの3人の妻』) [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会
夫がどんどん怪現象に追い詰められていく(『放送禁止 ぼくの3人の妻』) [c]「放送禁止 ぼくの3人の妻」製作委員会

フェイクドキュメンタリーブームと社会の不穏さはリンクする

これまでフェイクドキュメンタリーは何度かブームが起きている。数多くの類似作を生んだ『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』が製作された1990年代には、湾岸戦争が起きている。「放送禁止」の放送が始まったゼロ年代は、米国で起きた同時多発テロのニュース映像が世界中に衝撃を与えた。

とある隣人トラブルに隠された真実とは?(「第4話 放送禁止4恐怖の隣人トラブル」) [c]2008 EAST
とある隣人トラブルに隠された真実とは?(「第4話 放送禁止4恐怖の隣人トラブル」) [c]2008 EAST

長江監督と並ぶ、フェイクドキュメンタリー界のもう一人の重要人物である白石晃士監督のオリジナルビデオ作品「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」は、福島第一原発事故の記憶が生々しい2012年にシリーズが始まった。不穏な社会背景が、フェイクドキュメンタリー人気の背景にはある。

現代社会に適応できない者たちが集まった癒しの施設“しじんの村”を取材する(「第5話 放送禁止5しじんの村」) [c]2008 EAST
現代社会に適応できない者たちが集まった癒しの施設“しじんの村”を取材する(「第5話 放送禁止5しじんの村」) [c]2008 EAST

コロナ禍を経て、復活を果たした劇場版『放送禁止 ぼくの3人の妻』は、これまでのシリーズ未見者でも、考察系サスペンスやヒトコワ系ホラーのおもしろさに魅了されるに違いない。登場人物たちの発言内容はどこまで正しいのか、台詞は都合よくカットされていないか。真相を知る手掛かりは映像のなかに映り込んでいないか。目を凝らしてスクリーンに向き合う、98分間になるはずだ。

一人の映像ジャーナリストと夫からのDVに悩む女性との記録(「第6話 放送禁止6デスリミット」) [c]2008 EAST
一人の映像ジャーナリストと夫からのDVに悩む女性との記録(「第6話 放送禁止6デスリミット」) [c]2008 EAST

フェイクニュースが飛び交う現代において、リテラシー能力を磨く格好の作品ではないだろうか。

文/長野辰次

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